ジョルジョ・デ・キリコPublic domain, via Wikimedia Commons

2024年には日本で大きな展覧会が開催され(東京都美術館4月27日〜8月29日/神戸市立博物館9月18日〜12月8日)、国内でも注目が集まっている芸術家です。この記事では、デ・キリコの人生や作品の特徴、見どころをわかりやすく解説します!

デ・キリコの芸術家人生とは?

De Chirico al Museo Archeologico Nazionale di Paestum Public domain, via Wikimedia Commons

ジョルジョ・デ・キリコ(1888-1978年)はイタリアで活躍した芸術家ですが、イタリア国外でもさまざまな経験を積んだことで知られます。

実際、彼のキャリアの始まりはギリシャにあり、初期のデッサン指導をギリシャ人画家に受けていました。1906年にキリコはギリシャからイタリアに渡り、ミラノやフィレンツェで生活を始めます。初期の作品である『秋の午後の謎』は、フィレンツェのサンタ・クローチェ広場で受けたインスピレーションをもとにしたそうです。

1911年から4年間をパリで過ごした経験から、ピカソなどの当時一流の芸術家たちと交流を持ちました。パリ生活のなかで重要な作品をいくつか残したものの、経済的には不安定な状態が続きます。彼が絵画の主題にマネキンを用いり始めたのは、このころです。

その後、1924年と1932年にはヴェネツィアのビエンナーレに参加し、それ以降は商業的な仕事の依頼を受けるなど芸術家として成熟期を迎えました。1944年頃にはローマのスペイン広場(映画『ローマの休日』で有名)にアトリエを構えて活動し、闘病のすえ1978年に亡くなりました。

デ・キリコ作品の特徴「形而上絵画派」とは?

Gruppo scultoreo in bronzo realizzato da Giorgio De Chirico nel 1968 e intitolato "Gli archeologi" Public domain, via Wikimedia Commons

デ・キリコは形而上絵画派に分類されます。形而上絵画派とは、メタフィジック絵画とも呼ばれ、空間や時間を意図的にずらして構成する点が特徴です。実際に見ることができないものに焦点を当て、感覚的な情報の伝達を目指します。

デ・キリコの作品は、画面の左と右で異なる遠近法構造を持っている特徴があります。現実の空間構造をあえて無視して描かれた背景は、キリコの独特で謎めいた世界観の基盤です。

作品のなかに人間はほとんど描かれず、代わりに彫刻やマネキンが描かれている点もデ・キリコの作風の特徴でしょう。平たんで没個性的なマネキンには、見る人によっては恐怖を抱く可能性すらあります。

デ・キリコは自身のルーツにもつながるギリシャの古代建築や古典芸術などを繰り返し作品に登場させたことでも有名です。古典芸術という権威のあるものと、つじつまの合わない形而上学的なインテリアの組み合わせは、鑑賞者の合理的な理解を妨げるように自由に配置されています。

作中には長く伸びる影が描かれている点も、デ・キリコ作品の見どころです。長い影から自然と夕方ごろを想像することになり、作品の静寂と哀愁を助長する効果があります。

デ・キリコ作品の見どころ:摩訶不思議な世界

Giorgio De Chirico 1971 Milano, mostra personale di scultura Public domain, via Wikimedia Commons.

デ・キリコの世界観は、合理的な理解を目指すほど迷宮に入り込むような不思議さがあります。小さな人間や人間の影が描かれることはあるものの、原則的には無機物のみで構成された世界は、シーンと静まり返っているようです。

躍動感はなく、落ち着いている構図なはずなのに、じっくり観察するほど不安な気持ちになる人もいるかもしれません。顔が描かれないマネキンは、人間であるようで人間ではなく、理解できそうでできない絶妙な距離感を保持しています。

形而上絵画派は目に見えないものを絵画で通じて表現をすることを目指した芸術潮流であり、シュルレアリスムの先駆けと考えられることもあります。作品を「なんだか怖い」と感じたあなたは、正確にデ・キリコの意図を理解できているのかもしれません。

ぜひ機会があれば、この記事で紹介したポイントに注目して作品を鑑賞してみてください。以上、デ・キリコの人生、作品の特徴と見どころでした!

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