EVの充電集中による電力ひっ迫を防ぐため、何らかの制御や規制をかける可能性があるといいます。電動車普及に向け、今後どのような対策が行われていくのでしょうか。

EV普及が社会に与えるインパクトは極めて大きい

「EV(電気自動車)充電器の遠隔制御、義務化に向けた検討へ」。

 そんなニュースが、2023年ゴールデンウィーク前に一部の大手新聞やテレビなどで報じられました。

 需要の高まりを受け、近年各メーカーから多彩なEVが登場しています。

 EV充電器の遠隔制御とは、充電が集中する時間などに、充電器の稼働を制御させる仕組みを指します。

「ウチのクルマも次はEVにしようかな」と考えている人にとって、ちょっと気になる話ではないでしょうか。

 これまでの各種報道によると、検討している担当省庁は経済産業省で、目的は電力ひっ迫を回避することだとしています。

 これからEVがどんどん増えていくと「日本全体で電気は本当に充分足りるのか?」といった心配の声は、EVユーザーの間でも以前からありました。

 それがどうしていま、EV充電器の遠隔制御義務化という話として表に出てきたのでしょう。

 その真相を探るべく、EVを製造している自動車メーカー、充電器メーカーの大手、そして充電サービスの大手などに問い合わせてみました。

 各社の話をまとめると、「国が検討している」とする根拠は、経済産業省・資源エネルギー庁が2022年11月7日から2023年3月8日まで合計6回開催した、「次世代の分散型電力システムの関する検討会」を指しているとのことです。

 そして2023年3月14日には、同検討会が中間とりまとめを示しています。

 これによると、自宅や会社などの太陽光発電を主体とする再生可能エネルギーなど、すでに世の中に存在する様々な分散型電源(DER:大規模な発電所などの集中発電設備に対する相対的な概念)と、通常の電力網との系統連携をさらに深める必要性が高まっていると指摘しています。

 これまでも電力供給に関しては「スマートグリッド」(需要に応じて電力供給を効率的に制御する技術)といった考え方がありました。

 しかし国としては、日本全体での電力の在り方を「再検討」するべき時期に来た、という判断のようです。

 背景には、国が推進する2050年カーボンニュートラルに向けて、今後再生可能エネルギー発電や、EVなど電動車の普及が一気に進むであろうとの想定があります。

 再生可能エネルギーについては、国が2000年代後半から実施しているFIT(フィード・イン・タリフ:再生可能エネルギーの固定価格買取制度)の契約が10年間で切れる、いわゆる「卒FIT」への対応として、一般家庭で新たに定置型電池を購入したり、またはEVを購入する動きが出てきているところです。

 このなかでEVは、自宅や会社にEVへの充電、またはEVからの放電・蓄電をコントロールするシステム、V2H(ヴィークル・トゥ・ホーム)やV2G(ヴィークル・トゥ・グリッド)といった機能が装備されていることが望まれます。

 これは万が一の災害時におけるDERとしても有効な機能だといえます。

 一方で、こうしたV2Hなどのシステムを持たず、自宅や会社の交流100V/200VからEVに充電するだけのケースもこれからますます増えていくでしょう。

 さらに「経路充電」といわれる移動中の充電方法として、今後は交流入力で直流出力となる急速充電器の高出力化がさらに進むことが予想されます。

 こうしたなかで、今後さらに普及が進むと予測されるEVが社会全体に与えるインパクトとして、電力の需給バランスのみならず、自然災害への対応で果たす役割も大きくなるものだと、国は想定しているといえるでしょう。

 先に紹介した資源エネルギー庁による中間とりまとめでは、こうした分散型電源システムの新しい仕組みづくりとして、アメリカやフランスの先行事例を紹介しています。

 また充電器メーカー大手の関係者によると、英国での事例も参考になるのではないかということです。

電力需要のピーク時に「EV充電」はどうするべきか

 では、話を日本でのEV充電器の遠隔制御義務化に戻します。

 遠隔制御が必要になるのは、やはり電力の需給バランスが崩れることが予想されるような、多くの人が同じ時間帯で一斉に充電をするシチュエーションでしょう。

 日本でも一時、電力ひっ迫を避けるため、電力会社による計画停電が実施されたことが記憶に新しいところですが、このままEVの普及が右肩上がりになれば、計画停電の可能性が高まるという発想を、多くの人が持つと思います。

 例えば、EVを1日使用して自宅に夕方に戻り、すぐに充電しようとすると、そうした時間帯は夕食の準備や冷暖房、テレビなどの利用で多くの電力が必要となる時間帯と重なります。

 そんな状況で電力ひっ迫におちいらないために、電力会社などエネルギー制御を担当する企業や団体が、ユーザーに事前通知をする形で充電時間帯の変更を促したり、または充電中の出力をコントロールすることが考えられます。

 つまり、充電器を遠隔制御する必要がありますし、EVや充電器から得られるデータを総括的に管理するようなデータプラットフォームの構築も必須となるでしょう。

 具体的にどのような対応をするのかについては、先の検討会で「EVグリッドワーキンググループ」(仮称)が近く、立ち上がることになっているといいます。

 そこに自動車メーカーや充電器メーカー、一般送配電事業者、データプラットフォーマー、有識者などが参加し、協議を進めることになります。

 あくまでも私見ですが、課題となるのはEV充電器で最も手軽で安価な、いわゆるEVコンセント(自宅や会社の交流100V/200VからEVに充電)への対応ではないでしょうか。

 そのほか、経路充電における急速充電は、EVでの移動中、必要に迫られて行うものです。

 これをもし遠隔制御する場合、ユーザーに対してこれをどう説明し、ユーザーが本当に充電制御を納得するのかといった点について、関係各位による協議の行方が気になります。

 EV普及に向け、今後も分散型電源システムに関する法規制やシステム構築の行方については、注意深くウォッチしていきたいところです。