山田貴敏による人気漫画が原作の「Dr.コトー診療所」は、フジテレビ系で2003年にドラマ化され、吉岡秀隆が主演した。ザテレビジョンのドラマアカデミー賞では最優秀作品賞や主演男優賞ほか7部門を独占するなど高い評価を受け、放送終了直後の2004年1月には新春ドラマスペシャル版、同年11月にも「Dr.コトー診療所2004」として続編が放送された。

その人気を受けて第2シーズンが2006年にもオンエアされている。やがて第2シーズンから16年を経た2022年には、劇場版が公開されて大きな話題となった。制作スタッフをはじめ、主演の吉岡ら主要キャストも再集結。ドラマの世界観をそのまま引き継ぎ、まさに集大成的な映画として長いシーズンのフィナーレを飾る映画となった。

吉岡演じる主人公の五島健助は、「コトー」の愛称で親しまれる志木那島診療所の医師。19年前に来島し、島のたった一人の医師として島民たちの命を背負ってきた男だ。劇場版では、第1シーズンのヒロインだった診療所の看護師・彩佳(柴咲コウ)と結婚し、妊娠中であることが明かされる。ほかに主要人物として島の漁師・原剛利(時任三郎)、島でスナックを営む・西山茉莉子(大塚寧々)、元漁労長で漁協のご意見番である安藤重雄(泉谷しげる)、役場の職員でコトーのよき理解者・和田一範(筧敏夫)らが再び顔をそろえている。さらに彩佳の両親役の星野夫妻を演じる小林薫と朝加真由美、志木那島支所の職員・坂野(大森南朋)ら第1シーズンからのオリジナルキャストが出演していることもファンには嬉しい。また、特に話題を呼んだのが、剛利の息子・原剛洋を演じる富岡涼の出演だ。富岡は第2シーズン終了後に芸能界を引退していたのだが、本作のオファーを受けて復帰。約15kgの減量をして撮影に臨んだという。

青空の下、自転車をこぐ吉岡秀隆
青空の下、自転車をこぐ吉岡秀隆

(C)山田貴敏 (C)2022 映画「Dr.コトー診療所」製作委員会

そして、劇場版の目玉ともいえる新キャストも加わっている。まず織田判斗(高橋海人)は、東京の大病院の御曹司。研修で志木那島診療所に来るが、チャラい雰囲気で島民に反感を持たれている。それでもコトーに触れることで医師としての自覚が芽生えていくという役柄だ。

もう一人は、志木那島出身の看護師・西野那美(生田絵梨花)。彩佳に憧れて診療所のスタッフとなり、日々コトーたちをサポートする。アイドル出身の若い2人の俳優がドラマに花を添える形だが、彼らもドラマや映画での活躍が目立ち、役者としての場数も踏んでいるだけに本作でもベテランたちに交じって奮闘している印象だ。

劇場版のストーリーは、過疎高齢化に悩む志木那島の現状を背景に近隣諸島との医療統合にコトーが巻き込まれる話が軸になる。コトーの離島医療の経験を近隣諸島の患者に生かせることもあり、島の未来にも意義深いと理解しながらも住み慣れた志木那島を離れることに躊躇するコトー。そんな中で島に台風が襲来し、甚大な被害をもたらす。診療所にも続々と急患が運び込まれるが、限られた医療体制で懸命に対応するコトーは命の尊さと家族同然の島民たちの優しさに触れる。さらにコトーの身にも大きな問題が降りかかる。

年齢を重ねて、より味わい深さを増した吉岡の演技は本作でも圧巻。本作がスタートした2003年当時、彼は20年間務めた「北の国から」の黒板純役を離れたばかりで、コトー役を「役者として新たな命を吹き込んでくれた」と語っている。劇場版の脚本を最初に読んだ時には「本当に切なくて涙があふれた」という。それだけにフィナーレとなる本作での演技にはまさに全身全霊を賭けて本気で挑んだことがスクリーンから伝わってきた。

第1シリーズから一貫してロケが行われてきた沖縄・与那国島の美しい自然の姿と、主題歌である中島みゆきの「銀の龍の背に乗って」は相変わらず素晴らしい。脚本を手掛けた吉田紀子は、富良野塾出身で「北の国から」の倉本聰の門下生。つまり、吉岡とも縁深い。本作で橋田賞を受賞するなど、吉田にとっても脚本家としてステップアップになった作品であり、意気込みはひとしおであったはずだ。

映画「Dr.コトー診療所」は、シリーズに長年親しんできたファンにとってはもちろん必見だが、高橋海人や生田絵梨花のファンなど、若い層にも大いに楽しめる作品である。正統派のヒューマンドラマとしての見ごたえと完成度は群を抜いており、現代においてはむしろ新鮮味を感じられる貴重な一作としておすすめしたい。

文=渡辺敏樹

放送情報【スカパー!】

Dr.コトー診療所
放送日時:3月30日(土) 13:00〜

放送チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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