ポルシェは、2025年以降に4度のF1世界王者であるセバスチャン・ベッテルがル・マン24時間レースに参戦する可能性があると考えている。

 ベッテルは3月にアラゴンで行なわれたテストで、ポルシェが世界耐久選手権(WEC)やIMSAスポーツカー選手権に投入しているLMDh車両963を初めて本格ドライブ。合計4スティントにわたってステアリングを握り、118周(581km)を走破した。

 こうした背景から、2024年のル・マンでファクトリー体制のポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ(PPM)が投入する3台目の963のドライバー候補としてベッテルの名前が浮上した。

 実際、ポルシェは当初3月末に予定されていたル・マンへ向けた3台の参戦ラインアップに関する発表を遅らせ、残る2つのシートのうち1席にベッテルを起用できるか評価を行なった。

 しかし熟考した末、ベッテルと契約を結ぶことは見送られた。PPMのIMSA参戦チームが運営する追加エントリーの4号車963には、フェリペ・ナッサ、ニック・タンディ、マシュー・ジャミネのトリオが乗ることとなった。ベッテルが2024年にル・マンデビューを果たすことはなくなったわけだ。 

 ベッテルは今年の7月に37歳を迎えるが、ポルシェ側は将来的にベッテルと共にル・マンへ参戦することにオープンな姿勢を取っている。

「ポルシェのようなメーカー、会社にとって、ル・マンがトピックであり続けなければならないというのは言うまでもない」

 ポルシェLMDhプログラムのディレクターを務めるウルス・クラトレは、motorsport.comの姉妹サイトMotorsport-Total.comにそう語った。

「セバスチャンに関してもそうだ。彼はやる気満々だと思う。テストの後、彼自身がそう言っていた」

「それはトピックになるだろうけど、いつ、どのような形でまとまるかはまだ分からない。現時点では何も決まっていない」

 ポルシェは以前から、ベッテルがル・マンに追加エントリーするマシンで参戦する可能性について「現時点では何も決定していない」と語るまでにとどめていた。

 WEC第3戦スパ戦を前に、ベッテルがチームと契約しなかった理由を尋ねられたクラトレは次のように答えた。

「そのような状況は起こっていない。この質問に犯人はいない。実際にそうだと思う。そのようなことは起こらなかった」

 旧LMP1時代にポルシェは、当時フォースインディアからF1に参戦していたニコ・ヒュルケンベルグを2016年のル・マンで3号車919ハイブリッドのドライバーとして起用。タンディとアール・バンバーと共に総合優勝を果たした。

 ただ現在ハイパーカークラスに参戦するル・マン・ハイパーカー(LMH)やLMDhは、F1マシンと比べて見劣りしないパフォーマンスを発揮していたLMP1よりもはるかに遅い。

 LMHやLMDhの車両重量は1000kgを超えているため、F1ドライバーが2024年のWECに適応するのは約10年前よりもはるかに難しいとクラトレは説明した。

「現時点での最大の違いは重量だろう」とクラトレは言う。

「マシンはどちらも非常に複雑だが、デザイン面でも異なっている。でも言っている通り、一番の違いはそれ(重量)だ」

「純粋な車両重量が大きな違いのひとつだ。夜間も走ること、サーキットで遭遇する全てのクラスとは大きな速度の違いがあることも大きく異なる」

「おそらくそういったことだろう。それが最大の違いだ」

「ただ、以前はその全てが違っていた訳ではないと思う。つまり彼(ベッテル)には以前よりも慣れる時間が必要だということだ」