2023年12月、ロンドンのデザイン会社が日産「GT-R」の次期型「R36」を予想したレンダリング画像を投稿し、実際に車両を販売することも明らかとしました。彼らが言う“R36”とはどのようなモデルなのでしょうか。

えっ…!? R36 GT-R登場!?

 2007年末の登場以来ずっと、日産「GT-R(R35型、以下R35 GT-R)」は世界中で注目され話題をふりまいてきました。そんなR35 GT-Rにまつわる興味深い出来事が、2023年末にありました。

 イギリスのロンドンを拠点とするデザイン会社の「Artisan Vehicle Design(アルティザン ビークル デザイン)」が、「R36」という名称のレンダリングをSNSに投稿するとともに、それを36台限定で販売することを明らかにしたのです。

 同社のWEBサイトには、「(前略)私たちの目標は、R35 GT-Rを本来あるべき姿に生まれ変わらせることです。現行モデルに新たな息吹を吹き込んで再活性化。その結果、過去のデザインのヒントと現代のライン、角度、テクノロジーを組み合わせた、上から下までダイナミックにスタイルが変更された車両が誕生しました」という旨が記されています。

 ここで気になるのが、「本来あるべき姿に生まれ変わらせる」という文言です。いったいどういうことでしょう。

 R35 GT-Rというのは、日産が持てる力をフルに駆使して世界の第一線で通用するだけの高性能を追求したモデルです。ご存じのとおり以それまでの「スカイラインGT-R」はスカイラインの高性能版でしたが、R35 GT-Rはまったく別の車種として開発されました。

 実際、プラットフォームからパワートレインまで走りに関する部分でスカイラインとは共通性がありません。

 実は当初、V35型スカイラインで採用された、FR-LプラットフォームをベースにR35 GT-Rを開発する案もあったようですが、それでは世界レベルのパフォーマンスを実現するなど到底不可能だと当時の開発責任者がつっぱねたそうです。

 スカイラインとは別物なので、車名もスカイラインと名乗っていません。ただし、“GT-R”のエンブレムや丸型テールランプなど、往年のスカイラインGT-Rとの関係をうかがわせる要素は一部に見受けられます。

 基本的に日本国内のみで販売されることを念頭に置いていたR32〜R34型の第2世代のスカイラインGT-Rは、いかにもスカイラインらしい日本的なデザインでした。

 ブリスターフェンダーも効いて、その迫力あるスタイリングの評価は日本では高かったように思いますが、実は海外ではあまり芳しくない声もありました。

 乗用車のようなカタチをしていて車高が高く速そうに見えない。でも乗るとやたらと速くて安定しているといった感じで、けなしているのかほめているのかわからないような評され方をしていたのを記憶しています。

 かたやR35 GT-Rのデザインの方向性は、それまでの歴代スカイラインGT-Rとは異なり、世界を見据えたものとされました。ファストバックに近いノッチバックのクーペスタイルとされたり、縦長のヘッドライトとされたことも、それを象徴しています。

 随所にそこはかとなく日産らしさが感じられながらも、スカイラインとは別のクルマであることが視覚的にも表現されていて、まったく異質の空気を放っていました。

 ところが一方で、第2世代のスカイラインGT-Rが有名なカーアクション映画やゲームソフトに登場するなどしたことで、こちらもまた人気が高まっていきます。

 アメリカで25年ルールの対象となったことで、多くのGT-Rが海をわたっているのもご存じのことでしょう。

 そんな事情もあって、いつしか第2世代の集大成であるR34スカイラインGT-Rが、R35 GT-Rのルーツであり、GT-Rの本来の姿だと海外でも認識されるようになったということだと思います。

 Artisan Vehicle Designが「R36」と呼んでいるのは、もちろん次期GT-Rを想起させることを意図しているのはいうまでもないと思いますが、件のモデルを目にして感じるのは、新しさよりもむしろ懐かしさです。

 そこがまさしくArtisan Vehicle Designがいう「本来の姿」の部分ということでしょう。ただ、「R36」という名称だと日産がR36 GT-Rを実際に送り出したときにおかしなことになりそうな気もします。

 とはいえ、ひとまず当面は大きなインパクトをもって受け取られることは確実です。

 チューニングのバリエーションは2種類あり、3.8リッターV6ツインターボを最高出力800psまで高めた「トラックパッケージ」と、エンジン排気量を4.1リッターまで拡大して大型ローラーベアリングターボを組み合わせ、最高出力を1000psまで引き上げて専用設計のトランスミッションを搭載したほか、ビルシュタイン製サスペンションやアルコン製ビッグブレーキなどを装備するなど、さらに高度なチューニングを施した「アルティメットパッケージ」が用意されます。

 生産はドイツのハノーバーにある工場にベース車を持ち込んで行なわれるそうです。800psに1000psですから、どちらも相当な性能の持ち主であることに違いありません。

 R35 GT-Rのチューニングは海外でも盛んに行なわれていますが、そこには日本の有力チューナーのノウハウもかなり生かされていて信頼性も高くなっているようです。

 問い合わせはArtisan Vehicle DesignのWEBサイトで受け付けています。また同車の公式SNSでは、度々「Prototype build update coming soon!」と投稿されており、間もなくの実車登場が予想されます。

 とにかく、日本で生まれた高性能車が世界中でこれほどずっと話題になり、最終章を迎えてもなお、こうして海外の有力者をも動かして自動車業界に影響を与え続けているのを見るに、R35 GT-Rという存在の大きさをあらためて思い知らされます。