e-4ORCEが実現した新次元の操る楽しさを体感!

電気自動車時代の開幕を告げた日産が自信を持って世に送り出した電動SUV「アリア」に高性能モデルが登場。6月の発売が予定されている。伝統の「NISMO」の名が与えられるだけに、走りは良くなっていて当たり前、どこまでスペックアップしているのか? がこのモデルの見どころだ。目の肥えた「走り大好き」ユーザーたちの期待に応えることができるのだろうか?

●文:川島茂夫 ●写真:澤田和久

NISSAN 新型アリア NISMO 先行試乗リポート

日産自慢の最先端技術を
体感できる格好のサンプル
 リーフに続く量販BEVの第二弾として誕生したのがアリアだ。ベーシックな2BOXのリーフに対して、アリアは全長4.6mのミドルSUVとして開発されている。静粛性の高さやコントロール性のよさ、優れた瞬発力など、BEVの特徴を網羅的に備えた設計が与えられているが、中でも精密な駆動力制御を活かすことで、操安性や乗り心地の向上を図る「e-4ORCE」は、積極的にアリアを選ぶ大きな理由にもなっている。そんなアリアの走りの魅力をより高めてラインナップに加わるのが、このアリアNISMOだ。
 NISMOは、日産のモータースポーツ部門を担うリアルチューナーとしての活動が有名だが、そのセンスと思想を継承し、市販車に落とし込んでいるのが、NISMOが手がけるカスタマイズカーの特徴だ。現行モデルではノート オーラからGT-Rまで全5モデルを展開していたが、その最新ラインナップとしてアリアNISMOが投入される。
 モータースポーツのイメージからすると性能至上主義のクルマと思いがちだが、NISMO車の特徴は操る手応えと安心感の両立であり、動力性能も操縦性、さらには乗り心地でも質の向上を狙っている。サーキットモデルというよりも、どちらかと言えばスーパーツアラー的なモデルといえる。
 アリアNISMOでも、そんな基本は変わっておらず、走行性能面の変更はプログラムが主体となっている。機械的構造部での変更箇所はサスペンションやブレーキパッド、タイヤくらいだ。

専用プログラムの採用で
出力とレスポンスを向上
 NISMOチューンの中核となる制御系プログラムの変更は、加速特性や最高出力だけでなく、e-4ORCEにも及ぶ。システム最高出力は290kWから320kWに強化され、さらに幅広い回転域でのトルク特性が向上したことで、より中高速の加速性能が高まっている。前後のトルク配分とブレーキ制御による4輪への駆動力配分を能動的に制御するe-4ORCEの基本的な動きはベース車と変わらないが、コーナリング状況に応じて後輪の駆動力を大きくすることで、操舵追従性を高めているNISMO専用チューンが施されている。
 赤をアクセントとした内外装は、控え目ながら一目でNISMO車を印象付ける。所有欲を満たしてくれるアプローチは好感。ほかにも空気抵抗の軽減とダウンフォースの強化を図ったエアロチューンや、ハードなスポーツドライビングにも対応したシート設計など、オリジナルのイメージを崩さず品よくスポーティな味わいを深めている。内外装から受ける印象と走りの方向性が一致していることもアリアNISMOの特徴だ。
 試乗した印象は、アリアのベース車やエクストレイルといったe-4ORCE搭載モデルと比較すると、ハンドリングは少しバランスを崩した印象を受ける。具体的には操舵追従や加速しながらの増舵による回頭性を強めることで、ハンドリングの切れの良さを強く主張。一言でいえば「切れすぎる」ハンドリングだ。ただ、こう感じるのは最初の初期反応だけで、危うさは感じない。安心して操る手応えを楽しめる、アリアらしい走りの魅力は共通だ。

NISMOモードで
じゃじゃ馬的な味付けに
 動力性能については、走行モードに新たに追加されたNISMOモードがちょっとじゃじゃ馬的。蹴り出し感が強めなドライブフィールだ。そして、その他の走行モードでは滑らかで従順な特性に変貌を遂げる。安全を担保しながら、冒険気分も味わうことができる、腕自慢にとってはなかなか面白いファントゥドライブも楽しめる。
 開発陣は明言していないが「手応え」あるいは「刺激」の演出がアリアNISMOの性能設計の要点と考えられる。例えば、ボーズ・オーディオ採用車に採用されたEVサウンド。エンジン音の代わりに高性能BEVらしい走行音で、加減速を盛り上げるのが狙いだ。
 踏み込み初期トルクを大きめに取ったNISMOモードも、必要以上に操舵追従の鋭いハンドリングも、クルマに宿る限界性能を引き出すために必須とは思わないが、こんな尖り具合もファントゥドライブの妙味のひとつと感じさせてくれる。質と安全のバランスの良さが重視される時代の、新しいファントゥドライブを予感させてくれる一台だ。

アリアNISMO B9 e-4ORCE 価格:944万1300円

主要諸元 ◦全長×全幅×全高(㎜):4650×1850×1650 ◦ホイールベース(㎜):2775 ◦車両重量(kg):2210 ◦パワーユニット:前後モーター(フロント:160kW/300Nm、リヤ:160kW/300Nm) ◦駆動用バッテリー:リチウムイオン電池(352V・91kWh) ◦ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F&R) ◦サスペンション:ストラット式(F)マルチリンク式(R) ◦タイヤ:255/45R20

前後バンパーやオーバーフェンダー、リヤデッキスポイラーなどもNISMO専用となることで、標準仕様車との差別化がされている。
黒を基調としたインテリア。各所にレッドアクセントを配することで、上質でスポーティーな空間を楽しませてくれることも魅力。
NISMOモードを備えたことで、クルマを操る魅力もアップ。それでいて、むちゃをした運転でも破綻させないという、電動車技術のセオリーもしっかりと守っている。コーナーを攻めたい腕自慢にとっても魅力的な一台に仕上がっている。
NISMO専用プログラムにより、システム最高出力は290kWから320kWに強化。駆動用バッテリー容量が91kWhの「B9 e-4ORCE」(試乗モデル)と、66kWhの「B6 e-4ORCE」の2グレードが設定されている。
タイヤはフォーミュラEの知見を活かして専用開発されたミシュラン・パイロット・スポーツEVの20インチをインストール。サスペンションは基本形式こそベース車と共通だが、旋回力の限界とコントロール性にこだわった専用チューンになる。

著者:内外出版/月刊自家用車