世界最悪レベルの原発事故を起こした反省はどこへ行ったのか。

 東京電力は新潟県の柏崎刈羽原発7号機の原子炉に核燃料の装填(そうてん)を始めた。2011年3月の福島第1原発事故後、初めてのことだ。

 燃料装填後に制御棒を抜けば原子炉は稼働する。東電は「検査の一環」としているが、実際には再稼働に向けた準備である。

 福島事故後に原発の新規制基準が策定されて以来、再稼働した6原発12基は地元の同意を経て燃料を装填している。一方、新潟県の花角英世知事は柏崎刈羽の再稼働に同意するかどうかをまだ明らかにしていない。

 立地する柏崎市や刈羽村は再稼働に前向きだが、避難計画の策定が義務づけられる30キロ圏内の自治体からは不安の声が上がっているという。

 地元の理解を差し置いた再稼働のありきの姿勢は、禍根を残すと言わざるを得ない。

 柏崎刈羽原発を巡っては、17年に原子力規制委員会の審査に合格した。だが、21年1月以降、東電社員による入構IDカードの不正利用やテロ対策の不備が相次いで明らかになり、規制委は21年4月に運転禁止を命じていた。

 23年12月に禁止命令は解けたものの、花角知事は慎重姿勢を示している。事故に備えた避難路整備の支援など、国に求めた安全確保策が出そろっていないためだ。原発立地県のトップとして妥当な判断といえよう。

 能登半島地震では各地で道路が寸断し、石川県の北陸電力志賀原発から30キロ圏内の14地区が最長16日間孤立していたことが内閣府の調査で明らかになっている。

 原発事故と自然災害が同時に起きれば、避難路を絶たれた住民が被ばくしかねないという懸念は、能登半島地震を機にいっそう現実味を帯びたのではないか。原発単独の事故を想定した住民避難計画では、不十分であることは明らかだろう。

 国と東電は、こうした不備の指摘に答える責務がある。

 東電が再稼働を急ぐのは、1基の稼働で年間1100億円と見込まれる収益改善効果があるためとされる。

 だが、そもそも柏崎刈羽の電力は首都圏に供給されており、電気料金の値上がりや経営の論理だけでは地元の理解は得られまい。

 原発には大小のトラブルがつきまとう。重要なのは丁寧な説明だ。そこを軽んじれば、存続すら危うくなることを知るべきだ。