【「不登校」「ひきこもり」を考える】#22

 あなたの発言後にこの類の言葉、いわゆる「BUTワード」や「無言」が相手から返ってくる間は、相手はあなたから共感されたとは感じられていないというコミュニケーション上の「赤信号」が点灯中と認識しましょう。

④「でも」「だけど」と言い返してくる間はまだ口を開かない

 あなたの話の聴き方がまだまだ不十分で、共感がしっかりできていないと認識しましょう。子どもが気の済むまでまだまだ自由にしゃべらせることが大切です。人は会話において「共感してもらった」という実感が得られないと、まだ話している途中なのに遮られたという不全感が生じ、その後の相手の話がどんなにいい話だろうが、正しかろうが、もう頭に入ってこなくなるようにできているのです。

 逆に、「そうなんだよ」「わかってくれる?」といった「YESワード」が返ってきてはじめて、お子さんはあなたの意見を聴く準備ができたという「青信号」が点灯したと認識しましょう。そこで初めてあなたの発言ターンが回ってきたと考えるべきです。いくらあなたの話の内容が正しくとも、信号無視ではコミュニケーションにおいても“事故る”だけです。

⑤会話ができないならLINEだけでもいい

 面と向かって話すのが苦手なら、LINEでコンタクトを続けるのも良い手です。会話するとケンカになる親子もLINEならコミュニケーションできるケースも少なくありません。親子なのに味気ない、不自然だと思われる気持ちはわかりますが、それまでが自然なコミュニケーションだと思っていたのは親の側だけで、お子さんにしてみれば一方的で不自然な親の言い分を押し付けられて苦しんでいたと理解したいものです。

 LINEでの親御さんの対応が適切であれば、いずれリアルのやりとりも無理なく進むことでしょう。逆にLINEなどは記録が残るので、何かメッセージを送った直後からまったく返事が途絶えたとか、非常に怒りくるったような返事が届いた……などという場合には、自分のやりとりを冷静に事後分析する貴重な材料にもなるでしょう。

 私の経験では、未成年の女性でしたが、親とのLINEのやりとりで「どうしてこんな無神経なスタンプを送ってくるのか信じられない」と泣き出した方がいましたが、親はまったく何の気なく軽い気持ちで送っただけと判明し、そこで互いの繊細さのあまりの感度の違いが「見える化」された形となり、初めて親御さんが「娘が本当はどういう子なのか理解が深まった」と驚かれていたこともありました。

⑥反応がなくてもまずは挨拶だけでも続ける

 親が挨拶しても子どもの反応がないと、「あいつは親をバカにしている」「挨拶だけの関係なんて、親子とは呼べないものだ」と怒る親御さんもおられますが、それも間違いです。反応があろうがなかろうが、挨拶は続けましょう。挨拶だけはできているなら、それはまだ命綱がつながっていると考えましょう。

 本当はお子さんは親の顔も見たくないと毛嫌いしている可能性だってあるのです。「だったら家を出ていけ!ここは俺の家だ」などと激昂される方もおられますが、出ていく力があるならとっくに出ていっていることでしょう。逆にそんな親を毛嫌いしているのに家を出ていけないほど自立する力が育っていないと理解したいものです。

 早く自立を促すため、一発逆転を狙ったように「無理にでもひとり暮らしをさせなさい」と荒療治を助言される専門家もおりますが、それがうまくいくのは感情不全の病理の軽い場合のみです。本人のこじらせた感情不全に手を差し伸べることなく形だけ家を無理に追い出しても、問題を起こして親が病院や警察などに呼ばれて、結局、本人がもっと傷つき心を閉ざすという悪循環もよく目にする光景ですので、それが「今」なのかは吟味が必要です。

 繊細な子は親の言動をとにかくよく見ています。親が傾聴・共感を学ぶ中で、たとえば挨拶のわずかな親の雰囲気の変化を感じ、それがきっかけで親子のコミュニケーションが復活する場合も少なくないのです。(つづく)

▽最上悠(もがみ・ゆう) 精神科医、医学博士。うつ、不安、依存症などに多くの臨床経験を持つ。英国NHS家族療法の日本初の公認指導者資格取得者で、PTSDから高血圧にまで実証される「感情日記」提唱者として知られる。著書に「8050親の『傾聴』が子供を救う」(マキノ出版)「日記を書くと血圧が下がる 体と心が健康になる『感情日記』のつけ方」(CCCメディアハウス)などがある。