IIJは、個人向けサービスのIIJmioの「ギガプラン」に、30GB/40GB/50GBの大容量プランを3月1日に追加した。料金は30GBが2700円(税込み、以下同)、40GBが3300円、50GBが3900円となる。これまでのギガプランは20GBが最大のデータ容量だったが、これらは、その上位プランに位置付けられる。ドコモ回線のタイプDだけでなく、au回線のタイプAやフルMVNOのデータeSIMも従来通り選べる。月額料金を最大3カ月間、半額にするキャンペーンも展開する。

 2024年は、大手MVNOの事業環境が大きく変わる1年といえる。2023年12月27日にガイドラインが改正され、IIJとオプテージが対象から外れたからだ。これに伴い、最大4万4000円までに限定される端末割引の制限がなくなる他、長期利用者向けの優遇も可能になる。この法令改正とギガプランの大容量プランに直接的な関係はなく、以前の規制のままでもサービスインはできたが、これまで以上にさまざまな割引やキャンペーンを実施しやすくなったのも事実だ。

 では、IIJは2024年をどのような戦略で戦っていくのか。IIJのMVNO事業を統括する執行役員 MVNO事業部長の矢吹重雄氏と、個人向けMVNOサービスを率いるMVNO事業部 コンシューマサービス部長の亀井正浩氏に、大容量プラン導入の狙いや法令改正後に打つ一手をたずねた。

●死角だった30〜50GB帯 Y!mobileやUQ mobileを意識したプランを設計

―― もともと20GBまでしかなかったギガプランですが、このタイミングで50GBまでの大容量プランを拡充する理由を教えてください。

亀井氏 昨年度(2023年度)に4GBを5GBに、8GBを10GBに増量しました。その傾向を見ていくと、2GBだった人が5GBにしたり、4GBだった人が10GBにしたりと、結果としてARPU(1ユーザーからの平均収入)増につながりました。コロナ明けでギガ(データ通信量)の利用が進み、プラン変更していただけることが増えたのです。20GBでは物足りないという人や、シェアをしていて容量が足りない人もいて、他社に行ったり解約したりするきっかけにもなってしまっていました。

 そこで、夏ごろにお客さまからアンケートを取ったところ、大容量帯のプランを求めている方が多かった。大容量を欲しいという方が全体の18%で、そのうち、30GB、40GB、50GBでカバーできる方が80%程度いました。その方々が実際に契約するかどうかは別として、それぐらいいるなら作ろうとなりました。

 逆に100GBまで行ってしまうと、ahamoがベンチマークになってしまい、訴求がしづらい。せっかく出すなら、ということで、Y!mobileやUQ mobileを意識したプランを設計しました。総務省がデータ容量と料金をまとめてマトリックスを作っていますが、ちょうどこの容量帯は死角のようになって空いていました。料金プランをアップグレードするにはちょうどいいと思い、ここを追加しています。

―― なるほど。シェアというお話がありましたが、単独で使うというより、シェア前提なのでしょうか。

亀井氏 シェアをしていただきたいと考えています。以前やっていたファミリープランは根強い人気で、ギガプランに変更していただけていない方も一定数います。その方々にも、大容量でシェアができることは伝えていきたいですね。

矢吹氏 シェアに関しては、内部でもいろいろな議論がありました。本当に家族でシェアするのかという疑問もあり、社内でも何人かに聞いてみましたが、「自分はIIJでも、妻のケータイはドコモです」という人が多くて(笑)。

―― それはひどい(笑)。

矢吹氏 ただ、シェアにもいろいろなシェアの仕方があります。複数デバイスそれぞれのデータ使用量が増えている人もいるので、こういう状態(大容量プランを用意すること)にしておくのは1つの道だと思います。

―― ひとりシェアですね。

矢吹氏 そうです。IIJmioにはディープなユーザーも多いので。そういう方にも、「さすが」と言ってもらえることは常に目指しています。

●30〜50GBに増量しても帯域は十分耐えられると判断

―― ここまで容量を増やして、帯域は大丈夫でしょうか。

矢吹氏 帯域については、あまり心配していません。昼が少し遅いのは変えなければいけないですが、過去の経験から、(総容量を増やしても)1日あたりの容量がそこまで増えるわけではないことは分かっています。逆に、月末に容量がなくなり、我慢して使っている方がいる。そういう方々が大容量プランにすると、月末までしっかり使えるのではないかという見立てをしています。

 実は今回の大容量プランは、昨年の春に出そうとしていました。ただ、果たして帯域は大丈夫なのかということはあり、様子を見ようと見送った経緯があります。昨年の容量変更を見て、十分耐えられると判断しました。

―― データ容量を増やして大容量プランができるかどうかを試していたんですね。

矢吹氏 導入をためらった理由の1つは、キャリアのサブブランドがメインとしている容量帯だったことです。もう1つは、そこまでニーズがあるのかを見たかった。そこまでやったとき、時間帯によって劇的な変化が起きないかを確認したかったということもあります。結果として1年ほどサービスリリースを遅らせることになりました。意図しないユーザーが入ってしまうと他の方にご迷惑をおかけしてしまうので、そこは避けなければなりません。

―― 実際にシェアを組んで使っている方は、いまどのぐらいいらっしゃるのでしょうか。

亀井氏 30%ぐらいですね。認知はされているのですが、実際にはそこまでいません。

―― 先ほど矢吹さんが挙げていたように、家族を巻き込めていないということでしょうか。

矢吹氏 われわれだけの問題ではありませんが、新規の回線で端末を安く売るという販売を積極的にやったこともあります。単独でIIJmioに入る方が増え、シェア率が昔よりも下がっているのはありますね。

●既存ユーザーも含めて、端末をお得に買える施策は継続

―― IIJmioといえば、端末のキャンペーンも積極的です。シャープの「AQUOS sense8」のように、完売する端末も多い印象があります。

矢吹氏 AQUOS sense8は、ちょっと安すぎた(笑)。ですが、端末の割引は適正に、かつ積極的にやっていきたいと考えています。ここは利幅を取るところではありませんが、加入を促進できる要素の1つです。来期も、引き続き積極的にやっていくことを検討しています。

―― ガイドラインが変わり、回線契約と端末販売をひも付けることも可能になりました。割引を新規やMNPだけにして額を増やすといったことも可能だと思いますが、そういった販売方法は取らないのでしょうか。

亀井氏 既存の方からも端末が欲しいというご意見をいただきます。セット販売だけになってしまうと、そういった方々がやめるきっかけになってしまう。ここは引き続き、両方用意するようにしたいと考えています。回線セットで110円といった端末は用意していますが、そういったものも、機種変更で7000円なり、9000円なりで買えるようにしています。

―― 今回出す大容量プラン限定で割引を積むといった方法もありそうです。

亀井氏 そうですね。利用実態を見て、大容量とセットでというのは考えてもいいかもしれません。

―― ただ、キャリアもあの手この手で安値を維持しています。今は本体価格を下げる端末も増えてきました。

矢吹氏 割引はある意味分かっていた議論で、上代の変更はできてしまうので、結果としていくらでも下げることができます。買い取り価格も、あってないようなものですからね……。ただ、1つ劇的に変わったのが、オープンなSIMフリー端末です。キャリアがiPhoneとPixelに集中したことで、その状況は大きく変わりました。

―― なるほど。そこでAQUOS sense8ですか(笑)。

矢吹氏 あれはやりすぎただけです(笑)。ただ、IIJはいろいろな端末を取り扱っています。多様性もわれわれの使命なので、見せ方としていいと思っています。

●長期利用特典も検討中 端末の買い替えを後押しする施策に?

―― もう1つ、長期利用特典も復活できるようになりました。mineoは「ファン∞とく」をリニューアルしましたが、IIJもギガプラン以前は「長得」がありました。ああいったものを導入するお考えはありますか。

亀井氏 今、ちょうど考えているところです。固まった話はありませんが、これまでキャリアがやっていたような、5年、10年といったものすごく長い年数がたってから還元するというよりも、端末を買い替えたいタイミングで機会を得られるようなプログラムになればいいなと思っています。

―― なるほど。機種変更とひも付ける形ですね。

亀井氏 それを後押ししてあげるような長期特典だといいのかなと思っています。

矢吹氏 電気通信事業法27条の3の規制が解除されたら何をしようという議論は、昨年の秋ぐらいからしています。当然できなかったことをやりたいという話はありますが、お客さまからいただいている声もあります。自分たちがどうというよりも、お客さまの声に真摯(しんし)に耳を傾け、優先順位を決めているのが実態です。何らかのキャンペーンはやると思いますが、サービスレベルのものは、もう少し時間をかけてやっていきます。早ければ夏前ぐらいに、何らかのものは出そうと思っています。

