2021年度に始まった「GIGAスクール構想」によって、小中学校では学習用デバイスを1人1台持つという状況が実現した。4年目を迎えた今、2025年に向けて次のフェーズが動き出している。それが浮上した課題の解決やさらなる活用を前に進める取り組みの総称「NEXT GIGA」だ。

 しかし、解決しなくてはいけない現場の課題は山積みだ。予想以上に多かったデバイスの破損事例、デジタルのメリットを最大限に生かせない環境、早いところでは2025年度に大量のデバイスの更新時期を迎える自治体もある。

 PCメーカーはそういった現状にどのような答えを出すのか。5月8〜10日に東京ビッグサイトで開催されている教育向け展示会「EDIX 東京」で目にしたものを紹介する。

●頑丈さを追求したDynaBookのGIGAスクール端末

 元気な子供たちが雑に扱っても壊れない――そんなコンセプトで作られたのが、タブレットPCとキーボードドックから構成される2in1デタッチャブルノートPC「dynabook K70」だ。

 ボディーにはプラスチックの硬さとゴムの柔軟さをあわせもつ樹脂素材「TPU」(熱可塑性ポリウレタン)を使ったバンパーが取り付けられており、大人の腰の高さ(約76cm)から角を下に向けて落としても本体に影響しない頑丈さがある。

 TPU自体がゴムのような手触りで滑りにくい素材のため、持っていても落としにくいという特徴もある。また、オプションの専用ケースを装着すれば、さらに保護力が高まる上、スタンド兼ハンドルでつかみやすくなるため、落とす心配を極限まで減らせるだろう。

 キーボードとディスプレイの接続部分には、脱着を確実に行って接触不良を防ぐツメがある。低学年の子供でも間違いづらいという。ツメ自体も頑丈で、握力39kgの筆者が強い力で押してもびくともしなかった。これなら通常の利用で折れることはないはずだ。

 キーボードにも工夫が施されている。キーキャップの2カ所にアンカーが仕込まれており、簡単に外れないようになっているという。

 本体がコンパクトであるため、教科書、ノート、筆箱、そしてdynabook K70を一緒に教室の机の上に並べても余裕がある。またランドセルに楽に入れられるというのも子供目線でうれしい仕様だろう。

 タブレットとして使う際に必要なペン「充電式アクティブ静電ペン2」は、キーボードドックに内蔵可能だ。マグネットでディスプレイ周辺に取り付けるタイプではなく、思わぬ紛失を防止できる。とことん子供目線で作ったというキャッチフレーズに偽りのない端末だった。

●“メタバース・スクール”なレノボ・ジャパンブース

 レノボ・ジャパンは、登校するのが難しい児童や生徒向けに展開していた「メタバース・スクール」を発展させ、学級閉鎖といった状況でも活用できるサービスとして提案していた。

 不登校の児童や生徒を支援するメタバース・スクールでは、学びの「教室エリア」の座席数が少なく、会話エリアなどとスペース配分が同程度だった。今回の展示では、大人数に対応できるように教室エリアが大きく取られていたのが印象的だった。

 STEAM教育に対応した小中学生向け、高等学校向けプログラミング学習ツールも展示していた。こちらもメタバース・スクール同様、Webブラウザ上で動くため、端末を問わず使えるのが特徴だ。

 これまでのGIGAスクール構想では、(メーカーを問わず)予想以上にデバイスが破損するという課題が全国的に浮き彫りになった。そこでレノボはNEXT GIGAに向け、頑丈なChromebook「Lenovo 14e Chromebook Gen 3」などを展示していた。

●文教分野への導入実績が高いASUS JAPANブース

 ASUS JAPANブースは2エリアに分かれていた。片方は現行モデルや新製品の実機展示、他はパートナー企業のソリューション展示だ。

 文教分野におけるASUS製品の導入シェア率はNo.1で、全国1500校に上るという。最も人気を集めているのがタブレットタイプの「ASUS Chromebook Detachable CM3(CM3000)」で、約500校が導入しているという。

