組織で仕事をしていくうえで、部下を叱ることも時には必要となる。日々多忙な中でうっかりミスを起こしてしまった部下に対しては、ついつい感情的に怒ってしまう方も多いのではないだろうか。

 ご存じの通り「叱る」のは理性に基づく行為だ。一方「怒る」のは感情に任せた行為である。当然、相手の素直な反省を引き出す効果は「叱る」のほうにあるはずだが、分かっていながらつい感情的になってしまう場合、どうすればよいのだろうか。

●部下を叱りたくなったとき、注意すべき「基本スタンス」とは?

 仮にあなたが部下に怒りの感情を抱いた場合「なぜ怒りを感じたのか」をさかのぼって考えることが有効だ。

 例えば、部下があなたから見たら無茶としか思えない提案をした場合、「そんなことで本当にうまくいくと思っているのか!?」と怒りを感じてしまうかもしれない。しかし、それではいきなり怒られた部下は萎縮してしまうだろう。

 そのように厳しい言葉を投げかける前に考えるべきは「最初から『うまくいくはずがない』と思っている」感情はどこからきているのか、という点だ。

 おそらく「この部下にできるかどうか心配だ」「もっと他のやり方はないのだろうか」「失敗したらオレはどうなる。実に不安だ」など、さまざまな感情が原因になっているはずだ。逆に言えば「うまくいくという根拠があれば安心できる」ことになる。

 その場合は「そんなことでうまくいくと思っているのか」と一喝する前に「これでうまくいくと考えられる根拠を教えてほしい」と伝えるべきであろう。そうすれば部下からも「実はこんな考えがありまして……」といった形で対話が生まれる。もし本当に考えが浅かった場合でも、あなたから「じゃあ、どうすればうまくいくか考えてみよう」と助け船を出すこともできるだろう。

 部下の考えや行動を指摘する際に有効なのは、このような「共に取り組む姿勢」である。仮に部下の考えが浅かったとしても、

・「なんでこんなことも考えられないんだ!?」(Why?)

・「いいからやれ!」(Do it!)

 といったような、突き放すようなスタンスは望ましくない。

・「(われわれとしては)どうしていくべきだろう?」(How?)

・「一緒に考えてみよう」(Let's〜)

 というような、「共に考え、行動を促す」スタンスなら、相手のやる気に加えて一体感まで醸成できる効果が見込めるはずだ。

 注意や指導をする際には「自分がされたらどう感じるか?」という観点で、普段から省みておきたいところだ。

●「叱る」前に、注意すべき3つのポイント

 さらに「叱る」場合にも注意しておきたい3つのポイントを、用例も踏まえながらご紹介していこう。

●(1)相手の「人格」ではなく、「行動」を指摘する

(例)部下が提出物の期限を守らなかったとき

・NG「本当にいいかげんな性格だな!」

・OK「チームで決めた約束は守ってほしいんだ」

(例)部下が打ち合わせで決まったはずの約束事項を変更してきたとき

・NG「なんで取り決めを無視する!?  お前はいつまでそんな無責任なんだ!」

・OK「何か事情があったのかもしれないが、一度決まったことを無断で変更されると、その後の対応にコストも時間もかかり、進捗中の案件にも影響も及ぶなど、他の皆にも大きな影響が出るんだ。これからは必ず事前に確認を取ってほしい」

●(2)相手を責めるのではなく、自分の感情を伝える

(例)部下が自分の指示したこととは違う行動を取ったとき

・NG「なんでそんなことをするんだ!? ふざけるな!」

・OK「そういうことをされると、本当に残念な気持ちになるよ……」

(例)こちらから確認をしないと報告をしてこない部下に対して

・NG「おい! 進捗を共有しろと口酸っぱく言ってるだろう! いい加減にしろよ!」

・OK「●●くんから連絡がないと、進捗状況が分からなくて心配なんだ。他の仕事が滞ってしまうことにもなるので、進捗共有してくれると助かる」

●(3)抽象的な表現を避け、具体的に伝える

(例)ほかの部員の手がふさがっているのに、部下が電話を取らなかったとき

・NG「皆忙しいんだから、電話ぐらいちゃんと取れよ!」

・OK「お客さまをお待たせすると印象がよくないので、電話が鳴ったら3コール以内に取ってほしい」

(例)何度指摘しても報告をしない部下に指導したいが、パワハラにならないように冷静に伝えたいとき

・NG「何回言えばわかるんだ!? 報告はキッチリやれと言っただろう!」

・OK「●●さん、報告は客先から帰ってきたら、その直後に私にしてくれないかな。社内での情報共有ができてないと、今後お客様に連絡するタイミングで見当違いな対応をしてしまい、不信感を与えてしまう可能性があるんだ。そして、何かトラブルが起きたときに部としての対処も遅れてしまうことがあるからね」

 同じメッセージを伝えるにも、OK例のように具体的に、かつポジティブに言い換えることで、ニュアンスが大きく変わることがお分かりいただけるだろう。それによって部下は前向きに捉えられるばかりでなく、相手からの信頼度、親密度が増すことは間違いない。部下はあなたに面と向かって指摘できる人であるとは限らない以上、自分で意識し、改善を続けていくしかないのだ。

 もちろん、日々多忙なビジネスの現場において、いちいちここまで手間をかけて言い換えるなど面倒だ、とのお考えもあろう。しかし、だからこそ他に実践している人はほぼおらず、あなたは「丁寧に向き合って諭してくれる上司」として大いに差別化できることになる。そうしてあなたの評判が高まれば、その姿勢は他の人たちにも伝播し、職場全体が「上司や先輩と気兼ねなくコミュニケーションがとれる、心理的安全性の高い雰囲気」になることも期待できるだろう。

●あなたが上機嫌でいることが、最高の「承認」となる

 ここまでいろいろとコミュニケーション手法をお伝えしてきたが、いきなり多くを求められても、すぐに対応できない方も多いはず。そこで一番簡単で、かつすぐに実践できる方法をお伝えしよう。それは「日々、あなた自身が上機嫌でいること」に尽きる。

 あなた自身の機嫌がよく、日々「話しやすい雰囲気」を周囲にふりまけば、自然と周囲のコミュニケーションも増え、安心感を抱けるものだ。具体的には、次のような言動が「上機嫌」に当たる。

・自分から挨拶する

・「●●さん、最近調子はどう?」などと、相手の名前を呼んで話しかける

・たとえ業務でも、依頼してやってもらったことには都度「ありがとう」と感謝する

・相手が抱いている感情に同程度に共感し「それはうれしいね!」「それはガッカリだったね……」などと心から反応する

・(たとえ今現在の個人業績が芳しくなくとも)相手が以前と比して成長した点、レベルアップした点、目標に対して努力の方向性が合致している点を見つけて「●●がいいね!」「半年前と比べたらグッと成長したね!」といった形で評価する

 もしあなたが日頃から実践できていないものがあれば、この機会に取り入れてみていただきたい。

 ここまで日常のコミュニケーションにこだわって実践すれば、組織としても心理的安全性が高まり、あなたへの信頼も、部下たちの自発的なエンゲージメントも高まることは間違いない。ぜひ今日から実践してみることをおすすめしたい。

(新田龍)