2023年9月のアーセナル戦に始まり、バイエルン戦、コペンハーゲン戦、ガラタサライ戦、ウォルヴァーハンプトン戦、マンチェスター・シティ戦、チェルシー戦、ブライトン戦、またしてもガラタサライ戦、もう一丁シティ戦、ニューカッスル戦、ボーンマス戦、リヴァプール戦、コベントリー戦……。今シーズンのマンチェスター・ユナイテッドは、3失点以上を食らった試合が14試合もある。

昨シーズンは6試合だった。

負傷者続出でDFラインを固定できなかった。カゼミロの出来があまりにも悪すぎた。マーカス・ラシュフォードが守備面で呆れるほど貢献できない。いくつかの理由と言い訳はあるにしても、2024年4月24日時点の失点数は昨シーズンの総数より13点も増加している。

プレミアリーグで50、そのほかの公式戦で26。76回もゴールを奪われていた。な、な、76失点!? 最低・最悪とまで罵られた2013/14シーズンですら、あのデイヴィッド・モイーズが率いた当時ですら、プレミアリーグでは43点しか取られていない。

この結果、屈辱の1ページを書き換える恐れすら出てきた。

16勝10分12敗/得点57・失点57/勝点58(2021/22シーズン)

失点と勝点は、プレミアリーグ発足後のワースト記録である。

16勝5分12敗/得点51・失点50/勝点53(33節終了現在)

最終5試合で8失点以上を喫すると、屈辱のワースト更新。5ポイント未満に終わった場合、最悪のデータを塗り変える。

残された対戦相手はバーンリー、クリスタルパレス、アーセナル、ニューカッスルと続き、最終節は三笘薫とソリー・マーチが復帰しているはずのブライトンだ。バーンリーとクリスタルパレスにはなにがなんでも、できるものならクリーンシートで勝たなくてはならない。

それでもエリク・テンハフ監督は、世界中のメディアが聞き飽きたコメントをリピートする。

「われわれは成長過程にある」

説得力が微塵の欠片もない。

23年12月に『INEOS』がフットボール部門の実権を握った後、「テンハフはプロジェクトの一部に含まれているが、将来が約束されたわけではない」といわれてきた。

「チャンピオンズリーグ出場権確保が続投の最低条件」との希望的観測は、4位アストンヴィラとの差が16ポイントになった4月21日に砕け散った。

「FAカップで優勝するしかない」との指摘も、対戦相手がシティでは難しすぎる。3‐0から追いつかれたコベントリーとの準決勝は、ジム・ラトクリフ共同オーナーの逆鱗に触れる内容だった。

解雇の条件は整いすぎるほど整っている。

二年連続FAカップ・ファイナリスト。昨シーズンはリーグカップで優勝し、首位シティとは14ポイント差の3位とはいえCL出場権を獲得した。テンハフにはほんの少しだけ時間の猶予が与えられてしかるべきなのかもしれない。

だが、残念ながら明確なプランがなく、被シュート数をいたずらに増やすだけだ。

また、ジェイドン・サンチョ(ドルトムントにローン)にやたらと厳しく、マーカス・ラシュフォードとアントニーには寛容なトラブル対応により、クラブ内の求心力をすっかり失ったとも伝えられている。

ドイツの『Bild』紙は「トーマス・トゥヘルとラトクリフ卿が面談」

フランスの『L‘equipe』紙も「ジネディーヌ・ジダンが最有力」

ポジティヴな材料がほとんどないのだから、悲観的な憶測が浮上するのは当然だ。テンハフは「マイナスイメージばかり植えつけ、君たちメディアは恥ずかしくないのか」と応戦したが、窮地に追い込まれていることはだれの目にも明らかだ、

コベントリーとのPK戦(前出)も異様な雰囲気だった。カゼミロは失敗しても悔しがらなかった、成功したディオゴ・ダロトとクリスティアン・エリクセンのガッツポーズは小さく、ブルーノ・フェルナンデスはなぜか哀しそうに映った。

そして、最後のキッカーを務めたラスムス・ホイルンドのもとに駆けつけたのは、エリクセンただひとり。大喜びできる内容ではなかったからなのか。疲れ果てていたからなのか。

近ごろは一体感すら消えてなくなった。漂う空気はどんより重い。ラルフ・ラングニック体制の終末期に酷似している。

文:粕谷秀樹