マウスコンピューターは3月19日、広島市中区の「広島サービスセンター」(広島SC)をプレスに初公開した。

 広島SCは、埼玉県春日部市の「埼玉サービスセンター」(埼玉SC)に次ぐ、同社の新たなサポート/修理拠点として2023年11月に開設された。

 これまで同社は埼玉SCで日本全国全ての修理サービスを担っていたが、今後は近畿/中国/四国/九州/沖縄を含めた西日本エリア(全域は2024年内予定)の修理サービスを広島SCが担当することになる。

 これにより、西日本エリアの修理納期の短縮や法人ユーザーの保守強化を目指す。同時に、サービスセンターが2拠点体制となることで、災害時などの緊急事態にも修理サービスを安定的に提供できるとBCPの観点でも利点があるとしている。

●「GLP 広島II」に「広島サービスセンター」を開設 西日本をカバー

 マウスコンピューターは、2007年より広島県廿日市市(はつかいちし)に位置するエディオン(旧デオデオ)物流子拠点内に、エディオン専属の修理グループ(旧拠点)を設けていた。今回、エディオンで販売した製品以外も含め西日本地域をカバーする修理サポートを行えるようにすべく、旧拠点から移転する形で広島SCを設立した。

 広島SCのサポート範囲は西日本エリアとなっているが、設立直後は九州/沖縄エリアのみから開始され、2024年4月には中国/四国エリアが、同7月に大阪府を除く近畿エリアが、同12月に大阪府も含めた西日本全域をカバーする計画となっている。

 新拠点は、広島県広島市中区の臨海エリアにあるマルチテナント型の物流施設「GLP 広島II」内に位置している。広島SCセンター長の亀井賢氏によると、施設が新しく(2023年1月竣工)環境や設備も充実し働きやすいこと、警備員が常駐し入室にカードキーが必要などセキュリティ性面も考慮されていること、旧拠点と比べて最寄り駅から近く、旧拠点に勤務していた従業員もアクセスが容易であること、人口の多い広島市に位置していることで人員が集まりやすく地域採用につなげやすい、といったことがこの場所を選んだ理由だったという。

 広島SCの床面積は、埼玉SCの半分ほどの1080m2あり、現在の従業員数は正社員21人(うち女性3人)、アルバイト3人の24人で、将来は西日本エリアの修理サポートに対応できるよう50人規模に拡大する計画だという。

 さらに、2024年5月以降にはコールセンターも立ち上げる予定となっている。コールセンターは10人程度の規模を想定しており、主に法人顧客のサポートを担当することになるそうだ。

●従業員の健康増進やリラックススペースも充実

 GLP 広島IIには、入居している複数の企業が利用可能なカフェテリアがある。従業員がランチを食べたり、本や雑誌などを読んだりしてリラックスできる場としてだけでなく、会議スペースで会議を行ったり、電源のあるテーブルやカウンターではリモートワークもしたりできる。開放的な雰囲気で、臨海エリアらしく海を望める眺望もあり、リフレッシュするには最適な場所という印象だ。

 また、廊下の床には2種類の歩幅を計測できる模様が施されていたり、階段利用を促すメッセージが壁に書かれていたりと、健康増進を意識した設計者の遊び心も垣間見られる施設となっている。

●埼玉SCと同じ品質で西日本エリアのユーザーの問題を解決

 広島SCの役割は「埼玉SCと同じ高い品質で、西日本エリアのお客さまのもとで発生している問題を解決する」(亀井氏)ことだという。

 埼玉SCから西日本エリアへ修理完了品を輸送する場合、輸送時間はこれまで2日を要していたのに対し、新拠点からであれば輸送時間を1日に短縮できる。これは西日本エリアのユーザーにとって、修理対応時間が短くなるという大きなメリットになる。

 また、GLP 広島IIは佐川急便の物流センターも入居しており、佐川急便との連携によって迅速な入出荷対応が行えるとともに、物流コストの削減も実現でき、マウスコンピューターにとってもメリットが大きいそうだ。

 広島SCでの修理の流れは、埼玉SCで行われているものとほぼ同じだ。

 修理品の入荷は1日に2回だ。修理品が入荷したら箱を開け、あらかじめ用意されているチェックシートに基づいて付属品の確認や本体の傷の有無などをチェックし、返却時に欠品が発生しないように付属品の写真を撮影して、それらを社内システムへ登録する。

 システム側で、製品のシリアルナンバーをベースに出荷時の製品構成や修理履歴が全て残る仕組みを採用することで、その後の対応もスムーズに行えるようになっている。

 具体的な修理の流れを見ていこう。

●修理期間を短くするコツとは?

