NTT(日本電信電話)は5月10日、2023年度(2023年4月〜2024年3月)の通期連結決算を発表した。前年度比で増収増益の決算となり、特に営業収益/営業利益/当期利益については過去最高を更新した。同社の子会社で「総合ICT事業」を担うNTTドコモも増収増益の決算となったが、法人事業やスマートライフ(非通信)事業がけん引したもので、コンシューマー通信事業はほぼ横ばい(わずかな減収減益)となった。

 この記事では、同日に行われた報道関係者向け決算説明会の中から、注目すべきやりとりをまとめる。

●NTT目線で見る、重要子会社の新社長たち

 今回の決算公表に合わせて、ドコモとNTTコミュニケーションズ(ドコモ子会社)は6月14日付で社長を交代することを発表した。

 ドコモの新社長には、前田義晃副社長が就任する。同氏は同社としては初めてのNTT出身“ではない”社長となる(※1)。NTTコミュニケーションズの社長には、小島克重常務が就任する。小島氏はNTT出身で、NTTコミュニケーションズでは主に法人営業を担当してきた。同氏はドコモの取締役も兼任する。

 今回の人事は経営体制の“若返り”が目的の1つだという。ドコモの井伊基之社長と、NTTコミュニケーションズの丸岡亨社長は代表取締役も辞任し、それぞれの会社の相談役となる。

(※1)前田副社長は2000年、リクルートから転職する形でドコモに入社している

 なお、NTTデータグループも6月18日付で社長を交代し、同社の子会社であるNTTデータの佐々木裕社長が兼務する体制となる。

 NTTの重要な子会社(※2)において社長が一気に交代する――決算説明会では、NTTの島田明社長に子会社の社長人事に関する質問が行われた。

(※2)厳密には、NTTから見るとNTTコミュニケーションズは“孫会社”となる

―― NTTドコモ、NTTコミュニケーションズ、NTTデータグループの新社長は、(親会社の社長として)どのような能力を評価して選んだのでしょうか。また、3社の社長に期待する役割を教えてください。

島田社長 まず、3人共に(現在の各社の社長よりも)かなり若返ることになります。ドコモの前田さんは54歳ですし、NTTコミュニケーションズの小島さんとNTTデータグループの佐々木さんは58歳と、3人共に50代です。新しい世代に、次の戦略を構築してもらいたいと考えています。

 ドコモの前田さんは、ずっとスマートライフ事業をけん引してきました。スマートライフ事業はもちろんですが、グローバル事業を始めとして、新たな事業分野への挑戦が続きます。今まで“新しい事業”をけん引してきた前田さんが、それをさらに飛躍させることは重要だと思っています。

 NTTコミュニケーションズの小島さんは、長年法人営業に携わってきました。最近は統合ソリューション、特にモバイルやセキュリティが一体化されたソリューションを積極的に推進して成果を残しています。そういう意味では、新しい人(小島氏)が社長になることの期待は大、ということになります。

 NTTデータグループの佐々木さんは、既に国内事業を統括するNTTデータの社長を務めていて、同社は今回の決算でも素晴らしく成長しています。新しい人事では(海外事業を統括する)NTT DATA, Inc.の社長はアビジット・デュベイ(Abhijit Dubey)さんに交代しますが、2人は懇意にしていて、共に(NTTデータ)グループ全体を引っ張ってくれていくと確信しています。

 3人には、大きな期待をしています。

●新ユニバーサルサービスは「モバイル(携帯電話)」? それとも「光」?

 現在、総務省は固定電話サービスを「ユニバーサルサービス」に位置付けているが、契約者数は減少の一途をたどっている。そのせいか、今では固定電話のない家庭も珍しくない。

 そのこともあり、総務省ではユニバーサルサービスについて、今後の“在り方”を検討している。具体的には、モバイル(携帯電話)通信や光ファイバー回線をユニバーサルサービスの対象に含めるかどうか、責務を負う事業者をNTT東日本(東日本電信電話)とNTT西日本(西日本電信電話)以外に広げるかどうかといった議論が進められている。

 固定電話におけるユニバーサルサービスは、NTT法(日本電信電話株式会社等に関する法律)に基づいてNTT東日本(東日本電信電話)とNTT西日本(西日本電信電話)が提供責務を負っている。先述の議論において、両者の親会社であるNTTは、今後のユニバーサルサービスは、1人1台以上の回線数が普及しているモバイルを軸に検討すべきと主張している。

 前日に行われたソフトバンクの2024年度決算説明会でのユニバーサルサービスに関する質疑を受けて、NTTの決算説明会でもユニバーサルサービスの在り方に関する質疑が行われた。

―― 改正NTT法が施行されました。他社が“本丸”としている、旧日本電信電話公社時代からの「特別な資産」や外資規制、ユニバーサルサービスの在り方など、(今後のNTT法に関するう)議論の進ちょく状況をどう捉えていますか。ソフトバンクの宮川(潤一)社長は、ユニバーサルサービスについて「携帯電話回線ではなく、光ファイバー回線を指定すべきだ」と主張していますが、その点の受け止めもお聞かせください。

島田社長 総務省のワーキンググループにおける論点は大きく3つあると考えていますが、一番重要なのはユニバーサルサービス(自体)をどうしていくのかという点だと思います。

 議論を促進するために、私たちは(ユニバーサルサービスを)「モバイルでやった場合」「光(ブロードバンド回線)でやった場合」の試算を提示しました。具体的には、光でやると毎年720億円の赤字が発生する一方で、ワイヤレス固定電話を活用しつつモバイルを使えば毎年30億円くらい(の赤字)で収まる――という選択肢を示しています。

