楽天モバイルは3月8日、法人向けサービスの1周年を記念し、法人利用者向けのイベント「Rakuten Mobile Business Innovation Summit」を開催した。このイベントでは、同社の鈴木和洋共同CEOが法人事業の現状と、新サービスについて語った。

●法人向け携帯電話市場も“民主化” プラン名は個人向けに寄せる

 楽天モバイルの法人向けプランは、音声通話とデータ通信がセットになったプランと、データ通信だけのデータプランがある。月額料金(税込み、以下同)は、音声通話とデータ通信のセットが、3GBで月額2178円、5GBで月額2618円、30GBで月額3058円、無制限が月額3278円、データプランが3GBで月額1078円、7GBで月額1628円、30GBで月額2618円となっている。チャージ料金は1GBあたり660円と他社の1100円より440円安い。

 鈴木氏は「日本のDX化が遅れている」ことについて触れた上で、「まだDX化が進んでいない中小企業に目を向けたい」との考えを示す。「DX化がまだまだ進んでいないというような状況も踏まて、法人のお客様のDX化を支援したい」(鈴木氏)

 法人向けプランの魅力は「やはり料金プランにある」という。「どれだけデータを使っていただいても3278円以上はいただかない。100GB使っていただいても、1TB使っていただいても、3278円は変わらない」(鈴木氏)

 それが功を奏して、法人向けプランの提供開始から1年間で、「1万社以上が楽天モバイルの法人向けプランを契約した」という。「これを機に楽天モバイルの法人向けプランの名称を変えたい」と告げた、鈴木氏はプラン名称を現行の「楽天モバイル法人プラン」から「Rakuten最強プラン(ビジネス)」に変更すると発表した。

●法人向け「Rakuten Link Office」デスクトップ版も登場

 今回のイベントに合わせて、楽天モバイルは法人ユーザーを対象とするPC向け通話/メッセージアプリ「Rakuten Link Office」のデスクトップ版をリリースした。個人向けの「Rakuten Link」デスクトップ版は、2023年8月から提供されているが、法人向けの提供は未定とされていただけに、ある種のサプライズともいえる。

 アプリはWindowsとmacOSで利用可能で、モバイル版と同様に「チャット」「グループチャット」「音声通話」が利用できる。キャリアメールの「楽メール」にも対応する。鈴木氏は、このアプリによって「取引先からかかってきた電話をPCでとれるため、取り逃しはなくなるのではないか」と語った。

 同氏はユースケースの一例も紹介。「海外出張へ行き、海外から日本にどうしても電話で通話をする必要があって、海外から国内に電話をしても、2GBまで(のデータ)は無料になるので、1週間ぐらいの出張であれば2GBで十分足りる」とする。

 なお、現時点において本アプリは同社回線をAndroid端末で使っている法人ユーザーのみ利用できる。iPhoneを使っている法人ユーザーへのサービス提供は後日となる。

●パートナーソリューションも拡大

 パートナーソリューションの拡充についても説明があった。「デバイスの管理をIT部門で行いたい、セキュリティが心配、会社で使っているグループウェアを同じように使いたい……など、さまざまな要望に応えるべく、パートナーソリューションを拡大していく」(鈴木氏)

 鈴木氏は、楽天モバイルの法人向けプランでも、楽天経済圏を推したいとの考えを語る。プレゼン時点で何か表立った発表はなかったが、楽天モバイルの取引先に楽天グループのサービス、ひいては楽天モバイルのソリューションを「お届けできるようにしたい」とした。

 楽天経済圏は、生活のさまざまなシーンを楽天グループのサービスの利用に寄せることで、楽天ポイントを効率的にためたり、使ったりできることを表す際に用いられる用語。楽天グループとしては、既に1億以上の楽天会員IDを保有しており、楽天グループや楽天モバイルのイベント、会見では必ずといっていいほど、楽天経済圏という用語が出てくる。

 また、鈴木氏は、インバウンド(海外からの旅行客)に対する需要が増えたことを受け、宿泊施設などで通訳機「ポケトーク」に楽天モバイル回線を使用した「ポケトーク楽天回線モデル」が導入されたことを紹介。ボタンを押すだけで発話内容が翻訳される手軽さと、楽天モバイルの回線に常時接続できるメリットが売りになっている。

 楽天モバイルの回線を、法人として導入するメリットはあるのだろうか。今回のイベントでは、実際に導入している2つの企業の社長によるプレイステーションも行われた。

●楽天モバイル法人向けプランを選んだ決め手は? 2社の社長が語る

 鈴木氏による楽天モバイル法人向けサービスの説明後、実際に社用携帯を楽天モバイルにしたという2つの企業の社長が登壇し、選んだ決め手などを語った。

MIC(河合克也社長)

