巨人の若手選手の今を伝える「From G」。第2回はソフトバンクから加入した育成・舟越秀虎外野手(22)。昨季、ファーム非公式戦で90試合68盗塁を記録した俊足は、代走の切り札として活躍した鈴木尚広2軍外野守備兼走塁コーチの薫陶を受けて技術を磨く。支配下昇格、同コーチが背負った「背番号12」を目標に、足で沸かせる選手を目指す。また、鈴木コーチが、まな弟子が向き合う課題や今後の育成ビジョンを明かした。(取材・構成=小島 和之)

 自慢の快足を武器に、舟越が新天地で存在感を発揮している。4年在籍したソフトバンクから巨人に加入。ここまでイースタンでは16試合に出場し、打率1割9分、0本塁打、2打点。途中出場が12試合と出場機会が限られる中で、6盗塁をノーミスで決めている。

 「ホークスの時より、守備も打撃も走塁もレベルは上がっていると思います。2軍では投手のレベルも上がっているし、イースタンはバッテリーも盗塁に対しての意識レベルが高い。去年、主に3軍で68盗塁を決めることができましたが、3軍で1個盗塁するより何十倍も気を張らなければいけないし、準備もしないといけないので難しい。(盗塁数に)納得はしていないです」

 50メートル5秒8のスピードを生かすため、現役時代に代走のスペシャリストだった鈴木2軍外野守備兼走塁コーチから技術を学ぶ日々が続く。支配下昇格、そして1軍に欠かせない存在となるべく、目指すのは師匠の背中だ。

 「(目指すのは鈴木コーチが現役時代につけた)背番号12。代走で出る7、8、9回に、お客さんが僕のタオルを準備してくれるくらい大きくなりたい」

 鈴木コーチからの教えには、プロで生き抜くためのヒントが詰まっている。

 「今年の初めからやっていたのは、スタートで体が固まらないように、投手を真剣に見すぎないこと。『ジッと見ていたら体が固まってスタートが切れないから、もっと自然にやるように』と」

 鈴木コーチは現役時代、相手バッテリーの警戒の中で盗塁を決めてきた。活躍を支えた強いメンタルの養い方も教わっている。

 「大事な場面で1歩目を踏み出す勇気のつくり方は、ただがむしゃらにいけばいい、とかではないんです。日頃のトレーニングや練習の中で『僕はこういうことができるから絶対にいける、大丈夫』という自信を持てることが大きい。僕の場合、最近では20メートル走を計って、めちゃくちゃいいタイムが出た。このくらいで走れるんだから、ちょっと(スタートが)遅れても、1歩目を踏み出しさえできれば絶対にいけるって思える」

 持って生まれた能力だけで勝ち抜けるほど、プロの世界は甘くない。入念な準備も成功を支えている。

 「僕、投手の予備動作を見るのがちょっと得意なんです。ベンチで座ってる時に、ボーッとしてるんじゃなくて、一球一球ベンチの一番端に行ってチェックしています。そういうヒントって隠れていると思うし、自分にとって必要。見始めたら『こんなに!』みたいな投手もいるので面白いですよ」

 脚力を生かすため、打撃スタイルも試行錯誤を重ねている。桑田2軍監督からは、ボールを捉える確率を上げるため、スイングが投球を線で捉える割合を指す「オンプレーン率」のノルマを60%に設定されている。

 「打撃ではフライを打たないこと。ゴロを打つフォームを目指しています。今年は結構、四球も選べているので、いい感じだと思います」

 阿部監督が泥臭く1点を奪う野球を掲げる中、試合終盤に盗塁一つで流れを変える“代走の切り札”は重要なポジションの一つ。そこに食い込む可能性を秘める韋駄天(いだてん)が考える盗塁の魅力とは―。

 「成功したらかっこいいじゃないですか。僕、野球は下手くそかもしれないですけど、盗塁とか走塁、走ることには自信があるので」

 師匠とともに磨いている度胸と技術で、東京Dを沸かせる日を夢見ている。

 ◆鈴木コーチ「僕よりも足は速い。柔軟な判断能力つけて」

 僕より間違いなく足は速いし、今の巨人でもなかなかいない、若いうちからスピリットを持った選手です。スタートが切れれば相手が警戒する中でもいい勝負ができるし、初球から走れる勇気も持っている。投手に対する準備をしっかり早くしてほしいと伝えながら、今はチャレンジさせています。キャンプ時に比べて評価も上がり、桑田監督も評価してくださっています。徐々に信頼を得ながら2軍でも彼の色が出てきました。

 今後、もう一段階、上に行くためには、ただ走るだけでなく柔軟な判断能力をつけ、より成功率を高めていくことが必要です。盗塁、走塁を含めて本塁にかえってくることが仕事ですし、塁に出て心理的な重圧をかけられる選手でもあります。もう少し先のビジョンではありますが、自分の存在も大事にしつつ、戦況などチームがどういう状況なのかを理解できてくるといいのかなと考えています。(2軍外野守備兼走塁コーチ)

 ◆舟越 秀虎(ふなこし・ひでとら)2001年8月23日、福岡・八女市生まれ。22歳。名前の「虎」は阪神が由来。父・秀人さんの「人」は巨人からで、巨人のライバルは阪神という理由で「秀虎」と名付けられた。熊本・城北から19年育成ドラフト5位でソフトバンクに入団。昨季はウエスタン・リーグの出場はなし。23年限りでソフトバンクを戦力外となり、同年オフに巨人に育成選手として入団。182センチ、71キロ。右投両打。