スマホの契約見直しや新規契約の際、一番通信が快適なのはどのサービスなのかは重要なポイントだ。この数年は高速な5Gサービスが広がる一方で、コロナ禍の影響もあり仕事ではテレワークやビデオ会議、個人でもネット動画視聴やコード決済などの、高速かつ快適なデータ通信を求めるサービスの利用が急激に増加している。

 これにより、街に人流が戻った2022年後半からは特に都心部の混雑スポットなどで、「パケ詰まり」とも呼ばれる通信のつながりにくさが話題になった。特にSNSなどでも不満の声が見られたドコモに関しては10月に300億円の先行投資を発表し、2024年2月の段階では設備増強により通信品質が改善されたとした。

 そこでこの記事では、2024年3月末に携帯電話会社4社、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、楽天モバイルについて、都心部の混雑スポットでのスピードテストと、山手線を中心とした移動中の接続テストを実施した。2023年夏にも同様のテストを実施した「なぜパケ詰まりが起こるのか」の結果とも比較している。

 また、記事の後半部分では各テストとともに、各社のネットワークの2024年3月末までの変化と、これからのネットワーク改善施策についてもまとめている。それではまず、スピードテストの結果から見ていこう。

●ビジネス街の通信速度はおおむね改善 だが5Gの穴が足を引っ張る

 スピードテストは各混雑スポットにてSpeedtest.netを用いて計測している。表の青背景は下り100Mbps以上、赤背景は下り20Mbps以下の場合につけている。実際は10Mbps前後で通信できればだいたいの用途で問題なく利用できるのだが、混雑エリアでは周囲の利用者の状況により通信が安定しないことも多い。このため、20Mbpsとやや厳しめの判定にしている。

 まずは、東京で最も通信が混雑するスポットの1つ“昼12時台の大手町”と、銀座、新橋のテスト結果だ。見て違和感のある大手町のドコモの結果だが、こちらの理由についても解説する。

 昼12時台の大手町は、昔から多くのビジネスマンが一斉にデータ通信を利用し混雑するスポットだ。各社とも高速な5Gなどを整備してようやく快適な通信環境を確保できる。今回のテストでは楽天モバイルの5Gに余裕が見られるものの、今後利用者が増えれば例外なく設備の増強が必要だろう。

 ドコモの通信速度が極端に遅い理由の1つとして、2024年の3月時点でも大手町周辺エリアの多くが5G未整備という状況がある。エリアマップを見ると5月末までには程度改善されるようだが、8月末の予定でもテスト地点の大手町駅前交差点付近に関しては5Gの整備予定がない。基地局の設置場所の確保といった事情もあるのだろうが、通信需要の多い場所柄もあって気になるところだ。なお、テスト地点から西側に200mほど移動すると5Gエリアに入り、下り52.9Mbps、上り0.8Mbpsという結果になった。

 銀座と新橋のテスト結果は、4社とも5Gの整備を進めており5Gスマホなら快適に利用できそうだ。2023年夏のテストでは微妙な結果だったドコモと楽天モバイルも、着実に5Gの整備を進めている。

●再開発の進む繁華街は、街の変化が通信に影響を及ぼすことも

 渋谷、新宿、池袋の繁華街エリアは通信環境を改善しつつも、再開発エリアでは不安定な箇所が見られた。なお、ドコモは2023年10月までにこのテスト地点のうち渋谷駅前、新宿駅前、池袋駅前に関して5G設備増設などの対策を行ったとしている。

 渋谷のスクランブル交差点は海外の観光客にも知られる日本有数の混雑地帯で、テスト時は2023年夏からさらに多くの人が滞在していた。混雑で有名なスポットだけあって各社とも力を入れて整備しているが、特にドコモの結果が良好だった。KDDIとソフトバンクは高速ではないが利用に問題はない。楽天モバイルは5Gの表示にはなるがエリア端だからかすぐに4Gに切り替わる。だが、実際の通信は上りが高速だからか問題はなかった。渋谷駅とその周辺は今も大規模な再開発が続いており、今後の状況は良くも悪くも変わる可能性がある。

 新宿駅東口アルタ前は2023年夏から状況が変わっている。立体に見える猫の動画で知られる「クロス新宿ビジョン」には、目当ての広告動画の撮影待ちをする人が目に付くようになった。一方で、KDDI(au)、ソフトバンク、楽天モバイルのアンテナ表示の本数が1本少なくなり、スピードテストの結果も悪化している。ドコモは2023年7月にこの地点をパケ詰まりの対策箇所としたこともあってか若干良好だ。

