黄金世代──。

日本サッカー界では小野伸二、稲本潤一、遠藤保仁などを擁し、1999年ワールドユース選手権(現FIFA U-20ワールドカップ)で準優勝に輝いた世代のことだ。

日本女子ゴルフ界では畑岡奈紗、小祝さくら、原英莉花、渋野日向子といった、1998年生まれの精鋭たちである。

日本野球の場合は、いわゆる “松坂世代” だろうか。松坂大輔、藤川球児、杉内哲哉、和田毅……好投手がズラリと揃っている。

いまから20年ほど前、イングランド代表にも黄金世代が存在した。デイヴィッド・ベッカム、リオ・ファーディナンド、スティーヴン・ジェラード、マイケル・オーウェン、アシュリー・コール、フランク・ランパード、さらにジョン・テリーまで、綺羅星のごときチームだった。

しかし、コミュニケーションはゼロに等しかった。激しすぎるクラブ間のライバル意識により、監督、コーチ、メディカルスタッフは神経をすり減らしていく。

「挨拶さえかわさない選手もいた」

2008年1月から4年半ほど監督を務めたファビオ・カペッロも、後にこぼしていた。それぞれの強烈なライバル意識がチーム創りの妨げになったのだから、指揮官はお手上げだ。

「選手を上まわる個性を持つ監督が必要だった」

近ごろ、日本の専門誌でジェラードのコメントを見かけたが、はたして彼はキャプテンシーを発揮していたのか、はなはだ疑問である。ベッカム世代のイングランド代表はピッチ上だけではなく、移動中の機内、車内を含め、つねにピリピリしていた。

あれからおよそ20年、イングランド代表はふたたび強烈な個性を持つ若者が輝きはじめている。

ジュード・ベリンガムとフィル・フォーデン、ブカヨ・サカはガレス・サウスゲイト監督の信頼をすでに勝ち取り、今シーズンのプレミアリーグでブレイク中のコール・パーマーは、前線の定位置獲得も夢ではない。

35試合を消化した時点で20ゴール。首位を行くアーリング・ハーランドとは4点差だ。9アシストはトップのオリ・ワトキンズと3ポイント差だ。個人タイトル二冠の可能性もまだ残っている。パーマーの活躍により、イングランド代表ではマーカス・ラシュフォードの立場が揺らぎはじめた。

さらに、センターバックと左サイドバックを高いレヴェルでこなすリーヴァイ・コルウィル、長身を利した空中戦と丁寧なフィードに定評があるジャラッド・ブランスウェイト、状況判断とボールコントロールに秀でたコビー・メイヌーなども、世界に衝撃を与えうるスーパースター候補生だ。

また、彼らの大半が20代前半で、メイヌーはまだ19歳だ。この先3〜4年、いや、10年近くは大きな飛躍が期待できる逸材ばかりだ。

しかも、彼らはベッカム世代のようにギスギスしていない。練習中のムードもすこぶる良好だ。

さぁ、6月14日に開幕するヨーロッパ選手権(開催国はドイツ)で、イングランド代表はどこまで勝ち進めるのだろうか。近年になく好タレントが集まり、期待は日増しに高まっている。1966年に地元開催したワールドカップ以降、58年間も遠ざかっているタイトル獲得も、決して夢ではない。

文:粕谷秀樹