ゴルフに関する様々な理論に精通するインストラクター・大庭可南太が、PGAツアー選手に見る「左に振る」というワードについて解説する。

こんにちは。ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さてPGAツアーではいよいよマスターズが近づいてきましたが、今週もPGAツアーで最近トレンドになりつつあるレッスン用語について解説したいと思います。

前回紹介した「シャローイング」は、おそらくはクラブがダウンスウィングで外から下りてくる状態を防止するための概念ではないかという解説をしました。つまりクラブヘッドの軌道が「カット軌道」になりすぎないようにするための方策で、スライスが強いプレーヤーをストレートからドロー寄りに矯正する効果が見込めるものでした。

しかし、ある程度パワーヒッターになってくると、ドローが強すぎるというのも問題で、特にドライバーショットになってくると昨今のPGAツアーでは曲がり幅の少ないフェードを主体とした選手が多数派になっています。

そうした影響もあってか、PGAツアーや欧米の指導者がよく発しているワードが「左に振れ」というものです。

「左に振る」ってどういうこと!?

私自身がこのワードを耳にしたのは、3Dモーションキャプチャー「ギアーズ」開発者のマイケル・ネフのレッスンを受けたときでしたが、要は「クラブの軌道はストレート(ゼロパス)が理想だけど、君はインパス(イン→アウト)が強いからもっと左に振らないと」というものでした。

はじめは単に「クラブヘッド軌道をカット寄りにしろ」ということかと理解していたのですが、どうもそういうことではなく「両手を左に振っていくことでヘッドをストレート軌道にしろ」ということのようなのです。

どういうことなのかを連続写真で見てみます。

画像Aはトップからインパクト付近までの連続写真ですが、このとき両手の軌道に着目すると、インパクト時点の両手の位置を目標と考えると、トップの時点ではそれは左腰の前あたりになります。つまりトップの状態から「左腰めがけて両手を下ろしていく=左に振る」意識で、ストレート軌道のスウィングになるということなのです。

このとき写真(中)のハーフウェイダウンの状態では、右肘が身体の前に入ってくることで、両手と体幹の距離が保たれていますが、インから下ろす意識が強すぎると両手をもっと体幹の近くに引き付けて下ろさなければならず、窮屈なスウィングになってしまいます。それではパワーを発揮できないというのです。

実は人体の理にかなっている?

これを意識すると、とんでもなく左に飛んでいきそうに感じるのですが、実際に打ってみるとストレートからややフェードのボールが出ました。マイケル・ネフいわく「そりゃそうだよ。両手の軌道をストレートに矯正したんだから」として、「クラブヘッドの軌道は本質的には両手の軌道で決まるんだから、小手先でクラブを操作しようとしてもうまくいかないよ」というのです。

さらにボールの弾道だけではなく、なんか振っていて楽というか、フォローでしっかり両腕が伸びて、フィニッシュまでスムーズに振り切れる感覚になったのを覚えています。つまりカラダにも優しいのではないかと感じたのですが、実は人体の構造的にも理にかなっていると思うのです。

いったん通常のゴルフスウィングから離れて、上半身を正面に向けたままトップからダウンにかけて両手が体に対してどのようなポジションを移動しているかを考えてみます。トップでは両手は右肩と首の中間あたりに位置し(写真左)、ハーフウェイダウン付近で体の中央、つまりおヘソの前あたりを通過して(写真中)、インパクト以降にかけては体の左腰の付近に到達します(写真右)。つまり剣道の「袈裟(ケサ)斬り」のような動作になります。

やってみるとわかるのですが、右肩の上に上げたものはどうしても左側、つまり体を挟んだ対角線側に下ろさないと窮屈になるか、自分の体に当たってしまいます。

これを上半身だけ右側にねじった状態で行うと、普通に両手はイン側からアウト側に向かう、つまり普通のゴルフスウィングになります。「左に振る」と言われると、クラブ自体を左方向に振っていく印象を受けますが、前回紹介したデシャンボーのレクチャーもそうですが、海外では「クラブを持った両手」をどのように振るのかといった趣旨の指導があることにも注意が必要です。

クローズドスタンスドリル

とはいえ、この「上半身を右側に捻った状態のままクラブを下ろす」というのがなかなか感覚として掴みづらいので、ここでドリルを紹介します。

まず写真のように、極端なクローズドスタンスにします。はじめのうちはその度合いは少なくても良いのですが、最終的には上半身が目標の真後ろに向くくらいでも打てるようになります。

あとは右肩に両手をあげてトップを作り、左腰に両手を振り下ろしてインパクトで終了です。左腰に両手を下ろした時点で、両腕がしっかりと伸び切る状態を作ることが重要なので、これ以降のフォローを取ろうとしないことです。ボールの行方も追わないでほしいのですが、このようにするとほぼストレート軌道のボールになるはずです。

インパクトを迎えた以降、両手はそれ以上動かせないはずですので、そこで終わって構わないのですが、右手が左手の上に来ている(右手が左手を追い越した)状態になっていれば、クラブヘッドだけが目標方向に振り出されるはずです。

これで「左に振る」感覚が掴めたら、普通のスタンスで打ってみます。ダウンスウィングと同時に上半身が目標方向を向いていくことなく、しっかりと下半身との「分離」ができていれば正面にボールが飛ぶはずです。しっかり両腕が伸びたフォローになる、「振り切れる」感覚が実感できると思いますので、ぜひお試しください。