◆プロボクシング ▽WBA、WBC、IBF、WBO世界スーパーバンタム級(55・3キロ以下)タイトルマッチ12回戦 4団体統一王者・井上尚弥―WBC同級1位ルイス・ネリ(6日、東京ドーム)

 4大世界戦の前日計量が5日、都内で行われ、メインの世界4団体スーパーバンタム級統一王者の井上尚弥は55・2キロで一発パス。18年の山中慎介戦で2・3キロの上限超過した過去を持つ挑戦者の“悪童”ネリも54・8キロで無事に一発パスした。井上尚は防衛に成功すれば、元ヘビー級王者のムハマド・アリ(米国)に並び、日本人最多タイの世界戦22勝に到達。世界が注目する東京ドーム決戦で、モンスターがレジェンドに肩を並べる。

 井上尚がネリをにらみつける。フェースオフが始まって10秒過ぎにはお互いがさらに近づき、鼻と鼻が触れそうな距離まで迫った。先に視線を外したのはネリだ。殺気を感じさせるほどの王者の気迫に押されると、後ろに下がるしかなかった。約20秒間。バチバチに火花が散ったにらみ合いで、計量会場は一気に沸騰した。

 挑戦者を圧倒した井上尚は「そういう駆け引きも始まっているので。気持ちの面でもね」と余裕の表情。スーパーバンタム級3試合目となり、減量を含めた調整にも慣れてきた。「今回もパーフェクト。パワフルにいく」と状態の良さを強調。取材の最後、意気込みを問われると答えた。「やるしかない」。短い言葉からは自信しか感じなかった。

 88年と90年、ヘビー級王者のマイク・タイソン(米国)らの東京ドーム興行を手がけ、今回は共同プロモートする帝拳ジムの本田明彦会長(76)は「間違いなく(日本ボクシング界)最大のイベント」と話す。同会長によると入場料収入は日本ボクシング興行で最高額になる見通しで、ペイ・パー・ビュー(PPV)やテレビ中継などで全世界で放映。井上尚のファイトマネーも高額となる。同じくプロモーターの米大手「トップランク社」の幹部も「2000万ドル(約30億円)プラス」と規模をXで投稿。世界が熱視線を送る決戦となる。

 最高峰のイベントである東京ドーム興行で日本人初のメインを務める井上尚は勝てば、自身の日本記録を更新する世界戦22連勝となる。世界戦22勝はWBA世界スーパーフライ級王者・井岡一翔に並ぶ日本記録、そして伝説の元ヘビー級王者アリに肩を並べる。

 フォアマンを大逆転で破った「キンシャサの奇跡」、日本では76年にアントニオ猪木と異種格闘技戦を行ったことで知られるアリは、踊るように相手のパンチをよけ、速射砲を放ち、勝利を積み上げた。モンスターも常々「打たせずに打つ」という言葉を口にする。階級は違えどアリの代名詞「蝶(ちょう)のように舞い、蜂のように刺す」ボクシングでネリを沈め、東京ドームで伝説をつくる。(戸田 幸治)

 ◆アリの世界戦22勝 初奪取の1964年2月から最後の勝利となった78年9月まで25試合を戦いヘビー級で22勝。世界戦の勝利数では世界歴代14位の記録で、最多は元世界3階級制覇フリオ・セサール・チャベス(メキシコ)の31勝。アリは、64年の初奪取でWBA&WBC統一王者ソニー・リストン(米国)に6回終了後TKO勝ち。最後の世界戦勝利は78年2月に敗れた王者レオン・スピンクス(米国)からの王座奪回だった。

 ◆尚弥に聞く

 ―体調は?

 「いつもながらバッチリです」

 ―ネリが500グラムアンダーで試合が成立。

 「ビッグイベント。ネリも過去最高のファイトマネーをもらうだろうし、そこはしっかりやってくるだろうと。そこに対しての心配はなかったです」

 ―スーパーバンタム級で3試合目。

 「調整は3回目ということで、何となくつかんできています。フルトン戦もタパレス戦もリングの上ではまったく支障がなかった」

 ―ネリは失うものがないが、王者は失うものが多くあるため、メンタルで優位と言っている。

 「ネリが背負うものがないから強いのかといったら、そうではない。この試合に影響することはない」