 われわれは、販促プロモーションの支援やデジタルコンテンツの制作、ICTシステムの開発などの事業を手掛ける。オフィスは多拠点あり、工場やコールセンターなどと業種が分かれている。2023年3月に楽天モバイルの端末400台を導入した。選ぶ決め手になったのはコスト。Rakuten Link Officeも試用しており、これからの業務効率化につなげたい。

木下の介護(佐久間大介社長)

 木下の介護は、介護サービス事業を行う。楽天モバイルを選んだ決め手は、規模としても取り組んでいることも違うが、楽天モバイルは熱意があふれるほどに(サービスを)グイグイと推してきた。そして「情報共有がスムーズになる」との触れ込みがあり、導入に至った。楽天モバイルの端末をナースコールで配布し、アプリから見守りセンサーへのアクセスもできる。楽天モバイルに対しては生産性向上と最大限のサポートを期待する。

 この後、本イベントを取材した報道関係者を対象とする質疑応答が別室で行われた。

●報道関係者との質疑応答

 イベント後、鈴木和洋共同CEOが報道関係者からの質問に答えた。プラチナバンド(700MHz帯)のサービス開始時期や、法人向けサービスにおける他社との違いなど、注目すべき質問が並んだ。

―― 他の大手3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)は、法人のDX(デジタルトランスフォーメーション)化ソリューションなどを手厚くしています。楽天モバイルは3社に匹敵するような法人ビジネスのキャッチアップなどについて、どのようにお考えですか?

鈴木氏 楽天でなければ提供できないような、楽天独自の商材の開発に力を入れていきたいと考えています。Rakuten Link Officeデスクトップもその1つですし、AIがキーワードになっていて、OpenAIとも特別な提携関係にあります。他社では提供できないようなAIソリューションを提供していきたいと考えています。

―― 5GやIoTを活用したソリューションの具体的な計画はありますか?

鈴木氏 IoTに関しては、実証事業という形ですが、政府から一部補助金を得て実施しているものもあります。5GとIoTに関しては、2024年はPoC(Proof of Concept:実証実験)中心に進んでいくという見立てです。

―― 法人向けにSIMを無料で配布する意図と、その効果がどれほどか教えてください。

鈴木氏 楽天モバイルは、楽天市場出店者にSIMカードを配布していますが、基本的には本人確認を終えてから使ってもらう流れとなります。(無料配布の)大きな理由は、働き方改革が浸透し、オフィスの外からスマホを使ってZoomミーティングや、社内作業をスマホから行うことが一般化してきたからです。そうなると、とにかくデータを使うのです。

 マーチャント(商人)さんは、出店者出店した商品の状態をスマホで確認する際、画像データのやりとりにデータが必要です。SIMカードの配布は、楽天モバイルの通信サービスをマーチャントにより利用してもらい、追加契約につながるようなプロモーションです。利用者から改善要望を聞きながら、提供していきたいです。

―― 法人顧客が増えたことで、ARPU(1契約当たりの平均収益)が下がったというお話が決算説明会でありました。これをどのように反転させたいですか?

鈴木氏 正直、B2CとB2BのARPUを比べると、B2Bの方が多少低い。恐らく4キャリア共通だと思います。法人はソリューションも含めて伸びしろが大きいです。単純に通信量だけでなくお客さまがトータルで払っているネットワークコストがあります。そのお財布の中のウォレットシェアを増やしていくことを通じて、ARPUも向上させていきたいと考えます。

―― 楽天モバイルの法人契約数は何回線ですか?

鈴木氏 法人契約回線数は公表しておりません。他3社も、B2CとB2Bに分けて発表していないはずです。楽天市場に出店しているマーチャントは、どちらかといえば大企業よりも中堅中小、あるいは地方が多い。具体的な数はお伝えできませんが、その規模から想像していただければと思います。

―― プラチナバンド(700MHz帯)のサービス開始時期を教えてください。

鈴木氏 プラチナバンドの開始時期に関しては、正式に何月スタートというようなアナウンスはしていません。

―― プラチナバンドの開始時期について、例えば、3月末に株主総会の前には出るのかなど、いつ頃なのか、もう少し具体的に教えていただけないでしょうか?

鈴木氏 準備は急ピッチで進めているところです。プラチナのネットワークのデプロイメントは、無線機のパートナーとしてNokiaを選んでいます。夏前ぐらいには開始ができるように準備しています。開始時期か開始日が確定的になった段階で発表したいと考えています。