 ディスプレイが360度回転するフリップタイプも人気だ。天板にゴム製バンパーを、タブレットタイプはオプションのバンパー内蔵カバーを用意するなど、多少乱暴に扱っても壊れない頑丈さを持たせている。最長6年保証を用意しており、万が一壊れたときでも親の出費が少なくて済むのがありがたい。

 2025年度の導入を目指す、新製品の「ASUS Chromebook Flip CZ1(CZ1104)」も展示していた。CPUはMediaTek Kompanio 520(8186)、メモリは4GBまたは8GBのLPDDR4X、ストレージは64GBのeMMCで、ディスプレイサイズは11.6型だ。

 開発段階のサンプル機とのことだが、天板部に搭載したゴム製ダンパーで頑丈になっていると感じた。

 パートナー企業エリアでは、授業支援プラットフォーム「Win Bird 授業支援」が展示されていた。これは教育向けソフトウェアを手掛けるウィンバードが提供するソリューションで、授業中に児童や生徒たちのデスクトップ全体をモニタリングしたり、教師側端末のデスクトップをクラス内の生徒の端末に表示させたりすることで、授業の主導権を教師が握れるようにするもの。

 集中して話を聞いてもらいたいときなどは、キーボードやタッチパッドの操作を受け付けないようにして端末の利用を禁止するといった柔軟な対応も可能だ。

 文部科学省が推進しているCBT(Computer Based Testing、PCで実施される試験)でカンニングができないよう、教師が配布した試験問題を最大化したウィンドウで最前面に表示しつつ、他のウィンドウに遷移できないようコントロールする「Win Bird カンニング対策オプション」も提供している。

 検索で答えを探すといった行為ができないように無関係なWebサイトを強制的に閉じるなど、チャットなどのアプリを開いても試験問題と解答用紙が最大化かつ最前面に表示されているので見ることができないような仕組みになっている。ブラウザの機能拡張を利用するため、対応しているのはChromebookとWindowsのみだ。

●学校に通えない児童や生徒も置き去りにしないビデオ会議システムの利用例を示した日本HPブース

 日本HPでは、電子黒板「MIRAI TOUCH」(ミライタッチ)の実演セミナーを開催していた。大画面モニターでは画面に直接タッチできず、PCを操作しなければいけないなど直感的な操作が難しい。かといって大画面かつタッチ操作対応のモニターは値が張る。そのようなニーズに対応しているのがMIRAI TOUCHだ。

 この電子黒板は65型で4K表示、40点タッチに対応しており、USB Type-Cケーブル1本で生徒側のPCも接続できる。日本HPで実演セミナーしていたものはOSとしてChromeOS Flexを組み込んでいるため、単体でもPCのようにさまざまな機能を使えるという。例えば、Google ドライブに保存しておいた教材を都度ダウンロードしながら展開し、表示したり、児童や生徒側のデバイスにも同じものを表示させたりできる。

 あわせて取り付けていたビデオバー「Poly Studio」を使えば、自宅から参加している児童/生徒にも教室の様子や教師の声を自然に届けられるという。

 紙の教材はMIRAI TOUCHと接続した複合機「HP Smart Tank 7305」でスキャンして取り込んでから表示していた。強調したい部分に教師が書き込みを入れて、再度プリントアウトして配布するといった使い方もできる。作成済み教材、また副教材などを利用することで板書の手間を省けると感じた。

 その他、11.6型のコンバーチブルモデル「HP Pro x360 Fortis G11 Notebook PC」「HP Fortis x360 G5 Chromebook」「HP Fortis x360 MK G5 Chromebook」などを展示していた。

●バッテリー劣化を考慮し、2〜3年での買い替えを提案するアイワ・マーケティング・ジャパンブース

 出展していた多くのPCメーカーが、デバイスが長持ちするよう頑丈さを追求していたのに対し、「2、3年で買い替える」という全く新しいアプローチをしていたのがアイワ・マーケティング・ジャパン(以下、アイワ)だ。

 アイワでは、GIGAスクール端末として廉価な2in1タブレットPC「JA2-TBW1001」(Windows)やタブレットPC「aiwa tab AG10」(Android)を開発、販売している。前者は5万1800円で後者は4万4800円だ。もっと低価格な2万7800円の「aiwa tab AB10L-2」(Android)も展示していた。