 修理作業はノートPCとデスクトップPCで分けて対応するが、いずれも診断/修理/品質管理の順に行われる。

 まず、ユーザーから伝えられた症状を再現し、故障カ所を特定する。続いて、問題のある部品を交換するなどの修理を行う。

 修理用の部品は、種類ごとに専用の棚に保管しているが、一部の部品についてユニークな収納方法を採用している。これは、エアキャップを使った袋にフックを取り付け、棚のポールに引っかけ吊り下げて保管するというもので、スタッフが編み出したものだという。

 部品によっては、箱に入れて保管している場合、取り出す際に部品同士がぶつかったり自重などで破損、故障したりすることがあったが、吊り下げ方式に変更して以降は、部品の故障率が大幅に減少しているという。

 不具合のあった部品については、効率面の観点から全て埼玉SCの品質管理本部に送り、そちらで部品メーカーに修理や交換を依頼することになるという。

 修理後の品質管理では、あらかじめ定められたチェック項目に従って正常動作をチェックする。チェック項目はノートPCが35項目、デスクトップPCが30項目で、必要があればファームウェアのアップデートなども行うそうだ。

 品質管理で症状の改善が確認されれば修理は完了となり、ユーザーの元へ配送される。

 なお、診断の段階で症状が再現できなかった場合にはユーザーに確認の連絡をする必要があるため、「あらかじめオペレーターに連絡の付きやすい時間や連絡先を伝えていただければ修理時間の短縮につなげられるので、その点はご協力いただけると大変助かる」(亀井氏)とのことだ。

 また、この修理部門は製品開発の一部としても機能しているという。偶発的な不良については通常通り修理を行うが、傾向性のある不具合については製品開発の品質管理部門と連携して各製品に対策を施したり、部品の検証も行っていたりするそうだ。修理部門と製品開発の品質管理部門とが連携することで素早く不具合に対処でき、同社の製品品質を高める要因となっている。

 そして、天井高が約6mあるという施設の構造を活用した倉庫機能も確保している。部屋内にネステナー(パレット用の保管棚)を設置し、最大84パレットの保管スペースがある。こちらには、主に長期保管が必要な部材を保管する予定で、今後は埼玉SCと分散して部材を保管し、社外で使っている倉庫を圧縮したいという。

●サポート品質の向上に向けた取り組み

 これまでは広島SCを中心に見てきたが、改めて同社のサービス体制を見ていこう。

 同社の修理部門は2002年に立ち上がり、埼玉県杉戸町を経て2011年に埼玉県春日部市に埼玉SCを開設した。現時点での人員数は広島SCの約5倍にあたる124人となっている。

 ユーザーサポートの窓口であるコールセンター(CC)は、沖縄(沖縄県沖縄市)と米子(鳥取県米子市)に設置される。CCは当初外部委託で運営していたが、「PCメーカーのCCとして“正しく”運用したい」(軣氏)という意図もあり、2010年に沖縄CCを設立した。その後は、BCP(事業継続計画)対策で米子CCを2015年に設立している。

 現時点での人員数は沖縄コールセンターが98人、米子コールセンターが21人となる。その上で、法人サポートをより強化したいということで、埼玉と広島のサービスセンターにもCCを設置する計画だという。既に埼玉SCには7人を配置しており、今後埼玉、広島ともに10人規模の法人向けCCにするとのことだ。

 従業員の構成は、SCでは51%、CCでは73%が正社員となっている。ただ、軣氏は「女性活躍の場をもっと広めていかなければならない」とし、働き方改革、休み方改革を積極的に推進しているという。

