「カラオケ行こ!」のヒットも記憶に新しい山下敦弘監督による映画「告白 コンフェッション」が5月31日(金)に公開を控える。原作・福本伸行、作画・かわぐちかいじという、日本漫画界を代表する名匠2人による共作の実写映画化である。注目を集める本作で、生田斗真と共にW主演を務め、「過去に犯した"殺人"を告白する」のがヤン・イクチュンだ。世界各国の映画賞を総なめした2010年の初長編監督作「息もできない」で、監督のみならず一人五役をこなしたヤン。彼の高い実力を日本で知らしめたのが、5月30日(木)に日本映画専門チャンネルで放送される映画「あゝ、荒野 前篇/後篇」(2017年)だろう。

撮影現場に密着したメイキング番組、メイキング・オブ・「告白 コンフェッション」
撮影現場に密着したメイキング番組、メイキング・オブ・「告白 コンフェッション」

原作は、1960年代後半に日本のアングラ文化を創造し、世を去った今もサブカルチャーの先駆者として注目され続けている寺山修司の同名小説。劇場映画デビュー作「二重生活」(2016年)が国内外で高く評価され、「前科者」(2022年)や「正欲」(2023年)でも知られる岸善幸が監督・脚本(港岳彦との共同脚本)を務めた。映画化にあたって時代設定を変え、2020年の東京オリンピック後の近未来・新宿に舞台を移している。

菅田将暉とヤンをW主演に迎え、運命的に出会いプロボクサーを目指して突き進む2人の若者の絆と宿命を綴る本作。東京五輪の喧騒の翌年、少年院を出たばかりの新次は、自分を陥れたかつての仲間・裕二を襲撃。しかし、プロボクサーになっていた彼に殴り返され、通りすがりの男・建二に助けられる。その一部始終を目撃していた元ボクサーの堀口は、2人を自分の運営する歌舞伎町のボクシングジムにスカウト。新次と建二は、互いに切磋琢磨しながら厳しいトレーニングに打ち込んでいく。

「あゝ、荒野」
「あゝ、荒野」

主人公の一人を演じる菅田。2009年に「仮面ライダーW」でデビューし、主演に抜擢された2013年の青山真治監督作「共喰い」では日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞するなど、当時から若手実力派として活躍していた。岸監督とは前述の「二重生活」に続く二度目のタッグ。本作で菅田が演じた新次は、幼い頃に自分を捨てた母へのやり場のない怒り、自分を陥れた裕二への憎しみを胸に抱えている。何かを壊してしまいたくなる衝動から自分を持て余しており、荒んだ表情は刃のごとく鋭く、粗暴な性格が剥き出しに...。激情に駆られ暴走する姿は、若く美しくも危険な獣のようだ。空虚な中に一瞬光を宿す瞳が鮮烈な印象を残す。

一方のヤンが演じるもう一人の主人公・建二は、吃音と赤面対人恐怖症に悩む青年。父親に無理やり韓国から連れてこられ、日本語も韓国語もうまく話せない。理髪店で健気に働くが、その生い立ちや内気な性格から、自分の思いを伝えられないもどかしさを深く心の奥に秘めている。暴力的な父親に対抗するため、そして自我を解放させたいと願い、ボクシングを始める建二。朴訥とした佇まいに真面目で優しい人柄が滲む。口数は少ないが、乏しい表情や仕草で繊細な心を雄弁に語る、ヤンの演技に惹きつけられた。

「あゝ、荒野」
「あゝ、荒野」

社会に見捨てられた2人は、もがきながらもボクサーとしての道を進んでいく。新次は年上の建二を「兄貴」と呼んで慕い、幼い子供のように人懐こい笑顔を向ける。建二も新次をしっかりと見つめ、向き合い、その姿をデッサンし、拙い言葉で懸命に自分の心を打ち明ける。辛い練習を積み重ね、ついにプロデビューを果たす2人。寝食や苦楽を共にするうちに、温かな絆と奇妙な友情を育み、兄弟のように強い信頼で結ばれていく...。

新次と建二が抱える孤独に、その心の隙間を埋めようと足掻く熱に、共鳴する菅田とヤン。絶妙なコンビネーションがリアリティを生み、入念なトレーニングと体作りを行ったボクシングシーンにも圧倒された。

「あゝ、荒野」
「あゝ、荒野」

菅田とヤンをはじめとする俳優陣が、苦しくなるほどの熱量と緊張感漂う演技を披露した本作。原作から時代設定を変えたことで、現代においても高い共感が得られるはずだ。第60回ブルーリボン賞作品賞ほか多数の賞を受賞したのも、さもありなんと思われる。リアルさが息づく力作で、その熱量を体感してほしい。

文=中川菜都美

放送情報【スカパー!】

メイキング・オブ・「告白 コンフェッション」
放送日時:2024年5月10日(金)20:40〜 ほか
あゝ、荒野 前篇<R-15>
放送日時:2024年5月30日(木)22:30〜 ほか
あゝ、荒野 後篇<R-15>
放送日時:2024年5月31日(金)1:20〜 ほか
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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