この子と出会ったことで、自分にもできる猫助けがあることを知った。愛猫よもぎちゃんとの縁を、そう振り返るのは飼い主の「ちゃっこ」さん(@yomogisan0317)。
よもぎちゃんと出会ったのは、2023年3月17日のこと。飼い主さんは娘さんの卒業式に向かおうと普段とは違う時間に家を出たところ、自宅前の道路で車に轢かれた、よもぎちゃんを発見しました。
自宅前で瀕死状態の野良猫を発見
よもぎちゃんは顔中、血だらけ。大きな恐怖を感じたからか脱糞をし、後ろ足は裂傷。左眼球は飛び出ていました。あまりに衝撃的な姿に、飼い主さんは初め「死んでいるのでは…」と思ったそう。しかし、口で息をしていることに気づき、愛猫を診てもらっている、かかりつけ病院へ向かいました。
「頭のほうに衝撃を受け、ショック状態。血液検査の結果も悪く、先生からは多分助からないし、助かったとしてもお金がかかるとの説明を受けました」
それでも、小さな命を見過ごせなかった飼い主さんは治療を頼み、ひとまず卒業式へ向かいました。
なんとお腹に赤ちゃんが…
「私が発見する前に市役所へ連絡がいっており、保護が数分遅ければ殺処分されていました」容体が落ち着いたのは、保護から2日後。しかし、レントゲンを撮影すると、思わぬ事実が判明。なんと、胎児がいたのです。
妊娠をしたままだと母体に栄養がいかず、体力もなくなってしまうため、飼い主さんは悩んだ末、堕胎を決意。よもぎちゃんの命を守ることを最優先にし、獣医師と手術の日程を話し合いました。
自力で赤ちゃん猫を産み、奇跡のV字復活!
すると数日後、よもぎちゃんの体に変化が。「死産」という形ではあったものの、2日かけてお腹の子を自力で産んでくれたのです。毛は生えていないけれど、爪や肉球が出来上がった親指サイズの子猫3匹を見て、飼い主さんの胸に芽生えたのは悲しみと感謝。
「手術に体力を使わなくてもよくなり、栄養がちゃんと届くようにもなったので、残念ではあるけれど仕方なかった、親孝行な子猫ちゃんたちだったと、自分を納得させました」
その後、よもぎちゃんの体力は徐々に回復。保護から1週間後には左眼球の摘出手術を受けました。
「顎は先生もびっくりするほど、自然に良くなっていき、ご飯が食べられるようになった保護後2週間目くらいに手術を受けました」
多くの人が「救いたい」と願った命
こんなに回復する子は、あまり見たことがない。獣医師がそう口にするほどのV字復活を見せた、よもぎちゃん。その姿を嬉しく思うと同時に、飼い主さんの頭によぎったのは、金銭面の不安でした。獣医師に見積もってもらった治療費や手術代は、総額50万円。悩んだ飼い主さんは妹さんに相談。クラウドファンディングを行いました。
「葛藤はありました。自分の意志で助けたのに、人に頼るのはどうなのかって」
悩みながらも飼い主さんはクラウドファンディングのスタートに向け、よもぎちゃんの現状や日常を配信するX(旧Twitter)のアカウントを開設。すると、多くの人から注目され、クラウドファンディングの開始前から「寄付をしたい」という連絡をたくさん受けるように。
その結果、なんとクラウドファンディング開始前に目標金額の半分を達成。さらに、クラウドファンディング開始後は2日間で目標金額を達成するという奇跡が起きました。
「カフェのオーナーさんがお店に募金箱を置いてくださったり、保護団体様から寄付をしていただいたりと、色々な方に助けてもらいました。みなさんのおかげで、あの子は今生きています」
発見した時間やよもぎちゃんの生命力、広がった支援の輪など、どれかひとつでも欠けていたら、よもぎはここにいなかった。いくつもの奇跡が重なった当時を振り返るたび、飼い主さんは温かい気持ちになるのです。
当初は里親を探そうと考えていたけれど…
1ヶ月半の入院治療を終えた後、よもぎちゃんは飼い主さんの実家へ。足の筋がむき出しの状態であったため、しばらくは常に人がいる環境で養生することになりました。自宅や実家には先住猫がいたため、飼い主さんは当初、里親を探そうと考えていましたが、愛が募って手放せず。1ヶ月後、自宅に迎え入れ、正式な家族になってもらいました。
「実家では犬猫と仲良くなり、我が家ではお迎え当初から先住猫が使っているベッドを普通に使い、置いてあるご飯も当たり前のように食べていました」
先住猫のトトちゃんとも仲良しに
新入り猫を迎えるのは大変そうだと思っていた飼い主さんは、以前から家族の一員であるかのように振舞うよもぎちゃんを見て、びっくり。先住猫のトトくんは威嚇をしていましたが、ちょっぴり図々しくも感じられる、よもぎちゃんの奔放さに根負け。2匹はくっついて眠るなど、微笑ましい姿を見せ始めました。
また、よもぎちゃんは飼い主さんの旦那さんも翻弄。もともと猫が苦手だった旦那さんは数年かけてトトくんで猫慣れし、よもぎちゃんを迎えたことで完全な猫好きに。
「3匹共に優しいけれど、よもぎには特別甘い。女の子に話しかけているみたいに声をかけています」
よもぎちゃんはお姫様扱いをされていることを感じ取っているのか、要求があると女の子らしい声でおねだりをするのだそう。
新入り猫をお世話する姿も
よもぎちゃんを迎えた後、旦那さんは自ら、禄くんという新入り猫をお迎え。母性が強いよもぎちゃんは禄くんを猫かわいがりし、体や頭を頻繁に毛づくろい。そのため、禄くんの体は、常にどこか濡れています。「よもぎは保護時、触らせてくれないほど警戒心が強かったけれど、完全にお家猫の性格になりました。お手やおかわりだけじゃなく、人間の行動を観察して扉も開ける賢い子。知的な姿を見ると、必死に生きてきたんだろうなとも思います」
1匹の猫との出会いで「自分にもできる猫助け」があると知った
朝起きると、ドリルのような勢いで顔にスリスリしてくれるところ、家族以外にはクールなところなど、一緒に過ごす中で知った、よもぎちゃんのかわいさは無限大。世間一般では「ハンデ」と表現される左目も飼い主さんにとっては、唯一無二のチャームポイントです。
「トトの耳も聞こえませんが、本ニャンたちは気にしておらず、できないところを補って他の部分が成長している。見た目や大変さなどで差別をしているのは、人だけだなと思わされます」
そう語る飼い主さんは自身のハンドメイドで得た売り上げを保護活動に費やしたり、預かりボランティアをしたりと、ロードキルを防ぐためにも野良猫が減るよう、活動中。
「よもぎと出会ったことで、可哀想だと思いながらも野良猫を見過ごすことを辞めました。私にもできることがあると気づけたし、子どもたちからも『猫のことをしている時は楽しそうだね』と言われます」
私でもできたから、今踏み出せないでいる方も自分にできる小さな猫助けを考えてくれたら嬉しい。そう語る飼い主さんは自分たちを助けてくれた多くの人への感謝を抱きつつ、これからも3ニャンを愛でていきます。
<取材・文/愛玩動物飼養管理士・古川諭香>
【古川諭香】
愛玩動物飼養管理士・キャットケアスペシャリスト。3匹の愛猫と生活中の猫バカライター。共著『バズにゃん』、Twitter:@yunc24291