 もうちょっと言うと、例えば、以前から要望のあった名義変更も、来期には実装していきたいですね。例えばご家族の中から息子が独り立ちするといったときの名義変更に、何らかの特典をつけて「これからもよろしくお願いします」というようなものはありえます。亀井がお話ししたように、端末の買い替えを支援するようなものも作れるよねといった話はしています。こういったものはアイデアベースで話をしていますが、これから実際の建てつけをどうするかは考える必要があります。

―― 名義変更は今だとできないんですね。

矢吹氏 現状はそうですね。悪い目的で利用されることもあるので実装できていませんでしたが、ちゃんと提供しようと考えています。サービス自体、10数年続けているので、昔からのユーザーの中には、お子さんが大きくなったという方もいます。よくサービスインのときにはメインユーザーが40代と説明していましたが、今、その方たちは50代になっていますからね(笑)。

―― ライフスタイルに寄り添っているような感じですね(笑)。

矢吹氏 人生の変化に寄り添えると、サービス的にもいいと思いますね。

●フルMVNOで回線を増やすかは微妙 KDDIのeSIM比率が上昇中

―― 話は変わりますが、ここ最近、ドコモ回線の品質低下が問題視されています。IIJも影響を受けると思いますが、フルMVNO側もauやソフトバンクと接続するというような計画はありますか。

矢吹氏 費用対効果が一番です。技術的には仮想化やコンテナ化が進んでいるため、最初のときのような投資ではない形で安くなるシミュレーションはしていますが、それでもまだ高いですね。もう少し安いとつなぎやすいのですが。

 また、KDDIのフルMVNOをやるといっても、今はデータ通信だけの世界です。電話番号も含めた音声接続を考えると、かなりの投資になってきます。そこが見えていない中で、他のキャリアは難しい。昔と違って卸協議も進んでいて、音声eSIMの提供もできています。ですから、フルMVNOにこだわるのは、よりIoT的なものになってくる。そのときに2回線必要かと言われると、ちょっと微妙なところですね。

―― 現状、タイプDからタイプAに移るような動きは健在化していますか。

矢吹氏 あまりないですね。ただ、電波が原因かどうかは分かりませんが、KDDIのeSIMを出したこともあり、獲得比率は上がっています。

亀井氏 ドコモの音声eSIMは後から出しているので、これを出したらKDDIの比率は落ちるかな……と思っていたのですが、そうはなりませんでした。

―― 最後になりますが、ここからのMVNOの競争環境をどのように見ているかを教えてください。

矢吹氏 ここ2年はahamoやpovoや楽天モバイルもそうですが、オンラインで安いものが登場し、MVNOにとっては激動でした。話題先行でいろいろなものが動いたと思っています。特に去年の春ぐらいからは、市場全体が落ち着いている印象があります。例えば、われわれがMVNEとして提供している地方のケーブルテレビだったり、リアル店舗を持つMVNOだったりは非常に獲得が好調です。地に足がついた感じがあり、広く薄く伸びているような印象があります。

●取材を終えて:ガイドラインの改正で競争環境にも変化

 大手キャリアの大容量プランとは異なり、IIJmioのそれは、データシェアに狙いがあった。1回線ごとの使用量は少なくなるため、実態としては合算での料金を下げたいユーザーが利用することになるのかもしれない。一方で、大手キャリアのサブブランドやオンライン専用プラン/ブランドは、この容量帯が手薄になっている。その上となると、100GBや無制限になってしまうため、オンライン専用ブランドの20GBでは足りないというユーザーにとってもいいプランといえる。

 ガイドライン改正に伴う端末割引や長期利用特典も、現在、検討していることがうかがえた。矢吹氏と亀井氏の言葉通りなら、夏ごろに何らかの新サービスが投入される可能性がある。端末割引などを絡めた施策は、既存ユーザーにとってもうれしいはずだ。このような手を打てるようになったのも、ガイドラインが改正されたからこそ。2024年以降、その競争環境が徐々に変わっていくことになりそうだ。