◆JERA セ・リーグ 広島0―0巨人=延長12回=(19日・マツダスタジアム)

 戸郷はピンチでも動じず、堂々と右腕を振った。両軍無得点の4回2死一、三塁で坂倉を147キロ直球で三ゴロに仕留めた。一番のピンチを切り抜けるとうなずいた。7回106球を投げ、4安打無失点、文句なしの好投。2勝目とはならなかったが役割を果たし「コースにしっかり決まってましたし、誠司さんもいいように引き出してくれた」と汗を拭った。

 味方の得点を信じて淡々と腕を振った。4回の打球が左ふくらはぎを直撃するアクシデントにも動じなかった。7イニング目で最速149キロを計測した直球や宝刀フォーク、スライダーを織り交ぜ、走者を出しながらも要所を締めた。打者としても2つの送りバントを決めた。前回、12日の同じ広島戦(東京D)では5回4失点だったが「そこが一番良かったと思うし、やり返しができたか分からないですけど、いいイメージは与えられたと思う」と胸を張った。

 初の開幕投手を勝利で飾ったが、その後は思ったような投球ができずに白星もなし。前回の登板後、「悪い時に書き出したことを見比べた」と1年に1冊手帳を購入して書いている野球ノートを見返した。「気分の通り、イライラしている時はそういう文になったり。悪かったところとか修正点を書いている」と試合の反省などその時の思いをつづっている。「ふと見たくなる時がある」と過去の自分の言葉を見返し「出力を気にしすぎ。良い時は球速よりフォームや球の質を重視してた」とハッとした。

 チームをけん引するエースとして後輩投手を見守っている。母校・聖心ウルスラ学園で一緒に自主トレを行っている育成・笠島が戸郷家を訪れ「戸郷さんはいつもいろいろな物をくれる。この前『このボールペン書きやすいやろ? あげる!』ってボールペンをくれた(笑い)」。野球ノートを記入する愛用のペンを後輩にプレゼントしたのだ。「あいつとの自主トレも長いし、そろそろ出てきてほしい。厳しい世界だから頑張ってほしい」。自身だけでなく、時には厳しい言葉もかけながら後輩の面倒を見ている。

 チームは12回ドロー。戸郷の熱投もあり3連敗は免れた。「まだまだ上を目指すところはあると思うので」と満足はしなかったが、笑顔を見せた右腕。白星はお預けとなったが、野球ノートには前向きな言葉が並ぶに違いない。(水上 智恵)