2023年に名古屋・御園座にて上演された雪組「BONNIE & CLYDE」は、イヴァン・メンチェルの脚本、ドン・ブラックの作詞、フランク・ワイルドホーン作曲により、2009年にアメリカで初演された。日本では2012年に東京・青山劇場にて初演されている。今回は脚色・演出を大野拓史が担当した。
ボニー&クライドは1930年代のアメリカで強盗・殺人を繰り返し、1934年5月23日、車を走行中に警官から150発以上の弾丸を受けて死んだカップルである。世界恐慌下の社会不安の中で彼らを英雄視する者も多く、「俺たちに明日はない」をはじめ、映画や舞台の題材としても多く取り上げられてきた。タカラヅカにおいても1998年に「凍てついた明日」(作・演出:荻田浩一)として舞台化されている。
クライドを演じるのが雪組トップスターの彩風咲奈。スタイリッシュなダンス、そして芝居における誠実な役作りに定評のあるトップスターであり、2024年「ベルサイユのばら」で退団が決まっているのが惜しまれる。その彩風が創り上げるクライドは、未熟さ、危うさで母性本能をくすぐる。兄バックを慕う可愛い弟のイメージも滲ませつつ、兄にはない押しの強さも感じさせる。本作品の大事なアイテムである車を乗りこなす姿も決まっていた。
この公演は、前作で退団した朝月希和の後に新トップ娘役に就任した夢白あやと彩風咲奈による、雪組新トップコンビのプレお披露目公演でもあった。
夢白あや演じるボニーは、凛とした強さが眩しく、女性として素直に共感できるボニーだった。結果的に並の女優よりももっと有名になり、恋に身を焦がした人生、それは彼女なりに自ら選び取ることで夢を果たした生き方だったのだろうと感じさせる。
この二人とは対照的な関係で作品に陰影をつけるのが、バックとブランチのカップルだ。生きたいように生き、燃えるように愛し合ったボニー&クライドのシンプルな関係と違い、この二人の関係は一筋縄ではいかない。
クライドの兄バックは相容れない二つの面を併せ持った人物として描かれる。妻ブランチを大切に思う心優しい男性だが、弟のような破天荒な生き方への憧れも捨てきれない、そんな引き裂かれた内面の持ち主を、和希そらが的確に演じてみせる。
野々花ひまりのブランチは、タカラヅカ的な夢々しさを消し去り「普通の女性」になり切っていたのが見事だった。神を信じ、手に職をつけて真面目に生きている。一番「まともな常識」の持ち主が全く報われないのが虚しい。
この他、咲城けい演じるテッドが、恋と職務との間で悩む保安官を好演。杏野このみ演じるエマ・パーカーは、盲目的に娘ボニーを愛するだけではない気丈さが胸に迫る。久城あすの牧師は、神の恩寵をひたすら笑顔で歌い続ける姿が不気味にさえ感じられた。
ワイルドホーンの楽曲がやはり耳に残る。フィナーレで「凍てついた明日」の名曲「Blues Requiem(ブルースレクイエム)」を聴くことができるのも嬉しい。
この作品ではボニーとクライドを取り巻く世相...不景気と社会不安、人々の閉塞感、車社会の到来による激変、警察の無力さなども丁寧に描かれている。その世相が現代と似ているから、余計に二人に共感し、憧れさえ抱いてしまうのかもしれない。
文=中本千晶
放送情報【スカパー!】
BONNIE & CLYDE ('23年雪組・御園座)
放送日時:3月3日(日) 21:00〜ほか
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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