ベストセラー作家・柚月裕子が手掛けた小説を原作とし、2018年に公開されて話題となった映画「孤狼の血」。暴力団対策法が成立する直前の昭和63年、広島県の架空都市・呉原を舞台に、激化する暴力団同士の抗争と、それを阻止しようとする2人の刑事の闘いを描いたバイオレンス群像劇だ。

過激な描写や秀逸なストーリー展開はもちろん、豪華キャスティングも本作の見どころで、破天荒だが裏社会の均衡を保つ手腕に長けた主人公の刑事・大上章吾役を役所広司が務め、暴力団関係者として竹野内豊や江口洋介、中村倫也らが出演している。

「孤狼の血」に出演する松坂桃李
「孤狼の血」に出演する松坂桃李

(C)2018「孤狼の血」製作委員会

ここでは、大上とコンビを組む新米刑事・日岡秀一を演じた松坂桃李にスポットを当ててみたい。2009年に「侍戦隊シンケンジャー」で俳優デビューして以降キャリアを積み重ね、2018年には映画「不能犯」「娼年」といった話題作で立て続けに主演。俳優としての幅を広げていた時期だけに、本作の演技も注目必至だ。

物語は、勢力を拡大する暴力団・加古村組と関係のある金融会社の経理・上早稲が失踪したことから始まる。スーツ姿でかき氷を作り、取調室で上早稲の妹から話を聞いている大上の元へ持って行ったり、その後大上に「出ていかんかい」と言われ少し不満げに立ち去る日岡の姿は、まさに真面目な新米刑事といった印象だ。

(C)2018「孤狼の血」製作委員会

その後も、大上の指示で加古村組構成員に喧嘩を売って逆に痛めつけられたり、加古村組と対立する尾谷組の事務所を訪れた時に辛そうな表情を見せたり、大上独特の捜査に振り回されている様子がよくわかる。加古村組構成員が刃物で襲いかかった時の恐怖に引きつった顔などは、迫真の演技と言えるだろう。
一方の大上は、呉原の裏社会において名の通った存在だ。どっかりとソファに腰掛けて尾谷組の面々とやり取りする大上と、その横で居心地悪そうに立ち尽くす日岡との対比からも、日岡のこの世界での経験のなさが伝わってくる。

尾谷組から賄賂と思しき封筒を受け取ったり、物証を得るために放火したり、大上の型破りな捜査は続く。実は日岡は大上の違法捜査を調べるために派遣された監察官であり、当然そのやり方に疑問を抱く。大上が加古村組の構成員を拷問した後、別の場所で声を震わせながら「こんなもの正義とは言えません!」と叫ぶ姿には、大上の無茶なやり方に心から反発している様子が伝わってくる。

(C)2018「孤狼の血」製作委員会

しかし物語が進むにつれ、日岡は裏社会での大上の存在感と、彼の信条を知るようになる。特に2人でクラブで飲んでいる時、大上は心に響く名台詞を連発する。その言葉によって日岡は刑事としての大上の生き様を思い知ることになるのだ。その後の日岡はまるで別人だ。監察官の上司と真っ向からにらみ合ったり、養豚場の息子を無表情でぶちのめしたり、当初の真面目な日岡の面影はどこにもない。しかしそれが、綺麗ごとの正義では裏社会を抑えられないという現実、裏社会と対峙してきた大上の生き様が胸に刻み込まれた日岡の姿であることは言うまでもない。

本作の初日舞台挨拶で、役所が松坂の演技について「繊細に自分の役を積み重ねていくちゃんとしたプランをもった俳優さん」と褒め称えている。その言葉の通り、物語の中での日岡の変化を痛いほどに伝えてくる松坂の演技力はさすがと言えるだろう。

本作は第42回日本アカデミー賞で最多12部門を受賞するなど評価が高く、松坂も同賞の最優秀助演男優賞ほか、複数の映画賞を受賞している。そしてこの流れは、同じ日岡役で松坂が主演した続編「孤狼の血 LEVEL2」(2021年公開)へと繋がってゆく。松坂の演技と、真面目な新米刑事から裏社会を抑える存在となってゆく日岡秀一の生き様を、シリーズを通してじっくり味わってみてはいかがだろうか。

文=堀慎二郎

放送情報【スカパー!】

孤狼の血
放送日時:2024年2月24日(土)21:00〜
チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

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