 新宿駅周辺のエリアは、駅や周辺のビルなど1970〜80年代の施設が建て替え時期に入っている。特に駅周辺施設は、西口や南口の再開発を皮切りに「新宿グランドターミナル」として2040年代にかけて大きく変貌する見込みだ。再開発中は周辺の建物の高さや人の導線がめまぐるしく変わり、通信事業者も細かいエリア整備や基地局を設置する場所の確保が必要になる。今後は、今回のテストのように街や駅ホームで、一時的にスマホの通信が不便になるスポットが出てくるだろう。各社の対応に注目だ。

 新宿の歌舞伎町は大規模開発が一段落し、スピードテストの結果も特に問題はない。ドコモも5Gエリアが広がり、楽天モバイルもテスト箇所の通信に問題はなく少し場所を変えれば5Gにつながる。

 池袋駅東口は各社ともおおむね良好だ。テスト時間が夏のテストと若干異なるので18時台はもう少し混雑する可能性もあるが、5Gスマホならそこまで問題にはならないだろう。ソフトバンクは2月に高速な5G通信を利用できたのだが、3月末のテスト時にはつながらなかった。今後また変化する可能性はある。

●山手線沿線を中心に、移動中の動画視聴をテスト

 次に、東京都内の山手線を中心とした電車で移動中に、4社の回線で快適にYouTubeのライブ動画を視聴できるのかを確認した。エリアを点(スポット)と線(鉄道路線)と表現した場合、線のエリアのテストだ。

 鉄道路線に対する5G整備はKDDI(au)が5G開始後すぐに「鉄道路線5G化」として力を入れている。ドコモも2023年10月の説明会にて対策を発表し、2月には改善したとしている。これもあり、今回はより混雑する17〜19時台の電車でテストを行った。

 この表でまず見るべきなのは、接続は5Gでも4Gでもいいので移動中に動画を安定して再生できているのかという点だ。その観点で見るとKDDIが良好だが、ソフトバンク、ドコモ、楽天モバイルも決して悪くはない。各社とも山手線を中心とした沿線の対策に力を入れているといっていいだろう。

 このテストでは、5Gエリア整備状況の参考として、駅間を移動するさいの接続表示がおよそ3分の2以上5Gだった箇所を5Gと表記している。ドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクはカバーエリアが狭いが高速5GのSub-6帯に加えて、従来の4Gエリアの周波数帯転用した低速だがカバーエリアの広い転用5Gを利用できる分、この表を5Gで埋めやすい。ドコモの5Gのエリアが急激に増えているのも、高速な5Gの整備に加えて転用5Gのエリアを広げたことも一部寄与している。

 一方で、新規参入の楽天モバイルは高速だが、カバーエリアの狭いSub-6帯の5Gのみでエリアを構築せざるを得ない。このため、この項目で他社と比較するとかなり不利といえる。とはいえ、それでも一部のエリア状況を5Gで埋められており驚きだ。今後、後述する3.7GHz帯の制限緩和が進めば、5Gにつながるエリアがより広がるかもしれない。

●2024年は高速5Gのエリアが改善、各社の通信環境にもさらなる変化が

 最後に、2023年夏から2024年春までと、これからの各携帯電話事業者のネットワーク整備に関する情報をまとめて見ていこう。

ドコモの整備は一段落、今後は利用者のログから通信品質を改善

 ドコモは夏以来、2023年10月と2024年2月に通信品質改善の施策について説明会を実施している。ここでは300億円の先行投資で点のスポットと、線となる鉄道路線の整備を実施し成果が出てきているとしている。結果、今回の記事のテストでもドコモの通信環境はある程度改善されていることが確認できた。5Gのエリア整備も高速なSub-6帯に加えて、転用5Gのエリアも広がっている。

 だが、5G開始当初からの「瞬速5G」といったワードや、昭和世代がイメージする“NTTらしい”といったイメージとは少し距離がある。普段の利用でも、混雑スポットでのつながりにくさや、奥まった店でのレジで通信が遅さなど気になる部分は多い。ドコモでは「d払い」など、ドコモのアプリの利用データを活用した品質確認も始めたとのことなので今後の対応に期待したい。

