目が疲れるからスマホの代わりに本を読む、老眼鏡ではなくルーペを使う。目をいたわっての行動がもしも見当違いだったら……。

「目は大切だという認識はあっても、何をするのが目にとって正しいことなのかまでは意外と理解されていないようです」

こう話すのは眼科医の平松類先生。新著の『名医が教える 新しい目のトリセツ』では、間違った目のケアをしているため、やっているのに役に立たなかったりかえって逆効果ということもあると説く。

「よくある間違いが、目薬のさし方です。目薬をさした後、目をパチパチさせる人が多いのですが、それでは涙が分泌されて薬の成分が流れてしまい、副作用を招くだけといったことになりかねません」(平松先生、以下同)

副作用の内容は目薬で異なるが、たとえば緑内障の目薬の副作用には不整脈や眠気などがあるという。

また、眼底検査の重要性についても意外と知られていない。

「緑内障、糖尿病網膜症、網膜色素変性症は失明原因のトップ3です。これらに共通することは、初期の段階ではほとんど症状が出ないこと。症状が現れるのは末期の段階で、その時点ではすでに手遅れともいえるのです」

たとえば眼精疲労は脳のストレスが原因で起こるのだが、その症状は、頭痛、肩こり、イライラなど、更年期障害にも似ている。ところが、更年期障害だと思って目を放置していると、緑内障など重篤な目の病気に気づかないまま悪化させることもあるのだそう。

「特に近視の人は、緑内障や網脈絡膜萎縮といった視力が欠ける病気のリスクが高く注意が必要です」

視力が落ちているのに、眼鏡を使用しない人も、知らず知らず目に負担をかけていることに気づいていないという。

「目は開いているだけで自動的にピントを合わせようと働きます。なので、ピントが合っていないと目だけでなく脳にも負担がかかっているのです。ところが、『眼鏡をかけると視力が低下する』などと勘違いしてかけないままでいると、さらに視力は低化してしまいます」

今回はよくある間違った習慣を紹介。



【1】テレビ、スマホ視聴はブルーライトの影響で視力が落ちるから、夜は代わりに本を読むのがいい?

テレビやパソコン、スマホの長時間利用は目によくないと考えて、読書に切り替える人がいる。確かにスマホなどのほうが負担は多い。ただし、本も暗いなかで近くを見続けると、ピント調節をする毛様体筋を酷使する。本を読む場合は、照明をつけて明るくし、本から目を離して読むのが正解。

【2】眼精疲労がひどいと、定期的に眼鏡を外したほうがいい?

眼鏡をしていてもいなくても、目を開けている限り目は常にピントを合わせようと働く。つまり眼鏡を外したからといって必ずしも目が休まるわけではない。むしろピントが合わないまま中途半端に見えていると、脳が映像処理をしようとし、疲弊して、肩こりや頭痛などの全身症状につながる。目が疲れたときは、遠くを見たり、目をつぶるようにするのがよい。

【3】帰宅したら手と一緒に目も必ず洗ったほうがいい?

そこまでする必要はない。花粉症の季節に目のアレルギー症状が出て洗うのだろうが、目を洗いすぎると逆に目の表面を潤している涙の成分が流れて目が傷つき、視力低下やさまざまな目の病気を招きやすくなる。洗眼薬を使う人もいるが、専用のカップが不潔だと本末転倒なので、注意したい。

【4】紫外線カットのためには、黒いサングラスを使うのが正解?

UVカットサングラスを使うことはいいが、黒いグラスがいいとは限らない。黒のほうが確かに見える光はカットできるが、実はUVカット自体の機能は、色によっての違いがないからだ。黒いグラスだと歩きづらいなど不便に感じることがあるのなら、自分が使いやすくて見やすい色合いのサングラスを使用するのがよい。

【5】旅行に行ったら、意識的に遠くを見るようにしたほうがいい?

旅先に行くことは、目と脳を同時に刺激してくれる。精神的にもリラックスするため視野が広がり、ふだん気づかなかったような細かいものや広い範囲まで見えるように。また、ふだんよりもたくさん歩くことで脳が刺激されて視力がアップする。いつもとは違う道を歩くだけでも視力アップにつながる。

【6】老眼鏡は恥ずかしいので、たまにルーペ(拡大鏡)を使うのでいい?

テレビのCMなどで登場するルーペ(拡大鏡)と老眼鏡は異なるもの。ルーペの機能は拡大することで、老眼鏡の機能は焦点を合わせることなのだ。使用する目的が違うため、あくまでも拡大して見たければルーペ、しっかりと焦点を合わせて見たければ老眼鏡と使い分けることが目にとって正しい。必要に応じて併用するのもあり。

【7】視力検査の結果がよいので、目に問題はないと思ってよし?

失明原因のトップ3である緑内障、糖尿病網膜症、網膜色素変性症は、末期まで顕著な症状が現れず、本人が気づかないうちに進行していることが少なくない。これらは視力検査ではなく、眼底検査をしなければ結果がわからないことが多い。特に、頭痛や肩こりなど不定愁訴を「更年期障害のせい」と思い込むのは危険。中年期以降は視力検査だけでなく、眼底検査も定期的に。

【8】段差が見えづらいだけでもすぐに眼科にかかるべき?

高齢になると、視力の低下がひどくなる前に色合いの差がわかりにくくなり、段差が認識しにくくなることがある。これは白内障の症状で、ほうっておくと転倒したり、踏み外して転びやすくなるなどけがのリスクも上がる。特に青色が見づらく、ガスコンロの青い火に気づかず袖に引火するような事故が起こったり、階段の色がわからなくて踏み外したりも。白内障を放置すると、ほかの目の病気につながる場合も。ちょっとでも困ったら眼科を受診したい。

【9】ドライアイだが、一日に目薬を何度もさしても大丈夫?

現代人に多いとされるドライアイ。目の表面の水分が蒸発して乾いた状態になることで目の保護が壊れ、ほうっておくとピントが合いにくくなり、眼精疲労、イライラ、頭痛、肩こりなどの不調を引き起こすように。だからといって、目薬のさしすぎも禁物。目薬に含まれる防腐剤が刺激物となって目を傷つけ、視力低下を招くことがある。

【10】コーヒーは抗酸化作用があって目にいいらしいので、1日に5杯以上飲むのもあり?

コーヒーには抗酸化作用があり、目の血管にもよい作用をしてくれるが、一方でカフェインの刺激が強すぎると眼圧が上がりやすくなり、緑内障などのリスクにつながる。目のためには一日3杯程度におさめたほうがよい。

意外な勘違いや思い込みを直して、正しい目の取り扱いを学ぼう。