精悍な顔つき、しっかりとした体格と良く響く声、そして存在感のある演技で視聴者を魅了し続ける俳優・内野聖陽。2007年放送のNHK大河ドラマ「風林火山」の主人公・山本勘助を始め、どんな役柄もこなす演技力への評価は高く、2021年には紫綬褒章を受賞したほどだ。

内野が出演した作品の中で、今なお高い人気を誇るのが、2008年に放送されたドラマ「ゴンゾウ〜伝説の刑事」だ。脚本は、国民的ドラマ「相棒」シリーズや、昨年大いに話題となったNHK大河ドラマ「どうする家康」などを手掛けた古沢良太で、緻密なストーリー展開や伏線、またテンポの良い会話に引き込まれる見応え抜群のドラマとなっている。

制服を身に纏い、警察官を演じる内野聖陽
制服を身に纏い、警察官を演じる内野聖陽

(C)東映

タイトルとなっている「ゴンゾウ」とは、警察の隠語で「厄介者、働かない警察官」という意味で、英語でも「風変わり、異常」という意味を持つ言葉。そして「ゴンゾウ」と呼ばれる警視庁井の頭署の会計課備品係の係長である主人公・黒木俊英を、内野がその演技力で見事に演じてみせてくれる。

物語は、いきなり黒木が署内でTVゲームをしているところから始まる。ゲームオーバーになって本気で悔しがる様子は、本当に警察官なのかと疑いたくなるほどだ。張り切って修理しようと試みたエアコンの故障を、さらに悪化させてしまった時に見せる困ったような笑顔は、「ゴンゾウ」という言葉がピッタリの無能な雰囲気が漂っている。

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今は署内で厄介者扱いされている黒木だが、かつては"伝説"と呼ばれたほどの敏腕刑事だった。過去の事件が原因で重い心の傷を負い、会計課備品係に異動となった経緯がある。

第1話のラストで起こった事件から、物語は動き出す。井の頭署に遺失物を引き取りに来たヴァイオリニストの天野もなみ(前田亜季)と共に、若手刑事・遠藤鶴(本仮屋ユイカ)が公園で銃撃されてしまうのだ。かつて黒木の部下だった佐久間静一(筒井道隆)が事件の特別捜査本部を取り仕切ることになり、黒木は佐久間の要請で刑事として復帰する。

黒木は当初、要請を断っていたが、心の中で相当な葛藤があったのがその演技からわかる。第2話でカウンセラーの松尾理沙(大塚寧々)に「(鶴が撃たれて)悔しくないの?」と詰め寄られた時に、凄まじい迫力で言い返す。自分の中に何かを押さえつけていて、それでも復帰を決められない様子がまざまざと伝わってくる。胸を打つ強烈な演技はさすがと言えるだろう。

捜査に加わってからも、内野は存在感のある演技で黒木の感情を画面に映し出す。第4話で、黒木と確執を抱える佐久間と対立した時には青白い炎が感じられる程の迫力だし、第6話でPTSDによる幻覚を見た時はこの世のものとは思えない表情で気を失う。

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脚本を担当した古沢は、本作を「刑事ドラマのふりをした人間ドラマ」として制作したという。まさにその通りで、事件の真相に迫るだけでなく、黒木が伝説の刑事に戻っていく過程や心の病との戦い、また自分のミスを償おうと懸命になる若手刑事・日比野勇司(高橋一生)の活躍や、佐久間ら脇を固める人物たちのドラマも緻密に描かれている。

多くの登場人物によって紡がれるこの物語の最後の戦いの後、黒木が1人でいるシーンで、確かにそれを実感する。ああ、これは人間ドラマなんだ、と。そしてそう思うのは、内野を始めとする出演者の演技の力と練り込まれたシナリオの力であり、ラストまで見ずにはいられない名作ドラマとして仕上がっている。

文=堀慎二郎

放送情報【スカパー!】

ゴンゾウ〜伝説の刑事
放送日時:2024年3月28日(木)7:00〜
チャンネル:テレ朝チャンネル2
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

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