「狐狼の血」でも知られる柚木裕子の小説を原作に、2015年からスペシャルドラマとして放送さえている"佐方貞人シリーズ"。これまでに5作制作されており、2015年に放送された第1弾「最後の証人」の佐方貞人はヤメ検弁護士(検事をやめた弁護士)だったが、2016年の第2弾「検事の死命」からは検事時代に立ち返り、大きさに関係なく事件に真摯に向き合い、事件の真相を暴く姿が描かれている。

主演の上川隆也は「遺留捜査」シリーズの風変わりな刑事・糸村聡役などでも事件を捜査しているが、今回は検事役。犯した罪に相当する罰を検討することが検事の主な仕事だが、今作の主人公の佐方貞人は、事件の真相にも迫る変わり種の検事だ。

第3弾の「スペシャルドラマ 検事の本懐」は、そんな佐方のルーツが明かされる回だ。東京地検特捜部の応援に駆り出された佐方と庄司真生(松下由樹)は、贈収賄事件の捜査に加わる。しかし、いち早く本丸に切り込みたい特捜の上層部は、検察に都合の良い書類を用意し、容疑者にサインさせることを佐方に要求。「どんな事件も真っ当に捜査し、どんな罪も真っ当に裁かれるべきだ」という信念を持つ、佐方はこの指示に従わず、上層部との間に軋轢が生じていく。

主任検事と会話をする佐方貞人(上川隆也)
主任検事と会話をする佐方貞人(上川隆也)

それと同時に、かつて獄中死した貞人の父・陽世(中原丈雄)がひた隠しにした横領事件の真相を追うルポライターの兼先(山口馬木也)が現れる。兼先の目的は、横領事件を起こした罪人の息子が贈収賄事件を捜査していることを暴露することだったが、取材は思わぬ方向へ流れ、貞人の検事としての矜持が育まれた背景が明かされていくことになる。

上川隆也は「遺留捜査」の糸村や、「執事 西園寺の名推理」シリーズの西園寺一など、数々の正義の味方を演じているが、そのなかでも佐方は飛び抜けて硬骨な男だ。決してブレることがなく、信念を貫くためなら、相手が上司だろうが、特捜部だろうが屈することがなく、見ていて清々しい。演じる上川も第5弾「検事・佐方〜裁きを望む」(2019年)の際、「佐方は一貫して真実を求めて動くので、迷いなく演じられる」と語っている。

だが、今回の「検事の本懐」の中でも兼先に言われるが、佐方はどんな時も無表情で感情が読めない、つまり共感を得られにくいキャラクターだ。だが、上川はそれを上回る鉄壁の正義感という極上のスーツを着せることで、佐方を魅力的な人物に仕上げている。力強い眼差しと、本音だけを語る渋い声。そして、決して諦めずに真相を明らかにするはずだという強い信頼感。喜怒哀楽は見せぬとも、信用に値する人物であることを全身で示しており、上川隆也ファンなら誰もが好きな役の上位に挙げるキャラクターになっているのではないだろうか。

この佐方のキャラクターが強烈なため、作品全体に常に緊迫感が漂っているが、伊武雅刀演じる米崎地方検察庁の部長の筒井や、松下由樹演じる同僚検事の庄司らがほどよい緩衝材となってくれている。また、第3弾に登場する東京地検の事務官・加東を演じる本仮屋ユイカの清楚な明るさや、贈収賄疑惑の渦中にある大物議員の大河内役の寺田農や技術技能支援財団の理事・増元役の六平直政らのコミカルな悪者っぷりも光り、ハードボイルドながら見やすい一作となっている。

贈収賄疑惑の捜査と佐方の父親にまつわる謎の解明に加えて、佐方 vs 東京地検特捜部の戦いもあり、「検事の本懐」は見どころ満載。特にステレオタイプのパワハラ上司である特捜部の主任検事・輪泉(正名僕蔵)に、佐方がどう対応していくのかに注目してほしい。

文=及川静

放送情報【スカパー!】

スペシャルドラマ 検事の本懐
放送日時:1月6日(土)16:30〜
放送チャンネル:テレ朝チャンネル1
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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