 ただ実際のところ、ドコモに限らず各社とも総務省の値下げ要請によるARPU低下や、スマホの割引規制により5Gスマホの普及を加速できない現状だと、5Gの整備も経済的合理性の範囲で慎重に行わざるを得ない。3Gや4Gの快適さやMNP獲得で激しく競争していた時代と違い、今は設備調達やエリア整備の合理化や協業により投資を抑えつつ、ある程度のネットワーク設備をいかに効率よく提供するかが重要になっている。

4月以後、首都圏の高速5Gエリアが広がる

 5G高速通信のメインバンドとして運用されているSub-6 3.7GHz帯だが、この帯域はカバーエリアを広げにくい上に、地域にもよるが当初から衛星通信の地上局との干渉で出力の制限が必要だった。だが、衛星通信の事業者側の協力で地域ごとに地上局の移設といった対策が進み、首都圏でも2024年3月末に出力が緩和される。これにより、Sub-6 3.7GHz帯のカバーエリアがKDDIの場合は約2倍になる。

 なお、大手4社ともこのSub-6 3.7GHz帯の高速な5Gエリアを提供しており、この話題はもう少し盛り上がってもいいところだ。だが、積極的に説明会でアピールしているのはKDDIが中心となっている。理由の1つとしては、KDDIが一番積極的にSub-6の3.7GHz帯の基地局を整備しており、対象となる周波数幅も100MHz幅×2枠なので出力制限の緩和の恩恵を一番受けられる点が大きいのだろう。

 NTTドコモのSub-6帯は3.7GHz帯と、もう半分は出力制限を受けないn79の4.5GHz帯だ。3.7GHz帯の基地局数はそれなりにあり、エリアマップを見る限り、5月末の予定では首都圏のSub-6エリアはそれなりに広がっている。ソフトバンクは5Gエリアの整備にSub-6 3.7GHz帯よりも、エリアを広げやすい4Gを転用した3.4GHz帯、1.7GHz帯、700MHz帯の5Gエリアを優先して整備しており直近の恩恵は少ない。だが、逆にこれから混雑エリアに対して積極的に整備していくこともできる。

 楽天モバイルもSub-6 3.7GHz帯の基地局をかなり整備しており、出力の緩和によるエリア拡大は都市部の5Gエリア拡大や混雑対策などで効果を得られるだろう。楽天モバイルはプラチナバンドの割り当てやASTスペースモバイルの話題が続いているが、首都圏に関してはこちらにも注目だ。

 なお、楽天モバイルはプラチナバンドの試験発射も4月末以降に始める予定だ。サービス開始時期は正式発表されていないが、楽天モバイル矢澤社長の発言などによると、6月など夏前を目指しているという。屋内などのつながりやすさの改善を期待したい。

 2024年前半は各社の5Gや4Gエリアや品質が大きく変わりそうなだけに、また6月ごろに今回と同様のテストを実施すると面白い結果を得られるかもしれない。

KDDIと楽天モバイルの、衛星による日本全土に向けたサービスが前進

 最後に、衛星とスマートフォンとの直接接続サービスの進展にも触れておこう。これは現在の通信事業者がエリアを展開する予定のない、郊外や山中、離島といった圏外エリアにて、スマートフォンと低軌道衛星を4Gなどで直接接続するサービスだ。もちろん通常のエリアの基地局と比べると低速だが、いざというときに役立つ。

 KDDIは、スペースXのスターリンクが各国キャリアに提供する「Direct to Cell」を用いたサービスを2024年内の展開を目指す。スペースXはスターリンクの実績と、自社のロケットでサービス提供に必要な大量の衛星を打ち上げられる強みを持つ。当初はメッセージサービスのみだが、将来的に音声、データ通信の提供を目指す。1月にはスマートフォンとの接続に対応したスターリンクの衛星を打ち上げ、SMSの接続テストを実施している。

 楽天モバイルはASTスペースモバイルとのサービスを2026年内の開始を目指す。こちらはもともとスマートフォンとの直接接続を前提とした大型アンテナの搭載が強みで、スマートフォンとの通話や下り14Mbpsでのデータ通信を実験済みだ。

 この他、AppleはiPhone 14以降に衛星と接続してのSOS機能を搭載しているが、こちらはまだ日本で利用できない。

 衛星との直接接続はサービスが開始されたとしても、日本の場合は登山などの趣味や北海道などの郊外、山中への居住、大災害で地域インフラごと被災するといった状況でないと使う機会はないかもしれない。とはいえ、今後の展開に期待したい。