 専門家の方々に基本的なデータを見ていただいて、「どういう形が利用者が一番に使えて、負担が少ないのか」という観点で整理をしていくのが、経済合理性や利用便益の上で重要だと考えています。試算の前提条件や中身についても、ワーキンググループで要望があったので説明をしています。

 これから、議論は進展していくでしょう。(議論は)利用実態や経済合理性や利用便益の観点を踏まえて「国民にとって何がふさわしいのか」を踏まえて進めていくべきだと思います。光でやるのは1つの選択肢ですが、コストが掛かるので、私たちとしては(モバイルとの)組み合わせか、モバイルを多く使った形での展開がいいのかなと考えています。

 「外資規制」「公正競争の確保」といった他の論点は、ユニバーサルサービスをどうするか方向性を決めてから考えるべきでしょう。

 外資規制について議論の経緯を見ていくと、それぞれの立場の人が(その人にとっての)保守的な議論をしているように見えます。もちろん、安全保障は重要なのですが「何を日本国として守るのか」という軸がブレないように議論を進めてもらいたいです。ずっと保守的に物事を考えていると、世の中の変化は起こりません。「どうあるべきか」の議論を進めるべきだと思います。

 公正競争については、基本的には(電気通信)事業法で内容が確立されています。私たちはそれに粛々と対応していきたいと思います。携帯電話事業者へのNTT東西の光ファイバー回線への貸し出しについては、現状提供しているエリアはもちろんのこと、提供していないエリアでもご要望があれば設置するようにしているので、引き続きこのように対応していきます。

●「NTTドコモ・グローバル」の立ち位置は?

 今回の決算説明会では、ドコモが海外事業を統括する子会社「NTTドコモ・グローバル」を設立することを発表した。同社は「グローバル事業企画」という商号で準備会社として設立(登記)済みで、7月1日の事業開始に合わせて商号変更を行う予定だ。

 NTTドコモ・グローバルは7月に設立される予定で、設立後はドコモ傘下にある海外事業会社(NECとの合弁会社である「OREX SAI」を含む)を順次移管することで海外事業統括会社に仕立てていく……のだが、NTTグループという広い視点に立つと、NTTデータグループにも海外事業統括会社「NTT DATA Inc.」が存在する。

 今回の決算説明会では、NTTとドコモ双方に対してNTTドコモ・グローバルに関する質問が寄せられた。

NTTの会見における質疑

―― NTTドコモ・グローバルを立ち上げるということですが、海外事業をまとめる会社を作ることの意義は理解できます。一方、NTTグループを見渡すと、再編によってNTTデータグループ(NTT DATA Inc.)に海外事業をある程度まとめられたところだと思います。NTTドコモ・グローバルとNTT DATA Inc.が連携するとシナジー(相乗効果)が出せそうな気もするのですが、今後はそのような方向も考えられるのでしょうか。それとも、NTTドコモ・グローバルはあくまでも“コンシューマー向けの”グローバル事業を統括する会社として、NTT DATA Inc.とは違った成長を求めていくのでしょうか。グループフォーメーションの考え方を教えてください。

島田社長 NTTドコモ・グローバルを作る決断をした背景として、NTT DATA Inc.がB2Bのビジネスを展開する中で、そこにB2Cビジネスを加えるとなると求められる人材リソースが異なるという点があります。国内でB2Cビジネスを頑張ってきたドコモの傘下で、(海外における)B2CあるいはB2B2Cビジネスをうまくできないか――以前から模索はしていました。

 きっかけの1つとして、ドコモにおいて「『Web3』のビジネスを立ち上げよう」という段階になったことがあります。これを中心として、B2C/B2B2Cビジネスを拡大しようと。詳細は、(ドコモの)井伊社長に聞いてみてください。

―― NTTグループ全体を見ると、海外事業の展開に苦戦してきた過去もあります。なぜ、このタイミングで新会社を作って海外に打って出ようと考えたのでしょうか。

島田社長 詳細は井伊社長に聞いてほしいのですが、先ほど言った通り「お客さま」が違うことはもちろんですが、新たな「仕組み作り」も必要だということです。

 NTT DATA Inc.のリソースで対応できるお客さまであれば、そのリソースを使えばいいわけです。しかし、(ビジネス的に)それとは異なる人材を集めて展開しなくてはいけないと考えました。

 実は、東南アジアで展開しているペイメントビジネスは、NTT DATA Inc.ではなく(元々決済分野が得意な)日本の事業会社であるNTTデータが手掛けています。事業分野や得意分野によって、集まる人のスキルやケイパビリティーも異なるのです。そういうことから、今回は(ドコモ傘下に)別の会社を作って対応した方が早いと判断しました。

 今後、新会社がおかげさまで業容を拡大できた場合は、また似たようなこと(NTTグループ内での事業再編)を行う必要が出てくるかもしれません。その際は、その時々のチームがグローバルビジネスを成長させてくれると確信しています。

ドコモの会見における質疑応答

―― NTTの会見でも出てきた海外事業(NTTドコモ・グローバル)について、海外での新規事業はどのようなものを想定しているのでしょうか。差し支えのない範囲でお聞かせください。

井伊社長 本来は新会社の社長である栗山(浩樹氏)が説明すべきだと思うのですが、B2C分野では「デジタル金融の決済」「デジタルリテール」といったWeb3を使った新しいサービスを考えています。またB2B2C分野では「キャリアイネーブリング(※3)」「データプラットフォーム」「グローバルコネクテッドサービス」を考えています。お客さまのニーズを踏まえて、あるいはお客さまとご相談しながら展開していくことになると思います。

 なお、NTTドコモ・グローバルについては、後日説明会を別途開催する予定です。

(※3)他のモバイル通信事業者に対して、商用通信環境の販売/構築/運営支援を行う事業。楽天グループも「Rakuten Symphony(楽天シンフォニー)」を通してキャリアイネーブリング事業を展開している