毎週水曜日深夜24時から放送されている『買われた男』(テレビ東京)では、3人の男性セラピストたちが、悩める女性客たちを“もてなす”。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、本作第1話を解説する。
女性たちのリアル、そしてファンタジー
女性用風俗の存在はなんとなく認識していた。大手グループのホームページを調べてみると、男性用風俗の広告にあるような、あからさまに性的表現がすくないことに気づく。これを単純に、客である女性と(多くが)セラピストと呼ばれる男性との需要と供給のバランスとして語ってはいけない気がする。ここには女性たちのリアル、そしてファンタジーがあるからだ。
そんな女性用風俗店を描くドラマ『買われた男』第1話を見た。所見としては、セラピストの対応が丁寧であること。シャワーに入って、はいベッド。みたいな乱暴さがない。彼らがセラピストと呼ばれるだけの理由がある。
男性セラピストが極める「道」とは
女性用風俗店「KIRAMEKI」のセラピスト・ヤマト(瀬戸利樹)に予約が入る。既婚者である。初めての既婚者からの予約にちょっとした罪悪感を抱くヤマトだが、先輩セラピストの龍一(久保田悠来)とシアン(池田匡志)にこう言われる。
「既婚者は遅かれ早かれ通る道だからね」と言った龍一に対して、シアンが「そう、道だ」とうなづく。そうか、彼らが極める「道」があるのか。
男性である筆者にとってはほとんど未知の領域である女性用風俗への理解が、この言葉で一気に深まる。じゃあ、実際の施術場面はどうか。
ヤマトがノックして入ったのは、とあるホテルの一室。客ののどか(佐藤玲)は、夫とのセックスレスにもやもやしている。ヤマトはまずカウンセリングでひとつひとつ質問する。質問票に丸をつける様子は、カスタマーファーストの好例のような丁寧さだ。
施術シーンの緩急緩のリズムにうっとり
このカウンセリングが、豊かな前奏曲となり、シャワーからベッドへの露骨な性的運びがうまく回避されている。ただし、回避されるだけにベッドへの想像力がどんどん豊かになる。ベッドにうつ伏せになったのどかの背中から施術がはじまる。するとそれまで敬語だったヤマトがいきなりタメ口になる。このしたたかな切り替えには思わずハッとする。あとは身を任せるままに……。
照れ隠しに喋ろうとするのどかを制止するように、無言のヤマトが耳をハムッ。とろけるこの感覚。仰向けになるよう促し、今度は唇と唇のキス。カウンセリングからこのキスまで、緩急緩のリズム。音楽的な施術の流れにはうっとりする。
客とセラピストだけの“聖域”
ヤマトを演じる瀬戸利樹のことはあまり注目してこなかったが、今回ばかりはやられたなぁ。のどかの背中やら耳の裏に押し当てる唇。キスの音がヤバい。終始、受け手の佐藤玲も官能的響きに自然と応えるかのような演技。女性用風俗の施術をこんなに盗み見ていいものだろうか。いち視聴者としてなんだか罪悪感すら。と同時に、ちょっと行ってみたくなる(いや、行けないけど)。
施術後、のどかが外していた結婚指輪をヤマトが手渡す。のどかはそれを薬指に戻す。何かが吹っ切れた彼女は静かに涙を流す。
ここでは、結婚指輪というリアルが、セラピストからの温かな眼差しに包まれるファンタジーに溶け込む。そしてさっと夢が覚める。この密室は、いわば、客とセラピストだけの“聖域”なのだ。
「茶道」と通じる施術
この聖域は、外の世界と完全に切り離されている。ヤマトによる夢のような施術によって心が解放され、外の世界のわだかまりは、涙で浄化される。ベッドに並んで座るふたりのナイショ話は誰も邪魔できない。施術後、ヤマトの見送りに対して、のどかはすっきりした表情で、もう来ないという。デトックス状態の晴れやかさに、ヤマトも嬉しそうにうなづく。もちろん商売としてリピーターを獲得するにこしたことはない。
でもそれ以上に、相手を“もてなす”心が重んじられる。どんな相手でも等しく。しかも一期一会。誤解を恐れずにいえば、女性用風俗店の施術は、「茶道」と通じているようだ。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu