2022年全国高等学校ゴルフ選手権、通称「緑の甲子園」で史上初の団体戦男女“アベック優勝”を成し遂げた宮崎の日章学園高等学校。強くなった秘密はどこにあるのか。新しい春を迎えるゴルフ部を訪ねた。

みんな仲良く、根性で! 日章学園の朝練に潜入

日章学園ゴルフ部の朝は早い。7時10分からの朝練のため、6時45分を過ぎが頃から部員たちがグラウンドに集まってくる。

そこに真っ赤な車で現れたのが、監督の菊池美幸だ。部員からは「みゆき先生」と慕われている。

部員たちは、車が通るたびに「おはようございます!」と大きな声で挨拶。「挨拶、返事、感謝」こそ、強さにつながるキモなのだ。

「会う方全員に挨拶、犬にも挨拶するように言っています(笑)」

朝練は、2007年、菊池が監督に就任したときから行っている。当初ゴルフをまったく知らなかった菊池が、自分にできることは何かを考えて始めた。

「一緒にいる時間を共有したかった。以前と変わらず週3回、一年中やっています。(卒業生の)柏原明日架がナショナルチームから持ち帰ったことを共有してくれたりして充実してきました。月曜日は静かな体幹トレーニング、水曜日は割とハードなトレーニング、金曜日はジムで行います。自主的に毎日やっている子もいますよ。とにかく続けさせて、故障のないようにしたい。体が硬い子が高1から始めても柔軟性はつきます。何より皆でやることが大事。仲間を意識することが、うちが大事にしていることなんです」

グラウンドの外から優しく見守っていたかと思えば、アーティストばりの赤い拡声器を持って気合いを入れる場面も。「赤は元気が出そうで好きなんです」と菊池。

「きついことをやっていくなかで変わっていく。根性論は否定されがちだけど、最後はそういうことも必要です。卒業後に子どもたちが思い出してみて心に残っているのはそういうところだったりしますよ」

昨年のプロテストに合格し、今春卒業の菅楓華も朝練に参加していた。

「いつも皆で刺激し合っています。ゴルフだけではなく人間性も高めてくれた3年間でした。リベンジノートはラウンド中の技術やメンタル面で良いことも悪いことも書きます。試合前などに見直すことで、自分を見つめ直せるんです」

ツアーでも活躍するプロたちを輩出してきた日章学園。なかなか勝てなかったゴルフ部を”緑の甲子園“で史上初団体戦男女アベック優勝に導いたみゆき先生の信念とは――

プロゴルファー13人を輩出した教えとは?

「私の教え、時代に合ってないとも言われるんです」と話すのはゴルフ部監督を務める菊池美幸。体
育教諭でもある菊池は爽やかなスポーツウーマンに見える。

彼女に“昭和”な考え方があるのか、いや、そもそも“アベック優勝”という言葉自体が、昭和風なのではないかと思いながら話を聞いていると、「やっぱり、時代が変わっても変わってはいけないことはあると私は思います。頑固なのかもしれません」ときっぱり。

「うちは練習環境が本当にいい。本当にありがたいです。でも、ではなぜ今まで勝てなかったのかと。人間ってやっぱり、ぬるま湯につかるとぬるくなるんです」と宮崎弁を交えて話す菊池。

確かに日章学園の練習環境は抜群だ。月曜日は宮崎国際GC、水曜日はUMKCC、木曜日はハイビスカスCC、土曜日が青島GC、日曜日が座論梅GCで薄暮ラウンドを、授業が7限まである火曜日は練習場のいけうちゴルフで、すべて無料にしてもらっている(金曜日はオフの日)。コースもゴルフの大会も多い宮崎はジュニア育成にも協力的なのだ。

菊池は学生時代、ずっと剣道で心身を鍛えてきた。教師となり剣道部、バドミントン部、女子ボクシング部の顧問を経て、ゴルフ部の監督に“抜擢”された。学校がゴルフ部に力を入れようとしているときだった。

「私はゴルフがわからないし興味もない。止まっているボールを打つことの何が楽しいの、打って入ればいいんでしょうって(笑)。最初は書類を書くだけでいい、教えるプロもいる、という話でした。でも見ていると、やっぱり子どもたちが可愛い、となるんですよ」

菊池の“部活動魂”は、もっと部活動の真髄を知ってほしいと思うところからきている。

「最初の頃は、親御さんたちにも、何しに来たんですかという感じで見られたりしました。クレームも多いし、何という競技だろうかと、最初は病みましたよ。私自身にも迷いがありました。いろいろな部活を見てきましたけど、今までにない感じで。正直、親御さんたちに、“自分の子どもだけ”という雰囲気もあり、試合でクラブメーカーさんと生徒のやり取りを見て、やってもらって当たり前という感覚に違和感があった。でも、子どもが成長していく段階は何の部活でも競技でも変わらないと考えたとき、一番必要なのはその子の本質的なものだと。どこに行っても可愛がってもらえる人間になってほしい、子どもたちに自立してほしいんです。私は人間性を重視する環境で部活をしてきたんだから、と改めて思いました」

親や生徒ともケンカをたくさんしたという。

「プロ養成所ではなく部活なんです。だから生徒は皆平等です。私は夏場の体験入学で最初に『部
活として動くから勝手なことはできない、思いやりを大事にしてください』と話をします。もしイ
メージが違っていれば、別の学校を考えていただいたほうがいいと考えているんです」

こうして少しずつ、菊池が思う部活になってはいったが、今度は「勝てない」ことを言われ始めた
という。ここでは菊池のアスリート魂が発揮されていく。

「どうやったら勝てるのかなといろいろ考えました。私は結構、型にはめるんです。考え方やこう
すべきだということを植え込みます。最近、そういう人はダメな指導者だと言われたりしますけど、
私はいまだに『根性論』で物事を言います。ゴルフでも最終的にはそこだと思うからです」

本人が、どうしても勝ちたい、頑張らないと、という気持ちを持たないと勝てないと菊池は言う。

「もちろん、そこには人への思いやりなどが伴っていないといけません。でも競技には、やはり勝た
ないといけないのです」

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この菊池の思いが理解され始めたのは7、8年くらい前からだという。そこに一体何があったのか。2024年4月2日号の週刊ゴルフダイジェストかMyゴルフダイジェストでご確認ください。

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[https://my-golfdigest.jp/weeklygd/p148238/]

PHOTO/Shinjiro Matsumoto、Shinji Osawa、Hiroaki Arihara
THANKS/いけうちゴルフ