劇作家・演出家の平田オリザさんが学長を務める四年制公立大学「芸術文化観光専門職大学(CAT)」(兵庫・豊岡市)の学生らが、兵庫県内の企業と協力してユニークなカバンを制作し、注目を集めている。

 同商品の開発に関わった学生が、平田さんのラジオ番組(ラジオ関西『平田オリザの舞台は但馬』)に出演し、制作秘話を語った。

 同大学では、授業の3分の1(約800時間)を実習にあて、地域と連携しながらさまざまな取り組みを進めている。そのなかの一つ「地域イノベーション実習」において、この春、地元企業とのコラボ製品が誕生した。今シーズン球団史上初の連覇を狙う阪神タイガースを応援する、「推し活かばん」だ。

 かばんは黒地のナイロン製で、撥水加工された素材が使われている。「タイガース」のロゴはあえて小さくしているが、サイド部分のカバーをめくると推し活かばんに大変身。かばんの一面が透明になっており、応援グッズや缶バッジなどをたくさんつけて持ち歩くことができる。

 同商品は、5月1日(水)から阪神タイガースライセンス商品「推し活トートバッグ」(15000円)として、阪神百貨店梅田本店(大阪)および、京王百貨店新宿店(東京)で販売されている。

 商品誕生のきっかけは、昨年夏の課題「地域の資源をリノベーションする」において、日本最大のかばん産地・兵庫県豊岡市で企画から製造・販売までを手がける株式会社由利を訪問したこと。

 開発に関わった、同大学4年生の倉田ゆすらさん(観光専攻)と中川千代さん(芸術専攻)は経緯をこのように語った。

「かばんのことを何も知らなかったのですが、いろいろ教えていただいたのちに、『女性に向けた商品が少ない』という課題がみえてきました。そこで、一度購入したら長く使ってもらえそうな『推し活トートバッグ』を提案したところ、実習発表だけで終わらせるのはもったいないという話に。その後、豊岡市内の鞄職人育成機関『Toyooka Kaban Artisan School』と協働して試作品を製作。ユーザーの多いスポーツ分野に目を向け、阪神タイガースの応援グッズを販売しているシャープ産業株式会社に提案したところ、商品としての販売が決定しました」

 オン・オフ両方で使ってもらいやすいよう、シンプルな見た目と機能性にこだわった。女性が持ちやすいよう軽量化を目指し、メガホンや水筒を入れるためのマチやポケットを設けるなど、ファン心理をくすぐる仕様に仕上がっている。

「誰かを応援するということはプラスだけれど、隠しておきたいシーンもある」。そんな推し活事情のリアルをすくいあげ、経営学の授業で学んだ内容も盛り込みながらのプレゼンテーションが、地元企業を動かした。

 平田さんは、「(推し活かばんを持っていると)取引先での営業トークが盛り上がりそうですよね。(取引先の人が)他球団ファンだったら、カバーを閉じて隠すとか(笑)。開学当初から、こんなふうに(地元と連携)できればいいなと思っていたのですが、こんなに早く実現するなんて。本当に自慢の学生たちです」とねぎらった。

「推し活トートバッグ」の開発について、2人は改めてこのように胸中を語った。

「自分が『使いたいな』と思うものを提案しました。シンプルなかばんですので、男性にも使ってほしいです。こんな貴重な機会を得られるのが本学の特長。いろいろな人に会えたことが、いい経験になりました」(倉田さん)

「私自身が神戸出身で、小さいころから家族全員でタイガースを応援していました。阪神電車に乗ったときに、たくさんの方が持ってくださっているのを見るのが夢なので(笑)。ぜひ手に取っていただきたいです」(中川さん)

※ラジオ関西『平田オリザの舞台は但馬』2024年5月16日放送回より