文=加藤恭子 撮影=加藤熊三 写真提供=吉田酒造店

日本酒のギリギリを攻めた、超濃厚スペック

 びっくりした。これほどアイスクリームがおいしくなる日本酒があろうとは。熟したマスカットのような濃密な甘酸っぱさとともに、上質な生クリームのような繊細かつなめらかな感覚がふんわりと広がり、すべり落ちてゆく。ひんやりとしたアイスクリームをひとさじ味わうと、クリーム感が大幅に増幅。グラスを前にぴしっと姿勢を正したくなるような清々しさも、ある。もうこれは完璧なアイドル!

 毎年9月9日に発売される「Tsuchida 99」といえば、もはや知らない日本酒好きはいないであろう。米麹99%、つまりほぼ米麹だけでつくられる土田酒造の個性派酒だ。ちなみに一般的な日本酒は、麹米20%、掛け米(蒸し米)80%くらいでつくられている。今春、この酒をベースに2回目のリリースを迎えたのが「ツチダ99UAバージョン」だ。

 土田酒造の6代目蔵元、土田祐士さんにまずは「Tsuchida 99」の誕生について教えてもらった。

「もともと実験が好きで、新しいものにどんどん着手したいという気質がありまして(笑)。あるとき、酒屋さんと話していて“米麹をたくさん使ったら、どんな酒になるんだろうね?”という話になり、どうせなら全量米麹で仕込んじゃえ、ということで誕生したのが全麹仕込の“つぼみ”というアイテムでした」

 しかし、なんと3年目に「100%米麹の酒は、日本酒に分類できない」ことが判明! 税務署も前例のない造りだったがゆえに、気づかなかったそうだ(そんなことがあるのか……)。そこで誕生したのが99%米麹仕込みの「Tsuchida 99」。日本酒のスターターである“酒母(しゅぼ)”に、おまじない程度のごく少量の白米を入れ、あとは米麹と水だけを加えて発酵を進める。