叔父の伊澤利光と同じ場所、同じ師のもとでゴルフのイロハを叩き込まれた秀憲は、自身が成長するにつれて、叔父である利光が「人間じゃない感覚があった」と言う。日本のプロゴルフ界の中心にいた偉大なプロゴルファーを誰よりも一番近くで見ていた秀憲は、伊澤利光像を振り返ると、自身との共通項に気づいた。「自分で作り上げる」。ここに多くのプロゴルファーを輩出した「伊澤塾」の神髄が見えてくる。

伊澤塾は子・利光が1期生で、孫・秀憲が最終世代

「とっくん! とっくん! 今からパター打つから見て!」

廊下にパターマットを広げて秀憲は利光に弾んだ声で呼びかける。この時の秀憲にとって利光は目じりを下げて微笑むやさしい叔父さんだった。

秀憲は2歳からクラブを握り始め、4歳の頃には祖父の利夫から伊澤塾の門下生として利光と同じように汗を流した。

「幼い時はあまり凄さとかはわからなかったのですが、僕もジュニアゴルファーとして競技に出るようになってから段々と叔父の偉大さを感じました」と利光への印象を語った。ツアー通算16勝という輝かしい成績を上げている叔父の偉大さは、自身が真剣勝負の世界に踏み入れた時にふつふつと湧いてきた。

「成績の数字以上に凄さを感じる人ですよね」

2001年のマスターズは利光が世界のゴルフファンを魅了した。そして秀憲にとっても強烈な思い出のひとつになっている。

マスターズのリーダーボードにタイガー・ウッズ、デビット・デュバル、フィル・ミケルソン……そして伊澤利光の名が……。当時、4位タイという日本人歴代最高順位を記録した。小柄な体格からは想像がつかない天高く吹き上がり、どこまでも飛んでいく打球にパトロンだけでなく、出場する選手たちにも強烈なインパクトを与えた。

利光のよどみなく流れる美しいスウィングを見たアーノルド・パーマーは「キング・オブ・スウィング」と称した。

そんな利光が日本ゴルフファンに喜びと感動を与えてくれた場面を当時、小学4年生の秀憲は肌で体感していた。ドライビングレンジで黙々と利光が打っていると、一目見ようと打席の後ろには人だかりが出来ていた。その異様な光景が強く脳裏に焼き付いていた。

練習後、あまりにも凄い打球を打つため、競技委員会からクラブ、ボールを検査されるほど強烈だった。練習しているだけでタイガー・ウッズが見に来た。

「これって、他の日本人選手ではなかなかないことじゃないですか。だから僕のなかでは人間じゃないと感覚がありました」

そんな偉大な叔父と同じ師匠の下で日夜、ゴルフの基礎を叩き込まれた秀憲は、伊澤塾の最終世代にあたる。

伊澤塾の門下生は、みんな飛ばし屋になる

第一世代は、利光、西川哲、小山内護、立山光広、細川和彦ら、プロゴルファーとして活躍する門下生がいた。

そんな伊澤塾生には共通点がある。それは「莫大な練習量の中で、自らが色々なことを試して自分なりの型を創り上げてきていること」。全員が同じ練習メニューをこなしていく中で、「自分自身で創り上げる」という取り組み方が伊澤塾の伝統的なメソッドだった。

秀憲は「どの時代でも、自分で試行錯誤しながらスウィングの組み合わせを見つけること。この部分は変わらないことだと思う」と言う。

伊澤塾の特徴として「飛ばし屋が多い」。しかし、その部分は共通しているが、十人十色のスウィングで大飛球を描いている。これもすべて各々が考え辿り着いた飛ばし方である。試行錯誤して見つけることを塾長の利夫は説いてきたわけではない。第一期の利光から最終世代の秀憲まで、世代が変わってもこの部分は共通している。

「叔父と話をすると、シニアになった今でも昔と同様に試行錯誤を続けていたことに驚いた」と言う。利光はまだプロデビューして間もない頃、尾崎将司のもとでジャンボ軍団として技術を磨いていた時期があった。しかし、賞金王を獲るにはさらに自分で新しく何かを生み出さなければならないと考え、ジャンボ軍団を離れ、再びひとりで黙々と鍛錬を重ねていた。自分自身で創り上げていくことを突き詰めた結果、2001年に年間5勝を挙げ、尾崎の年間獲得賞金記録を塗りかえ賞金王に輝いた。

代々受け継がれている伊澤塾のメニューにはゴルフ上達のためのもっとも重要なことが含まれている。それは「基礎の土台の上に自分の型をどのように作れるか」。これは人から教えてもらうのではなく自分で試行錯誤を繰り返し、自分自身のものにすること。この取り組む姿勢が伊澤塾のDNAとして秀憲にも継承されていた。

【プロフィール】
伊澤秀憲(いざわひでのり)/1991年6月生まれ。神奈川県出身。叔父伊澤利光の父であり、祖父の利夫氏に2歳からゴルフの英才教育をうけながら、ジュニア時代は同世代の松山英樹、石川遼らとしのぎを削ってきた。YOUTUBEチャンネル「アンダーパーゴルフ倶楽部」にてショートゲームを中心とした動画を配信中!

【購読案内】
「秘伝!伊澤塾のDNA」はゴルフダイジェスト編集部公式メールマガジン(購読無料)で毎週金曜日に配信しています。購読をご希望の方は、WEB「みんなのゴルフダイジェスト」内にある編集部公式メールマガジンのバナーをクリックし、購読登録をお願いします。