 具体的には、コールセンターシステムのクラウド化による在宅勤務の実現や1時間単位での有給休暇取得制度、家族も含めたインフルエンザ予防接種支援、「くるみん認定」の取得や女性活躍/子育て支援といった女性活躍の場の推進などに取り組んでいるとのことだ。

 この他、沖縄CCでは休憩室にBGMを流したり、フリーWi-Fiを設置したり、広島SCでは紹介したようなカフェテリアが用意されるなど、リフレッシュできる環境も整えていくとした。

 また、1月に発生した能登半島地震も含め、近年国内では自然災害が増えているが、そういった自然災害で被害を受けたユーザーへの特別修理対応を実施している。能登半島地震においては、修理診断や修理作業の費用を無料にする特別修理対応を実施しており、「こちらを活用して1日でも早い復旧につなげてほしい」という(軣氏)。

●目標値は超えるもゴールはまだまだ サポート強化に向けた取り組み

 続いては、CCの稼働状況だ。現在のCCへの問い合わせ流入比率は約半数が電話で、3割ほどがメールやLINE、残りの約16%がAIチャットボットとなっている。軣氏は「AIチャットボットの比率がまだまだ低い」と指摘し、「今後はメールやLINEも含めた問い合わせを増やし、電話の比率を下げていきたい」という。

 CCのパフォーマンスは、2023年度(進ちょく中)には受電率が88.4%、平均応答率が61秒、一時解決率が19.8%、アンケートスコアが89.1点となっている。これらはいずれも2022年度の実績を上回っているものの、目標値にはわずかに届いておらず、いずれも現状に満足することなく改善を進めていきたいと述べた。

 その上で、2024年度中にはCCにAI音声認識システムを導入し、オペレーターの負担軽減に結びつけたいという。

 SCでは、3年間の標準無償保証、72時間以内の修理完了、5年間の修理対応、法人サポートメニューの充実という4つの柱を掲げて運営している。

 修理の入荷状況は、個人が55%、法人が45%で、そのうち有償修理が58%を占める。入荷エリアとしては全体の3分の1ほどが西日本エリアとなっており、そちらを広島SCが請け負っていくことになる。

 2023年度(進ちょく中)のSCの実績は、入荷から修理を完了し出荷するまでの平均修理納期が70時間、5年間の修理可能率が99%、3カ月以内に不具合が発生する際の返却率が5.1%だったという。

 5年間の修理可能率は目標値をわずかに下回っているが、他は目標値を大きく上回っている。ただ平均修理納期については、2022年度の60時間からかなり伸びている。これについて軣氏は、修理品質を高めるためにQCなどに時間をかけるようになったことで時間が延びていると説明した。それによって再返却率が低下しており、ユーザーにとっては修理品質の向上というメリットにつながっていると指摘する。

 修理メニューとしては通常修理に加えて、出張修理や持ち込み修理、パーツ発送などのさまざまなメニューを用意する。また法人向け購入前サービスとしては、導入支援サービス、企業ロゴなどのカスタマイズサービス、バルク配送サービスなどを実施しているが、「ご相談いただければ、だいたいのことは対応できる」(軣氏)という。

 法人向けの購入後サービスとしては、下取りサービスやPC買い取りサービスを実施しているが、買い取りサービスについては、2024年度には個別見積もりで買い取りが行える仕組みを構築する計画とのことだ。

 他にも、自営保守契約という制度も実施している。こちらは研修を受けた上で認定した販売店が修理を行えるという制度で、サービスセンター経由よりも短時間に修理対応ができるとい観点から、今後全国展開を推進したいという。

 今後のサービスセンターの取り組みとして、広島と埼玉の間での連携を強化や、修理スタッフの交流や勉強会などによる情報共有、品質ミーティングを通じた業務改善を行うことでサービスの品質を向上することを挙げた。また、「修理品整理カードのペーパーレス化や、法人向けのオンサイト修理などにも取り組んでいきたい」(軣氏)とした。