3月4日(現地時間)にリリースされたチャットAI「Claude 3」がすごい。筆者も記事の執筆を任せられないか少し試しているが、使い方によっては「そこそこいけるな……少なくともGPT-4よりはイケる」と思う程度にはしっかりしている。

 過去に記事でも伝えた通り、ITmedia NEWSではChatGPTを活用した記事の制作も行っている。筆者もたまにGPT-4の力を借りて記事を作っているが、ものすごく効率化につながるかと言われれば、正直そこまでではない。

 10の労力が9とか8.5くらいにはなるし、それはそれですごく大事なのだが、劇的な省力化にはつながらない。さらにプロンプトを考える手間もある。その辺を加味してギリギリ黒字くらいだ。特にここ半年くらいは以前より微妙なアウトプットしか出なくなった実感があり「AIに記事を書いてもらう時代はまだ先だなー」なんて思っていた。

 一方でClaude 3は、結構雑なプロンプトでも「もしかしたら10の労力が7とか6くらいにはなるかも」というアウトプットが出てくる。その性能はSNSでも注目を浴びており「ようやく本物の“GPT-4超え”が出てきた」と話題だ。せっかくなので、記者歴7年の筆者から見た、Claude 3の文章力についてちょっと語ってみる。

●そもそもClaude 3とは何だ

 Claude 3は米AmazonやGoogle、Zoomなどが出資するAIベンチャーの米Anthropicが4日にリリースしたモデルだ。「Opus」「Sonnet」「Haiku」の3サイズ(Opusが最大)が存在し、このうちHaiku以外のモデルをWebサイトかAPIで利用できる。2023年8月までのデータでトレーニングしており、日本語での会話も可能。画像やPDFも読み込ませられる。

 で、そんなClaude 3の文章力だが……これは実物を見てもらった方がいいだろう。まず、以下の記事は人間が書いた文章だ。話題は、アイティメディアと子会社の発注ナビが立ち上げた新サービス「ITセレクト」について。

・SaaS導入支援メディア「ITセレクト」オープン 専門コンシェルジュが製品選定をサポート

 で、同じ内容をClaude 3 Opusに書いてもらうとこんな感じ。発表文と画像を入力し「画像と文章を基に、ITmedia NEWS風に記事を書いてください」とだけお願いした。

 まず筆者の感想を述べると「そこそこ使えるじゃん」という所感だ。微調整が必要な箇所はあるし、背景となる知識が足りていなかったり、逆に余計な情報が多かったりはする。ITmedia NEWSのトンマナに合っていない箇所もちらほらある(おそらくは一般的な報道記事の文章も学んでいるためだろう)。とはいえ、“バリ取り”をすれば土台にはなるレベルだ、と思った。

 GPT-3.5やGPT-4に比べて、こちらが与えた情報をもとに背景を読み取る努力が見られるのもいい。筆者の体感にはなるが(プロンプトの工夫がない場合)生成AIの書く文章は“点と点をつなぐ能力”を欠いており、ただ言い方を変えて要約することしかできなかった。それはそれで役に立つのだが、書き手としてはやはり、何らかの付加価値は加えたい。その意図を雑なプロンプトでも汲んでくれるのはありがたい。

 それを感じたのが「これにより、営業電話の多発といった課題を解消し、利用者が気軽に製品選びや資料請求を行える環境を整えた。」の部分。「一般的な〜」から始まる文章をまとめた一文だが、今までのAIにはこれができなかった。

 例えばGPT-4に同じことをさせるとこんな感じ。「〜だ、〜である」調ですらなく、いかんせんポンコツだ。これも土台に使えないことはないが、Claude 3とどっちか選べと言われれば……まぁ、Claudeだろう。出力のスピードはChatGPT(GPT-4)の方がいくらか早かったが、クオリティーを覆すほどではない。

