おっくうになりがちな家事のひとつが、トイレ掃除だ。こまめに掃除していれば清潔な状態を保てるが、ちょっとさぼると汚れがこびりついてしまう。

 このトイレ掃除を回避できるのが、自動洗浄機能を搭載するトイレだ。複数のメーカーから、用を足したあと自動で泡や消毒水で便器を洗ったり、コーティングするなどの自動洗浄機能を搭載する製品が登場している。

 そんな中、注目のトイレが登場した。LIXILが3月に発表し、6月3日に全国で発売する全自動洗浄タンクレストイレ「SATIS X(サティス エックス)」だ。複数の洗浄機能を組み合わせ、目に見えない汚れも落とし、きれいな状態が続くという。さらに洗浄時の水流を見直すために便器の構造から再設計されたというSATIS Xの構造や自動洗浄の仕組みについて、LIXILのトイレ空間商品部で製品を担当する田中英光さんに話を聞いた。

●トイレが自動で能動的に掃除してくれる

 SATIS Xには、大きく分けて4つの洗浄機能がある。それが、「極みトリプル水流」「泡クリーン」「ノズルオートクリーニング(パワフル)」「シャッタークリーニング」と呼ぶ機能だ。

 「極みトリプル水流」は、水を便器の3方向から出してムラなく行き渡らせ、汚れを洗い流す仕組み。通常のトイレは、本体後方の1カ所から水が出て汚れを洗い流すのに対し、SATIS Xでは中央と左右から従来より勢いのある水を出す(後述)。便器自体を開発・製造する同社だから実現できた機能だ。

 そして毎日、サボることなく、自動で便器のお掃除をしてくれるのが「泡クリーン」機能だ。これは深夜などの設定した時間に、洗剤液を便器内に旋回させて広げ、さらに3時間漬け置く機能。この漬け置きによって、水だけでは落しにくい微生物やハウスダストなどの汚れも落とせるという。

 「ノズルオートクリーニング(パワフル)」「シャッタークリーニング」は、トイレの使用後にノズルやノズルシャッターを洗い流す機能だ。4機能すべてが、現在特許出願中だという。

 「今までのトイレの洗浄機能は、汚れがつきにくいであるとか、便座や便器に隙間が空けられるなどで掃除がしやすいというものでした。あくまでも“トイレ掃除は人間がやる”という常識は変わっていなかったのです。その点、SATIS Xは、トイレ掃除そのものを“トイレが自発的に、能動的に、自動で”やってくれます。これまでのトイレとの1番の違いだと考えています」(田中さん)

 LIXILでは、水回り・タイル事業の100周年(前身となる伊那製陶の設立から)を記念し、次の100年に向け、清掃性を高めることで忙しい現代人の暮らしにゆとりをもたらす新しいトイレとしてSATIS Xを提案していくという。

●汚れを洗い流す、3方向からの強力な水流

 便器に汚れが残ってしまう原因の1つに、便器の水流ムラがある。一般的なトイレは、奥の1カ所から水が出て、ぐるりと便器内を回って汚れを洗い流す。出始めの水流は勢いがあるもの、後半は弱くなってしまううえ、さらに排水口の上部など、そもそも水が届かない場所などもあった。水流が弱くなりがちな箇所や水が届かない箇所に汚れが残りがちで、放置するとこびりつくいてしまう点が課題だった。

 SATIS Xは、便器内を3つのエリアに分けて洗う仕組みを採用。左右と後方から吐水できるようにした。しかし、ただ3カ所から水を出すだけでは、水流に勢いがなくなり、うまく洗えなかったそうだ。

 そこで3カ所からの吐水タイミングを変更。順番に出すことで水の勢いを維持しつつ、広範囲の洗浄を実現したという。

 「日頃、トイレを使ったときに、どういったところに汚れがつくのかを、モニターや実験で何度も何度も繰り返し調査しました。今回の技術は8年くらい前から開発してきたものです。水流は距離が長くなると弱くなります。だから3カ所から水を出すことで、水流の距離を短くし、水流が弱くなる場所をなくしているのです」(田中さん)

 3方向から水流が出る便器は過去につくったことがあったそうで、これをリニューアル。とはいえ、SATIS Xの開発にあたっては、水が出る位置を見直し、洗浄性能を高め、洗えない部分をなくしている。

 トイレ使用のたびに水の力で汚れを落とす機能として、ほかに「ノズルオートクリーニング(パワフル)」「シャッタークリーニング」がある。ノズルオートクリーニングは、従来の2倍以上の水流で洗浄する。またノズルシャッターはこれまで洗浄されることがなかった場所だったため、販売店などからも好評だという。

●「3時間の泡洗浄」で、便器の汚れをリセット

 「泡クリーン」は、全自動洗浄のキモとなる機能だ。これまでにも中性洗剤などで泡状の洗浄液をつくって小便の飛び跳ねを抑制したり、便器を洗う機能は存在していた。今回、SATIS Xで実現したのは、水流だけでは取り切れない微細な汚れの除去だ。

 「ハウスダストや微生物サイズの汚れは、水で流してもほんの少しずつ残り、蓄積されていきます。その上にさらに汚れが付着してしまうため凹凸ができ、さらに汚れが蓄積するという悪循環になっていました。これを防ぐため1日1回、泡を溜めて細かい汚れを徹底的に除去するのが重要だと考えています」(田中さん)

 泡クリーンは専用洗剤だけでなく、台所用の中性洗剤が利用できる。これを使って毎日3時間、便器を漬け置き洗いすることで汚れの付着を防ぐというわけだ。そして洗浄中でもトイレの使用は可能。便座のフタを開けると、漬け置きの泡が流れる仕組みだという。ただし漬け置き洗浄は、その時点で終了となるため、できるだけ不在時や就寝時などに設定しておきたい。

 掃除不要が嬉しいSATIS Xだが、ランニングコストはどうだろうか。泡クリーン1回で約23.5Lの水を使うため、水道代約は約6円。電気代は誤差の範囲だという。このため毎日泡クリーンをしても、水道代は月間180円アップするだけですむ(洗剤代は別途必要)。シャワーやお風呂、食器洗いなどで使う水道代から見れば、わずかだといえるだろう。

 LIXILでは、「人間によるトイレ掃除が、完全に不要になるわけではない」としているが、負担が大幅に軽減することは間違いない。掃除、洗濯・乾燥、食器洗い・乾燥など、すでに家事の多くで自動化が進んでいる。この先、全自動洗浄トイレが普及すれば、トイレ掃除の負担も軽減されていくだろう。

(コヤマタカヒロ)