鈴鹿サーキットで行なわれたスーパーGT第3戦鈴鹿。GT300クラスの表彰台の顔ぶれは、優勝が7号車Studie BMW M4、2位に2号車muta Racing GR86 GT、3位に52号車埼玉トヨペットGB GR Supra GTで、これらはいずれもレース序盤の数周で1回目のピットストップを実施するという変則的な作戦を採ったチームであった。

 450kmというレース距離が設定されていた今回の鈴鹿戦では、レース中2回の給油が義務付けられていた。つまり、少なくとも2回以上のピットストップが必要であり、スティントは最低でも3つに分かれる。通常であれば、各スティントを3等分……例えば90周のレースであれば各スティント30周前後とするのが定石だが、今回上位に入ったチームは、レース開始直後に短い給油だけのピットストップ、いわゆる“スプラッシュ&ゴー”を敢行し、レース中盤にドライバー交代とタイヤ交換そして2度目の給油を実施し、実質的な2スティントとする作戦を採ったのだ。

 この作戦のメリットとして挙げられるのは、1回目のピットストップを終えた時点で集団から離れた位置での走行となるため、遅い集団のペースに付き合うことなく自分たちのペースで走れるという点。反面、1スティントが長くなるため、燃料を多く積んだ重いマシンでの走行を強いられ、ペースはもちろんタイヤライフへの影響も心配される。

 GT300は車両やタイヤのパッケージも様々であるため、全ての車両がこのような戦略を採れるわけではないが、今季初の450kmレースとなった第2戦富士では2号車mutaが2位、52号車埼玉トヨペットがスプラッシュ作戦で3位に。そして今回の鈴鹿でも、7号車Studieと2号車、52号車が同様の作戦で表彰台を占めたのだ。

 特に今回の鈴鹿戦においては、7号車Studieが16番手から優勝、52号車埼玉トヨペットが20番手から3位と大幅ジャンプアップを果たした。もちろんこれは、序盤のセーフティカー出動がスプラッシュ組の追い風になったという側面もあるが、燃費やタイヤの負荷も異なる富士と鈴鹿の両方でこの戦略が通用していることを考えれば、残る3つの450kmレース(第4戦富士、第5戦鈴鹿、第7戦オートポリス)でもスプラッシュ戦略を採ったチームが優位にレースを進めるのではと推測してしまう。

 これについて優勝した7号車Studieの荒聖治は「(作戦の成功可否は)マシンの重量やサーキットの特性、気候次第ですが、有効な作戦であることは確か」とコメント。相方の柳田真孝も「ポジションを上げるという意味では有効」としたが、やはり展開次第であり一概には言えないという見解を示した。



 今回のレースはとりわけ“タラレバ”が多かった。レースは終盤の大クラッシュにより赤旗が出され、20周弱を残してそのまま終了。その直前、上位3台は7号車Studieを先頭に団子状態となっていたが、後ろからはオーソドックスな“スティント均等割り作戦”の56号車リアライズ日産メカニックチャレンジGT-R、11号車GAINER TANAX GT-R、61号車SUBARU BRZ R&D SPORTがハイペースで迫っていた。そのペースは1周につき2〜3秒速く、レースが予定通り進んでいれば違った展開が待っていた可能性がある。実際、52号車埼玉トヨペットの川合孝汰も、レースが途中終了になっていなければ「抜かれていた想定」をしているという。

「今まではそれ(スプラッシュ戦略)が通用していましたが、この作戦は軽さがあったからこそ活きていた作戦です」と川合は言う。

「僕たちのウエイトは、(サクセスウエイトに)BoP重量も加えるとGT3車両と変わらないレベルになってきています。その中で、タイヤも今までと全然違うものを選んできています。僕らも3スティント(均等割り)の作戦も含めて、作戦の幅を考えていかなければいけないと思っています」



「前半戦はこの作戦をとりましたが、次からも同じ作戦で行くかと言われると……予選の順位も関係ありますしね。今回は僕のミスもあり予選で後方に下がってしまったので、やらざるを得なかったというのが正直なところです」

 また、4番グリッドスタートから優勝を狙うために「攻めの」スプラッシュ戦略を採用したという2号車mutaの平良響も、次回以降の採用は微妙なところだと話す。6月頭の路面温度30〜40℃前後でのレース開催、45kgのサクセスウエイトという条件は、こうした戦略を採る上で「まだ大丈夫」な範囲だというが、第4戦と第5戦はいずれも真夏の8月に開催される。さらにサクセスウエイトは第3戦終了時点で上限近くの90kgまで膨れ上がった。(ちなみに52号車埼玉トヨペットは84kg)

「夏で気温が上がってきて、クルマの重量が重いとタイヤへの攻撃性は上がってくると思います。スプラッシュ&ゴーだとロングスティント2回になるので、タイヤが持たないと話になりません。行けるかな? でも(勝ちに)行きたいなというところです」

 このように、ドライバーのコメントからは8月の富士戦、鈴鹿戦の戦略がこれまでとは違った展開になる可能性を漂わせている。