劇伴の性質を持つゲーム音楽において、欠かすことのできない作曲技法があります。物語上の演出とリンクさせる「ライトモチーフ」です。クラシックではワーグナーの楽劇が代表的で、現在の映画やドラマの音楽に引き継がれています。

『FF7』の場合、キャラクター初登場の時に「エアリスのテーマ」「ティファのテーマ」など固有のメロディが与えられ、その後にあるで人物に関わる重要な場面でバージョン違いを使います。その曲調の違いによって物語上でどのような変化が起きたかを表現する手法です。

膨大な曲数を生み出す「ライトモチーフ」の手法
『リメイク』『リバース』ではオリジナルの植松氏によるテーマ曲をベースに、場面に応じたアレンジを加えていくライトモチーフの手法を全編にわたって使いました。

約300曲近くはある楽曲全てをいちから考えているわけでは無く、この場面には人物AとBがでるので、メロディAとBを組み合わせて雰囲気に合わせたアレンジに、という考え方で多くの楽曲が制作されています。



オリジナル版の場合「バレットのテーマ」と「裏切り者の烙印」の違いが分かりやすいでしょう。「バレットのテーマ」はアバランチのリーダーとして堂々とした勇ましいリズムで奏でられていますが、故郷のコレルで使われる「裏切り者の烙印」の方では落ち着かない不安定な雰囲気に。

『リメイク』『リバース』では主要なカットシーンのほとんどに各人物のテーマをライトモチーフとして使い、『リメイク』の「サウンドトラックプラス」収録分を含めた「エアリスのテーマ」のバリエーションは15曲にも上ります。

『リバース』ではオープンワールドを表す旋律としてオリジナルのフィールド曲「メインテーマ」を用い、各エリアごとの特徴を反映したアレンジと、戦闘開始でスムーズに移行する「Battle Edit」が用意されています。


先に出す方では断片または不完全な形で使い、クライマックスのところで全てがそろった曲にするという方法もあります。ナナキだと神羅ビルの出会いで「レッド13のテーマ」、コスモキャニオンで「星降る峡谷」「偉大なる戦士」という形で3曲収録。最初の「レッド13のテーマ」では主旋律が鳴らず、ベースのリズムにミステリアスな和音だけです。彼がコスモキャニオン出身だとわかり、素顔が判明して初めて明確なメロディが出る仕組みです。


これを生かしているのがセフィロスのテーマ「片翼の天使」と「J-E-N-O-V-A」で、直接的に戦うことになるのはかなり後であっても、物語中で謎が提示される場面には短いフレーズを鳴らし、気配を感じさせる演出を施します。ジェノバ関係の敵と戦うことになるニブルエリアでは至る所にフレーズが組み込んであるので、じっくりと聞き込んで探してみてはいかがでしょうか。

これは伏線として機能させることも可能で、一見何もなさそうな場面にも秘密を匂わせることができます。『リメイク』の時点ではシナリオ上明示していませんが、「リーブの苦悩」にとあるフレーズが入っていて、『リバース』に先行して関係性を表していました。


「タークスのテーマ」のようにグループで旋律を共有する場合は、演奏する楽器で人物の個性を表します。『リメイク』でレノとルードを種類の違うエレキギター2本、『リバース』で手合わせするイリーナとツォンにはピアノとサックスが割り当てられています。

ミュージカル登場人物が別々の旋律を歌うように、複数のライトモチーフを組み合わせて交錯する場面を表す方法もあります。『リバース』ではこの組み合わせを『リメイク』以上に多用しており、ゴールドソーサーではデートイベントで各キャラのテーマとゴールドソーサーのメロディが交互に流れていたので印象に残っているのではないでしょうか。


グラスランドの戦闘曲「FFVIIメインテーマ Battle Edit」は「メインテーマ」の旋律と「闘う者達」の8分で333322のリズムを組み合わせたマッシュアップのような構成。ライトモチーフは元曲が明らかであればリズムだけを抽出しても成り立つので、フィールドとバトルシーンの垣根が無いことを音楽でも表している、ということになります。

ゲーム上では音楽以外にも様々な音が鳴っているので、ちりばめられた全てのフレーズに気づくのはなかなか難しく、単独で聴き込むことで新たな発見があるはずです。音楽もまた物語の一部として、旋律の一つ一つにストーリーを感じることができるでしょう。それがライトモチーフの面白さなのです。

『リバース』サントラクレジット分析〜演奏してるのはこんな人
『リバース』の楽曲はサウンドトラックに収録されている分で約200曲、作曲と編曲でクレジットがあるだけでも33人に及びます。本編のクレジットでは演奏者の一部のみ載っており、サウンドトラックの冊子で全体を確認できました。とにかく生楽器演奏の多さに驚かされた本作ではどれだけの人数がかかったのか、やはり確認せずにはいられません。

