文●石井昌道 写真●三菱

 アメリカでは新車販売台数の上位を独占、ASEANや中東などでもポピュラーな存在であるピックアップトラック。日本では2000年代に入ってから絶滅危惧種扱いで、一部マニア向けに限定的な販売が行われていたぐらいだ。

 ところが、2017年にトヨタがハイラックスを発売したところ、意外なほど脚光を浴びて現在でも1万台/年の販売台数を記録。ポピュラーとまではいかないものの、新たなライフスタイルカー、流行のSUVのなかの個性的な一種的な存在となった。

 そこで三菱は6代目トライトンの日本導入を決めた。2005年〜2011年に4代目を販売していたが、その頃は思うように販売台数を伸ばせなかったが、市場の変化を機に復活させたのだ。三菱にとってトライトンはグローバルでみれば大黒柱であり、パジェロで培ったヘビーデューティーなイメージを国内でアピールするにも好都合だ。

トライトン GSR

 トライトンが採用するラダーフレーム構造は悪路走破性が高く、日本でもそのヘビーデューティな雰囲気で人気が高い。トヨタ ランドクルーザー、スズキ ジムニー、ジープ ラングラーなどは代表格。その一方で、ランドローバー レンジローバーやメルセデス・ベンツ Gクラスなど本格オフローダーでありながらプレミアムなモデル達はここ1〜2世代で乗用車同様のモノコック構造に改めながらハイテクなどで悪路走破性は確保し、オンロードでの快適性と両立を実現した。

 たしかにラダーフレーム構造のモデルは、オンロードでは上物のボディとフレームがバラバラに動いている感覚があって、快適とは言い難いことが多い。最近ではずいぶんと性能があがってきたものの、それでもカッコイイけど乗り心地や操縦性は妥協するという、多少の“痩せ我慢”は必要だったのだ。

 ところが、トライトンに試乗してみるとオンロードでのスムーズで快適な走りに驚かされた。

 いままで乗ったどのラダーフレーム構造のモデルよりも洗練されていると言っても過言ではない。そのもっとも大きな要素は20年ぶりに刷新された新開発のラダーフレームで、従来に比べると曲げ剛性60%、ねじり剛性40%の向上。リアサスペンションは古典的なリーフリジッド方式だが、従来は5枚の板バネで構成されたものを3枚に減らしてフリクションを減らしつつ、1枚ずつの厚みや幅を持たせるとともに取り付け部の工夫で剛性を高めて、操縦安定性を確保しながらしなやかに動くように開発された。

トライトンが採用する新開発の高剛性ラダーフレーム

 フレームとサスペンションという本質を磨いたのが功を奏したのだが、それとともに注目なのが三菱独自のAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)が採用されたことだ。

 ランサー・エボリューション用に開発されたAYCはヨーモーメント(曲がる動き)をコントロールするもので、コーナーで素早く曲がりながらも安定性を確保する。

 ランサー・エボリューションではモータースポーツでの性能向上を狙ったもので、旋回Gや加減速Gなどから理想的なタイヤのグリップ力を引き出す。現在ではアウトランダーやエクリプスクロスなどで継承。どんな場面でもヨーをコントロールすることで、スムーズで快適な走りを実現している。

 ピックアップトラックはハイテクとは無縁というイメージがあるのでトライトンでAYCが採用されたことに最初は驚いたが、乗ってみたら深く納得した。ドライ路面のコーナリング性能などは問われないイメージのピックアップトラックが、コーナーをスムーズにクリアしていく。スポーツカーのように攻めるためのものではなく、あくまで曲がりたいときに素直に曲がりやすくしてくれるアシストといった感じで、でしゃばり感もない。フロントタイヤのグリップに余裕があってステアリングの舵角が少なくても、綺麗に曲がってくれる。

 機構的にはディファレンシャルを制御するものではなく、フロントのブレーキ制御のみなのでAYCとしてはシンプルだが、これは車両特性を鑑みて検討、テストをした結果によるものだという。リーフリジッドのリアサスペンションの能力を考慮し、リアを安定性を大切にしながら曲がりやすくするにはこれぐらいがちょうどいいのだ。

トライトンのAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)作動概念

 また、パジェロで開発されたスーパーセレクト4WD IIが採用されているのもオンロードでの走りを快適にしている。フルタイム4WDでオンロード用の4Hを選択しているときは、前後駆動配分のセンターデフにトルセンデフを使用し、タイトターン・ブレーキング現象を抑えている。前後駆動力が直結された4WDをドライ路面で走らせると、ステアリングを大きく切ってタイトターンを曲がったり車庫入れしようとすると、前後のタイヤの回転差を吸収できなくて、異音が発生するとともにブレーキをかけたような動きになる。

 トライトンは前後直結ができて悪路走破性を高めているとともに、センターのトルセンデフでオンロードも快適に走れるわけだ。もっと都市型4WDやプレミアムカーのように電子制御を増やしていけばトレードオフの性能の両立を図ることも可能だが、トライトンはプリミティブな技術を基本に、然るべきところに三菱独自のノウハウを投入しているところが賢い。

スーパーセレクト4WD IIのモードごとの作動状況

 結果的に、ハードな悪路走破での性能や耐久性、整備性、コスト性などを確保しながら、ライフスタイルカーとしても満足いくものとなっている。全長5360mmの大きなボディはガレージ事情など物理的な制約はあるものの、雰囲気や憧れで手を出しても後悔することはないだろう。

著者:石井昌道(いしい まさみち)