いろいろ考えた結果、買収して1カ月くらいで「これから牛乳を作るのはやめにしましょう」と工場の従業員に伝えました。だって、すでに牛乳を作り続けても利益が出ないことは、豊田乳業が経営破綻してしまったことからも明らかです。今のままでは、休みなく工場に出勤している従業員の働き方だって変えられません。

 少し脱線しますが、私は面倒なこと、しんどいことが嫌いです。

 考えることはちっとも苦労にならないのですが、手順、作業に手をかけたくない。「先憂後楽」主義者、といってもいいのかもしれません。

 もうからない牛乳を休まず作り続けるのは、作業としてもメンタルとしても事業としてもそもそもしんどい。賞味期限の短さからくる廃棄のリスクや価格競争の激しさなど、複雑な要因が絡まっている面倒な商材でもあります。ドル箱を作りたいなら、こうしたレッドオーシャンは避けるべきなのです。

 私は自分の好きではないことを従業員に押しつけるのも嫌いです。「利益を出せるようにするのはもちろんだけど、このしんどい働き方を強いている工場の運営も根本的に変えてしまいたい」。こんな思いをスタートラインにして、豊田乳業が牛乳を作らなくてももうけられるように、新商品の開発を考え始めました。

 私の考える「利益を生み続ける商品作り」の手法は2パターンあります。1つは需要の大きい普遍的な商品をローコストで製造する仕組みを作る、という手法。例えば、冷凍うどんや豆腐などはこれにあたります。

 もう1つは他社にないオンリーワン商品の製造です。差別点を消費者が感じてくれれば、「あの店でないと買えないから」という来店動機になります。

 では、「牛乳」はどうすれば利益を生み続けられるのか。考えてみましょう。

 中身の生乳はそもそもの原価(乳価)がメーカーと生産団体との合意の下で決められますから、コストダウンの余地がなさそうでした。他の商品の原料にするにしても同様です。なのでこれを活用するのは諦めました。

 じゃあもう売るものがないじゃないか? いえ、商品としての牛乳を分解すれば、中身と容器になります。入れ物の牛乳パックはどうでしょうか。

 これは、低コストの容器として活用できます。汎用性の高い容器といえばペットボトルですが、牛乳パックはそれより5割以上安い原価で作れます。

 ここに別の商品を充填しようと考えました。牛乳の轍を踏まないよう、開発部門には「賞味期限が3カ月ある、よそにない商品」の開発を命じました。まあ、開発のリーダーは私なんですけどね(笑)。

<連載ラインアップ>
■第1回 業務スーパーは、なぜ牛乳パックでようかんを売るのか?
■第2回 経営危機の乳業メーカーは、なぜ神戸物産のもとでようかんを作り始めたのか?(本稿)
■第3回 1リットルの牛乳パック入り水ようかんは、なぜ他社にまねできないのか?
■第4回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?

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(沼田 昭二,神田 啓晴)