 セットで販売するキーボードカバーは、どれもUS配列だったものを日本語配列に再構築したものだった。なぜ純正のJIS配列を採用しなかったのか尋ねたところ、「日本独自のJIS配列にするだけで価格が跳ね上がる。学校ではローマ字入力をすることもあり、この形にした」とのこと。純粋なUS配列にしていない理由は、将来的に自分で端末を購入した際、「@」など記号の位置が異なることによる戸惑いを避けるためだ。

 頑丈さより低価格を重視した理由は「2、3年使うと、今の技術ではバッテリーの劣化やバッテリー自体の膨張ということもありうる。端末の入ったランドセルを背負ったまま飛んだり跳ねたりすると事故につながりかねない。であれば、価格を抑えることで買い替えてもらった方が安心感を持てるのではないか」と説明してくれた。

 確かにこの価格帯であれば、3年での買い替えも現実的だろう。アプローチの仕方が斬新だと感じた。

●高度なITC人材育成を視野に入れたサードウェーブの展示

 サードウェーブブースは展示物が少なめで、セミナーエリアと商談エリアだけで70%ほどの面積を占めていた。

 主な展示物は、サードウェーブの法人向けブランド「ドスパラプラス」の主力デスクトップPCである「raytrek 4Cシリーズ」だ。

 このモデルは高等学校の必修科目「情報」の「情報II」演習を行うのに必要なスペックを備えているということで、スピーディーな3D演算や3D CADの設計、それを元にした3Dプリンタによる造形物作成などを可能にする。学校によってはVR制作、ゲーム制作などを授業の一環として行うこともあるだろう。

 こういった重い処理を行う場合、一般的なGIGAスクール端末では時間がかかり、貴重な授業時間を無駄なものにしてしまう。生徒たちのモチベーションも下がってしまうだろう。しかしraytrek 4Cシリーズのようなハイスペックモデルであれば授業も楽しくなるはずだ。

 サードウェーブでは高等学校向けのデジタル人材育成「DXハイスクール」向けモデルとして「raytrek 4CHR-DXH」「raytrek 4CMB-DXH」「raytrek 4CEW-DXH」などを用意している。

●教員のサポートを前面に出したデル・テクノロジーズブース

 デル・テクノロジーズのブースでは、教職員の業務効率化を支援するような展示を中心に行っていた。特に34型の曲面ディスプレイ「U3423WE」は、大画面であっても湾曲によって端から端までどこを見ても目と画面の距離が一定で疲れを軽減できるという。

 大画面ではウィンドウの配置なども手間になりがちだ。同社は独自の「Dell Display Manager」によって、画面分割を手間なく簡単に行える工夫を施している。教師の使い方だと、課題提出物を表示させながら採点表に入力したり、資料を表示しながら教材を作ったりするのに大画面は役立つだろう。

 同製品は1本のUSB Type-CでPCと接続でき、周辺機器をつなぐハブ機能も搭載する。職員会議、教室などに向かう際、わざわざ何本ものケーブルの抜き差しをする必要がないのもメリットだと感じた。こういった部分は一般的なオフィスワークの環境と変わらない。

 AI PCをうたう新製品の1つ「Latitude 7350 Detachable」も展示していた。Copilotの具体的な利用方法も提案しており、例えば、修学旅行のしおりなどイベントごとの配布物に生成AIを活用すれば、簡単にたたき台を作れる。これまで何時間もかかっていた作業が数分で完了するようになれば、教育現場の負荷軽減に大きく役立つだろう。そんな可能性を感じさせた。

 自身も小学生の子供を持つというデルの担当者は「毎週どころか、ほぼ毎日のように何かしらのお知らせが担任から届いている。しかも、プレーンテキストではなくPDFファイル形式で。これだけ毎日のように保護者へのお知らせを作っているということは、休む間がないのではないか。せっかくDXということで業務効率化を図れる時代になったのだから、真の業務効率化により、自分たちの時間を見つけてほしい」と今回のブースの狙いを説明してくれた。