GPDやONE-Netbook Technology、AYANEOといった中国のUMPC(超小型PC)メーカーの国内代理店として知られている天空が、自社ブランドの2in1ノートPC「TENKU MOBILE S10」を発売した。実売価格(税込み)は8万円前後となっている。

 これまでも、天空は自社ブランドの「TENKUシリーズ」を冠するPCをリリースしてきたが、今回のTENKU MOBILE S10は10.51型と結構“小ぶり”である。UMPCと呼ぶには少し大きいが、持ち運んで利用するのに邪魔ならない――筆者のような小型PC好きにとって注目の1台だ。

 今回、同社からTENKU MOBILE S10の試用機をお借りできたので、どんなことができるPCなのかチェックしていきたい。

●TENKU MOBILE S10の特徴をチェック!

 まず、TENKU MOBILE S10の特徴をチェックしていこう。

 本機はコンバーティブル式の2in1ノートPCで、ディスプレイは1920×1200ピクセル(アスペクト比16:10)の10.51型液晶だ。その上部には約200万画素のWebカメラを備えている。残念ながら顔認証には非対応で、指紋センサーも未搭載なので、Windows Helloを使うには外付けの認証デバイスを用意する必要がある。

 ヒンジは無段階で、好きな位置で固定可能だ。背面に回して、タブレットスタイルでも利用できる。

 Windows 11自体、タブレットモードでの使い勝手がよいとは言えないので、タブレットスタイルでの利用はあまりお勧めしない。ただ、机が狭い場所などでは、キーボードを下にしたスタンドスタイルやテントスタイルで使うと便利ではある。

 本体のサイズは約244(幅)×166.4(奥行き)×17.2(厚さ)mmとコンパクトだ。フットプリントはA4(297×210mm)とA5(210×148mm)の中間で、B5(257×182mm)サイズに近い。重さは約920gで、サイズの割には重く感じるものの、ノートPCとしては十分に軽量だ。

 本体サイズと合わせて、持ち運びには困ることはないだろう。

 キーボードは日本語配列だが、US(米国英語)配列のキーボードを“無理やり”日本語対応させたようで、一部に変則的なキーアサインが見られる。キーピッチは約17.8mmと余裕があり、タッチタイピングも可能だ。ストロークもそれなりにあり、打ち心地は悪くない。

 約83(横)×47(縦)mmと小さめだが、タッチパッドも十分に実用できる。

 インタフェース類は、右側面にUSB 3.2 Gen 2 Type-C端子×2と電源ボタン、左側面に3.5mmイヤフォン/マイク端子を備える。

 USB 3.2 Gen 2 Type-C端子はUSB PD(Power Delivery)による電源入力と、DisplayPort Alternate Modeによる映像出力に対応する。充電マークが右側の端子にしか付いていないが、どちらのポートでも充電はできるので安心してほしい。

 バッテリーの駆動時間は、JEITA バッテリ動作時間測定法(Ver. 3.0)における動画の連続再生で最長約3.2時間となっている。

 ULのPC総合ベンチマークアプリ「PCMark 10」のバッテリーテスト(Modern Office)で実測したところ、100%から4%(強制休止状態)までの駆動時間は4時間25分となった。外で1日中使うには少し心もとないものの、USB PDで45W出力できるモバイルバッテリーと組み合わせて使うとカバーできそうだ。

 本機の主な特徴を一通りチェックしたところで、処理パフォーマンスをチェックいこう。

●CPUは「Intel N100」 その実力は?

 ここからは、ベンチマークテストでTENKU MOBILE S10の性能を確認していこう。

 本機が搭載する「Intel N100」は、エントリークラスのノートPCなどで採用されている4コア4スレッドの廉価ノートPC向けのCPUだ。第12世代Coreプロセッサ(開発コード名:Alder Lake)における高効率コア(Eコア)のみで構成されており、製造プロセスは「Intel 7」となる。Eコアだけとはいえ、「Celeron N5100」や「Pentiumu Silver N6000」といったJasper Lake(開発コード名)世代のCPUと比べると性能は高い。

 本機は16GBのLPDDR5メモリを備えている。Intel N100搭載のPCでは、メモリの容量が4GB〜8GB程度であることも多いが、本機については普段使いに十分な容量を確保している。

 まず、3Dレンダリングを通してCPUのパフォーマンスをチェックできる「CINEBENCH R23」の結果だが、マルチコアで2683ポイント、シングルコアで884ポイントという結果だった。

 参考に、筆者の手元にあるCeleron N5100搭載の初代「CHUWI MiniBook X」(10.8型)のスコアを見てみると、マルチコアで1479ポイント、シングルコアで551ポイントだった。CPUのパフォーマンスはおよそ1.5倍向上している。