ストリングスだけでも室谷浩一郎ストリングス(51人)、飛鳥ストリングス(27人)、今野均ストリングス(39人)、山本大将ストリングス(16人)、吉田篤貴EMO strings(40人)、伊藤友馬ストリングス(24人)の6団体、その他6人の計193人。一度に揃って演奏してはいないでしょうが、一つの作品にこれだけの弦楽器を使うのは、少なくともゲーム音楽としては異例では無いでしょうか。

続いて金管木管部門。クイーンズブラッド、チョコボレースで盛り上げてくれましたし、「ケット・シーのテーマ Hide and Seek」では分厚いビッグバンド、「太陽の楽園 -コスタでアモーレ-」では陽気なラテンサウンドを。「ろ・ろ・ろ・ローチェ!」「タークス:ツォン&イリーナ」はサックスの大暴れで印象に残っているのでは無いでしょうか。

トランペット:20
サックス:12
トロンボーン:16
バストロンボーン:6
チューバ:5
ホルン:26
オーボエ:2
フルート:3
ピッコロ:1
クラリネット:10
バスーン:4
複数楽器兼任:12
計:107

「ルーファウス歓迎式典 -新社長の歌-」で本格的なマーチングを奏でるのは吹奏楽部の名門、通称「オレンジの悪魔」の異名を持つ京都橘高等学校吹奏楽部です。「響け!ユーフォニアム」に登場する立華高校のモデルでもあり、海外公演も行う名実ともに日本一を誇る強豪校です。歌唱は同じく京都の西城陽高等学校合唱部。この2団体は個人表記はありません。

バンド系の楽器ではピアノ5人、ギター5人、ベース5人、ウッドベース1人、ドラム6人、複数楽器兼任4人、計26人。作曲でも参加している関戸剛氏の名前もあります。

ギターを始めテルミン、カリンバ、ボーカルなど多様な楽器でクレジットしている「non」は、鈴木氏のユニット「mojera」に参加しているアーティスト。同ユニットは2020年にデビューアルバム「OVERKILL」をリリースしています。

その他の楽器ではシタール、バグパイプ、ケーナなど民族楽器系が主に並び、アイリッシュフルートの豊田耕三氏など、他の作品でもよく目にする名前も。シタールでは作曲の碓井氏自ら演奏しています。ゴールドソーサーのスペシャルマッチで流れる「The fun DON't stop」と同曲「Battle Edit」のスクラッチを担当したのはDJの世界大会優勝の経歴を持つDJ IZOH氏。RemixでDE DE MOUSE氏も参加しています。それらを合わせて計18人。

ヴォーカル部門はBarzz(35人)、Cantus Caleidos(16人)に前述の西城陽高等学校を合わせて3団体、個別クレジットのヴォーカリスト32人、社内スタッフ17人、日英のコルネオを含むサンプリングボイス13人、計113人。

長尺のミニライブで驚かせたAKIRAこと最上川司氏はバンドマンから転身した異色の演歌歌手で、「世界初のヴィジュアル系演歌歌手」と銘打ち活動しています。第八神羅丸のジェノバ戦「J-E-N-O-V-A -誕生-」で聞こえるブルガリアンコーラスは、多くの劇伴に参加しているヴォーカリストKOCHO氏による歌唱です。

これら全体を合わせると457人に上りました。個別が無い京都橘高等学校、西城陽高等学校、「No promise to keep」シングル盤のconTIKIを合わせれば550人を上回るでしょう。演奏者以外にもレコーディングスタッフやゲームに実装するプログラマーも大勢います。

ゲームは映像面ばかりに注目が集まりますが、視覚と同時に聴覚も満足させるだけの進化を遂げています。プレイしていて気になった曲があったなら、奏者の熱気をより近く感じられるサウンドトラック版の音を是非聴いてみて下さい。

Playlist 1:Sort by Leitmotive
Spotifyで配信中のオリジナル版、『リメイク』、プレ版『リバース』のトラックから主要なライトモチーフで分類しました。

Playlist 2:Arranged Tracks Collection
アレンジCDや別作品に登場したトラックを集めました。『FF7』単独のアレンジ作品だけでも5枚あり、楽曲面でも人気の高さがうかがえます。

Playlist 3:Chocobo Collection
シリーズを代表するライトモチーフと言える「チョコボのテーマ」の歴代アレンジを集めました。四半世紀の歩みをたっぷりご堪能下さい。

ちなみに『リバース』ではSpecial edit収録分を含めて全26曲。未収録のイベント曲もあるので、後にも先にも本編史上最多のアレンジ数です。「チョコボカップ Final Lap」は「サントラ ver.」では一部カットされており、デラックスエディション付属のミニサントラでイントロアウトロが入ったフルバージョンを聴けます。ミニサントラは全曲2ループの特別編集なので、サントラ購入後も大切にしましょう。