◆プロボクシング▽WBA世界バンタム級タイトルマッチ12回戦 〇井上拓真(判定3―0)石田匠●(6日・東京ドーム)

 初回のダウンは王者が挑戦者に与えたハンデだったのか。ジャブを打った拓真が石田にジャブを差し返されて、19年11月のウバーリ(フランス)戦以来のダウンを奪われた。だが、気持ちを切り替えた王者は上体を動かしながらインファイトを展開。右アッパーやフックと多彩なパンチでポイントを稼いだ。終わってみればジャッジ2人が最大9点差をつける圧勝だった。

 「石田選手のジャブは想像以上にやりづらかった。唯一の収穫は競り勝てたこと」。兄・尚弥との世界戦競演も19年11月以来。弟は勝利のバトンを兄へ渡した。

 2月、元世界王者アンカハス(フィリピン)に積極的な攻めを見せて9回KO勝ちした。「タクは自分の中にあった壁をぶち破ってくれた」と父の真吾トレーナー(52)。父は次男の、それまでの戦い方を「安全運転」と表現。好機で一気に攻めるところで一瞬のためらいを見せてしまっていた。「打たれるリスクを回避して攻撃につなげようとする。たくさん持っているはずの引き出しを開けられなかった」。覚醒した拓真はこの日も、たくさんの引き出しを披露した。

 目標は兄に続く4団体王座統一。「課題をクリアして、強いチャンピオンになります」。拓真は自らを鼓舞するように力を込めた。(谷口 隆俊)

 ◆山中慎介Point 初回に左ジャブでダウンした拓真だったが、よく立て直した。2回からは体も温まってきたのか動きが良くなった。ダウンを取られたジャブに対しても、中に入ってジャブを打てない距離まで近づき、逆にアッパーを何発も打ち込んでいた。欲を言えば、右アッパーを当ててチャンスをつくっているのだから返しのパンチを打っていれば倒すチャンスもあったかと思う。拓真は前回の試合を含め、王者として落ち着いた試合運びができるようになった。

 ◆井上 拓真(いのうえ・たくま)1995年12月26日、神奈川・座間市生まれ。28歳。綾瀬西高では高校総体など2冠。2013年12月プロデビュー。15年7月、東洋太平洋スーパーフライ級王座獲得。18年12月、WBC世界バンタム級暫定王者。19年11月にウバーリ(フランス)に敗れ、プロ初黒星。23年4月にWBA世界バンタム級王座決定戦でソリス(ベネズエラ)を破って王座奪取。身長163センチの右ボクサーファイター。