 続いて、PCMark 10の標準テストを一通り実行した。スコアは以下の通りだ。

・総合:3041ポイント

・Essentials(日常的なPC作業):6973ポイント

・Productivity(オフィス作業):4472ポイント

・Digital Content Creation(デジタルコンテンツ編集):2449ポイント

 開発元のULによると、個別テストの推奨スコア(快適に使える目安)は以下の通りとなっている。

・Essentials:4100以上

・Productivity:4500以上

・Digital Contents Creation:3450以上

 そう考えると、Webブラウジングやビデオ会議は問題なくこなせて、オフィスアプリはギリギリ使えるが、写真編集や動画編集などは厳しいという感じだろう。

 せっかくタブレットモードがあるので「スタイラスペンを使ってイラスト作成や画像編集を……」とも思うのだが、残念ながらその用途での使用は難しい(そもそもスタイラスは付属していない)。

 3Dグラフィックスのベンチマークテストアプリ「3DMark」の主要なテストも実行してみた。スコアこそ初代CHUWI MiniBook Xを上回っているものの、ゲームを快適に楽しむまでのスペックは備えていない。

 試しに「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITIONベンチマーク(FF15ベンチマーク)」を実施したところ、軽量品質/1280×720ピクセル/フルスクリーン設定でも1319ポイントで「動作困難」となった。

 ただ、負荷の軽い「ドラゴンクエストXベンチマーク」を試したところ、低品質/1280×720ピクセル/フルスクリーン設定であれば、4575ポイントで「普通」という評価を得られた。

 本機でゲームを楽しもうと考える人はあまりいないだろうが、軽量級のタイトルであれば何とか遊べるかもしれない。

 ストレージはPCI Express 3.0 x4接続の1TB SSDで、容量は大きめだ。試用機では「AirDisk 1TB SSD」というものが搭載されていた。あまり聞かないメーカーだが、軽く調べたところ、中国メーカーのミニPCなどでよく採用されているようだ。

 「CrystalDiskMark 8.0.5」でアクセス速度を調べてみたところ、シーケンシャル読み出しが毎秒3450MB、シーケンシャル書き込みが毎秒3107MBだった。PCI Express 3.0 x4の理論最高速度(毎秒3500MB)近いスピードが出ている。

 レビューは以上となるが、最後にどうしても言っておきたいことがある。

●実は“兄弟機”が存在する?

 UMPC好きな人ならば、TENKU MOBILE S10の姿に「どこかで見たことあるな……」と感じた人も多いはずだ。それもそのはずで、本機は先ほどのベンチマークテストで比較対象として出した初代MiniBook Xと“うり二つ”なのだ。もっというと、Intel N100を搭載する第2世代の「MiniBook X N100」とも酷似している。

 実際、本体寸法を含めて、本機とMiniBook X N100のスペックはほぼ同じである。底面に刻印されているシリアル番号(らしき数字)も、MiniBook Xと同じ「ZMinBX〜」という書き方だ。恐らく、CHUWIから供給を受けたのだろう。

 ただし、“ほぼ同じ”という点が重要なポイントで、実際には細かいスペックには差異があり、MiniBook X N100では12GBだったメモリが16GBに、512GBだったSSDが1TBに増量されている。

 5万円台で購入できるMiniBook Xと比べると、TENKU MOBILE S10の8万円前後という価格はやや割高にも感じる。しかし、家電量販店でも購入できるため入手性が良く、日本国内でサポートを受けられるという安心感もある。スペックの向上分と合わせて考えると、十分受け入れられる差額だと考える。

 現在も、筆者は外出時を中心に初代MiniBook Xを愛用している。Celeron N5100ではあるものの、原稿を書いたり、Webブラウザで調べものをしたりする使い方であれば、性能的には全く不足は感じない。性能がアップしたN100なら、一層快適だろう。

 サイズ感も絶妙で、製品発表会などで机が狭かったり、そもそも机がなかったりする場所でも気軽に使えるのがメリットだ。キックスタンドにキーボードカバーのタブレットPCでは膝に載せて使うのが難しいが、TENKU MOBILE S10のような2in1タイプなら問題ない。

 ちなみに、TENKU MOBILE S10の背面には「熱くなるため膝の上などに置いて使用しないでください」との注意書きがある。膝上で使用する場合は、自己責任となるので注意したい。

 ともあれ、TENKU MOBILE S10は、気軽に持ち運ぶことができ、場所を選ばずに使えるノートPCとなっている。7型や8型のUMPCでは小さすぎてキーボードが打ちづらいが、かといってキーボードを別に持ち歩くなら普通のノートPCでいいのではないか、と考えて人はぜひ手に取ってみてほしい。