朝と夕方の2回、旅館のロビーにあるグランドピアノを弾くと、宿泊代が100円に―。新潟市西蒲区の岩室温泉にある旅館「穂々(ほほ)」の宿泊プランが評判を呼んでいる。使用頻度が元々低かったピアノの活用方法を模索。腕前を見せたい演奏者と、生演奏を鑑賞する宿泊客の双方に利点があると考えた。旅館は「常に音楽が流れる空間にしたい」と意気込む。(共同通信=神部咲希)

 石添嗣好史(いしぞえ・つぐよし)社長(41)によると、明治初期に創業した「大橋屋」が行商や豆腐屋などを経て、旅館業を営むようになった。1994年に旅館を改装した際、携わった建設会社から贈られたのがワインレッド色のグランドピアノだった。

 時折ピアノ奏者を旅館に招いたものの、ほぼロビーに飾られたままになっていた。役立てられないかと思いを巡らせていた時期に新型コロナウイルス禍が重なり、コンサートなどの機会が減っているとテレビで知った。

 「演奏を披露したい人に泊まってもらえれば、他の宿泊客は生演奏を楽しめる」。2022年夏に本格的にプランを始めると、生演奏を聴いた客から「非日常感がいい」といった声が寄せられた。

 3月下旬に旅館を訪れた京都市上京区の会社員坪田圭司(つぼた・けいじ)さん(56)は、人気バンドOfficial髭男dismの曲などを演奏。「他の宿泊客が落ち着けるよう、ゆっくり弾いた」とおもてなしの心をのぞかせた。

 100円宿泊プランは1泊2日、1組2人まで利用可能。中級以上のレベルが求められ、1回90分ほど演奏してもらう。ピアノ以外での要望もあり、これまでフルートやバイオリンの音色が響き渡った。石添社長は「一緒に旅館を盛り上げてほしい」とほほえむ。