立ち食いのスタイルで注目を浴び、店舗数を拡大していった「いきなり!ステーキ」。47都道府県に進出し一時は500店舗まで迫ったが、2024年3月時点で約180店舗しか展開していない。ピーク時はメディアでもよく取り上げられ、行列も見られたが、最近は勢いを失っている。ブームはなぜ過ぎ去ったのだろうか。いきなり!ステーキ凋落の背景と、現状について解説していく。

●3年間でいきなり急拡大 一時は500店舗近くまで成長

 いきなり!ステーキは2013年、ペッパーランチなどを運営していたペッパーフードサービスが東京・銀座に1号店をオープンした。ステーキを低価格で提供したいという思いを温めていた創業者の一瀬邦夫氏は、高級料理を手ごろな価格で提供する立食スタイルの「俺のフレンチ」から着想を得たとされている。

 当初は立ち食いを基本とし、客がステーキのグラム数を指定できるオーダーカット制を採用。後に椅子席がメインのスタイルへ変更したが、立ち食いにより狭い店舗を高回転率で運営するビジネスモデルは、原価率を高く設定できる。客からすれば「お得にステーキを食べられる店」として注目を浴びた。時期によってブレるが、同社は原価率について「50%」「70%以上」などとうたっていた。

 メディアで取り上げられたことを機に、積極的に出店を重ねた。2016年12月期には店舗数が100店舗を突破。いきなり!ステーキ事業としての売上高は141億円に上った。その後、2017年12月期から2019年12月期まで事業規模は以下のように推移している。

売上高:約270億円→約541億円→約571億円

国内店舗数:186→386→490

 2017年12月期には、初の海外店としてニューヨークに出店、2018年度には国内で年間200店舗出店という強気な目標を掲げた。ちなみに2019年12月期末時点の490店舗のうち、フランチャイズ(FC)店は169、委託店は31店舗である。

●日本人とステーキは相性が悪い?

 「ごちそう」という認識の強いステーキ、それも本格的なものが2000円前後で食べられるのは当時珍しかったのだろう。この「安さ」と「手軽さ」が人気を呼んだ要因と考えられる。2017年前後をピークとする、糖質制限ダイエットのブームも追い風となったといわれている。しかし、コロナ禍もあってピーク直後からすぐに業績は悪化。2019年12期から21年12期までの業績は次の通り縮小した。

売上高:約571億円→約269億円→約175億円

国内店舗数:490→287→226

 実は、ピーク時の2019年12月期の時点で、既に業績悪化の兆しは見えていた。2017年度の既存店売上高は前年比で120%を超えていたものの、2018年度には96%ほどに減少し、2019年度には70%を下回った。客数も前年比124%→96%→72%と推移しており 、明らかに客足が遠のいている。

 決算資料によると、客足の減少についてペッパーフードサービスは過剰出店による自社内競合の発生が原因としている。つまり、需要以上に出店を増やしたため、同じチェーンで客の奪い合いが起きてしまった、というわけだ。

 とはいえ、単にいきなり!ステーキ自体が飽きられてしまったという要因も考えられるだろう。前出の一瀬氏は、「回転寿司のように『いきなり!ステーキ』も文化になる」と公言していたようだが、消費者の間で定着しなかった。

 そもそも日本の消費者にはステーキを頻繁に食べる習慣がない。そんな中で毎日・毎週のように客をリピートさせるのは至難の業だったといえる。

 日本人にとってステーキは重たい印象がある。リサーチ業務を手掛けるマイボイスコムが2019年に実施した調査では、月1回以上ステーキ店を利用する人はわずか1割ほどであり、年1回以下でも25%ほど、さらに3割超はそもそも「利用しない」と回答している。市場全体のパイが小さい中で500店舗近くも出店するのは無理があったのではないか。

●名物だったオーダーカットを廃止 構造改革で黒字化

 事業を立て直すに当たり、同社はかつての主力事業であったペッパーランチを2020年8月に他社へ譲渡し、現在ではいきなり!ステーキ事業に集中している。近年の主な施策といえば、店舗数の削減と、メニューの絞り込みだ。

 その結果、2020年12月期から2023年12月期にかけて店舗数・セグメント売上高は縮小しているものの、収益化には成功している。2020年12月期のセグメント利益は約17億円の赤字だったが、2021年度以降は黒字化を達成。直近の2023年12月期も9億円弱の黒字である。

 メニュー改定については値上げを相次いで実施したほか、4月3日の改定では、一部商品で継続していたオーダーカットを廃止し、サーロインステーキを終売とした。

 現在のグランドメニューには「ワイルドステーキ」や「赤身!肩ロースステーキ」などが並び、150グラム・200グラム・300グラムのように、規定のグラム数から選ぶシステムを取っている。コアなファンの獲得に貢献していた「肉マイレージ」システムは2020年12月、従来のグラム累計方式から来店回数で特典を決める方式に“改悪”したことにより、批判された。コスト削減が目的とみられる。

 その後、2023年1月に従来の累計方式を復活させ、現在に至る。肉1キロでシルバー、3キロでゴールド会員といったランク制であり、ランクに応じて誕生日クーポンやドリンク特典がもらえるシステムである。

●急成長は見込まず、堅実な成長へ

 同社は、2025年12月期におけるいきなり!ステーキ事業の売上高目標を約140億円としている。2023年12月期の実績が約138億円であることから、やはり著しい規模拡大は見込んでいないことが分かる。会社全体としては国内で新業態を模索し、いきなり!ステーキについては中長期でアジアへの進出を模索する。

 ピーク時にはニューヨークに11店舗を展開していたが現在は撤退し、海外店はフィリピン3店舗、台湾1店舗の計4店舗のみが残っている。フィリピン店は国内店と違って広く、やや高級感のあるような雰囲気である。高回転率を狙っているわけではなく、価格も現地の水準からするとかなり高めだ。まずは認知度向上を狙い、急な出店はしないという。過去の反省もあるのだろう。失敗を生かしどう攻めていくのか、いきなり!ステーキの今後に注目してみたい。

●著者プロフィール:山口伸

経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。