●今度こそ記者はいらなくなるか

 そうなると「今度こそ記者はいらなくなるか」という話をしたくなる。ChatGPTやGPT-4が出てきたころにも同じ話題があったが、今度はどうか。これに関しては「まだそこまでは言えないかな」が筆者の感想だ(自分自身の仕事なので、ポジショントークかもしれないが)。

 まず、先ほども話したように調整が不要なわけではない。何度も試すとたまにウソを書くので、ファクトチェックは必須だ。その意味でも人間の目は欠かせない。

 2023年8月まではカバーしているとはいえ、時事性に弱いのも厳しい。ITmedia NEWSはニュース媒体で、ニュースは新しい情報を扱ってなんぼ。Claude 3は少なくともWebからはURLにアクセスできないので、カバーする手段もない。

 最後に、複数のマルチモーダル(文字に限らない視覚や聴覚など)な情報を束ねて、記者独自の切り口で一つの記事にまとめる作業は、まだ任せられない。手前味噌だが、例えば筆者が過去に書いた以下のような記事は、Claude 3でも書けないと思う。

・400万本売れた「パルワールド」早速プレイした 没頭するほど面白いのに、心の底から“申し訳なさ”を感じた理由

・スクエニの“武器庫”、特別に入れてもらった アイテムの数々、何に使う?

・どうしてそんなことするの ソニーから物理的に巨大な「企業のお知らせ」が届いて戸惑った話

 完全に主観だが、時事性に弱いこともあってAIは人の興味を引くような話題の切り口を発案できないように感じる。それを反映した文章構成も同様だ。ただしアイデアの種を無尽蔵に出せる強みはあるので、使うとすればそこだろう。

 もちろん、独自の切り口を持った記事の執筆もできないことはないかもしれない。とはいえ都度プロンプトを調整したり、入力するデータをAIが食べやすいように成型したりする手間を考えると、やっぱり自分で書いた方が楽だ。つまりコラムや複数人への取材を基にした記事は、まだ人間がやった方が生産性が高い。

 ただ、企業からの発表をもとに記事を書くなら、上述の通りAIと協業できる可能性が十分にある。この作業はAIで効率化して、自分は取材や独自性のある記事の執筆に専念する、という働き方はできそうだ。これなら、記事執筆の生産性は格段に上がる。これまで時間不足で手を出せなかったネタにも着手できるかもしれない。

 つまり、自分の仕事についていえば「仕事をAIに奪われるかもしれない」ではなく「AIに任せられるかもしれない」と感じた。そもそも筆者のような記者・編集者の仕事は記事を書くことではなく、誰にどんな情報やコンテンツを届けるか判断することで、書く作業自体はその手段にすぎない。

 その手間をアウトソースし、本来の仕事に割けるリソースを増やせるのは大歓迎。筆者の感想を例えると、すごく高性能なペンやキーボードを手に入れたような感覚だ。一方で、これは一部のライターにとっては危機かもしれない。例えば、仮に“こたつ記事”しか書けない人がいたら強力なライバルになるだろう。

 となると、専門知識や取材能力がある記者・ライターの価値は相対的に高まるだろうか(筆者もそうありたいものだ)。いずれにせよ、Claude 3はそういう可能性の一端を感じられる程度には実力があった。

●すぐに後発が出てきそうではある

 とはいえ、生成AIは技術としてもサービスとしてもまだまだ発展の最中だ。状況がすぐに変わるのは想像に難くない。Claude 3が今後急に使いにくくなる可能性もあるし、GPT-4の後継モデルとうわさされている「GPT-5」はもっと記事執筆に強くなっている可能性だってある。

 そうなると、いずれは独自性の高い記事を任せられるようになるかもしれない。あるいは、その前に既存の広告モデルがAIによって崩壊するかもしれない(そうなったら筆者は大変だが)。そのとき、上記の感想はまたガラッと変わると思うが、ファーストインプレッションとしては前向きな受け止めだ。