パーソルキャリア株式会社が運営する転職サービス「doda(デューダ)」は、「2023年度 業種版 決定年収レポート」を発表した。その内容を一部抜粋して紹介する。

本ニュースのサマリー
  • 決定年収は過去5年で32万円アップ。最も増加した業種は「金融」で+62万
  • 決定年収が「増加した人」は58.5%。1年で最も上昇した業種は「外食」「エネルギー」「運輸・物流」

決定年収は過去5年で32万円アップ。最も増加した業種は「金融」で+62万

決定年収※の増加幅をみると、年々増加傾向にあり、過去5年間で32万円アップし、最も上がった業種は「金融」で+62万円であった。

※決定年収:転職者を受け入れる企業が、採用決定時に個人に対して提示する年収

画像:パーソルキャリア株式会社 2024年4月24日 プレスリリースより引用

doda編集長 桜井 貴史氏による解説

2020年は新型コロナが流行し、多くの企業は採用活動の中止を余儀なくされ、求人は減少。さらに、企業は事業継続に欠かせない経験者採用に重きを置き、年収帯が高い傾向にある経験者の獲得により注力したため、2020年度の決定年収は微増したと考えます。2021年度は、さらなる感染拡大により景気の先行きが見通せない中、業態変革や新規事業に乗り出す企業、業種問わず一層DXを推し進める企業等が急増。労働力不足が叫ばれる中で、専門性やスキルを有する人材の獲得競争がさらに白熱し、採用時の年収を引き上げる企業が多く見られました。

2022年度以降、景気は緩やかに回復基調が続き、2023年春闘では物価高や労働力不足感の強まりなどを受け、賃上げ率は30年ぶりの高水準となりました。2023年5月には新型コロナが5類に移行。経済活動の再開が本格化し、これまで控えていた採用を強化する企業が増えた一方で、転職求人倍率は3倍近くになり、採用難易度がますます高まるなか、自社に必要な人材の獲得を優位に進めるために転職時に提示する年収を引き上げる動きが顕著になっています。

業種別に過去5年間の決定年収の上がり幅を見たところ、最も増加したのは+62万円の金融業界でした。考え得る要因は主に3つあります。
1つ目は、2021年の銀行法改正よる大幅な規制緩和を受け、業務領域の拡大が可能となったことです。具体的には登録型人材派遣やITシステムの開発・提供、さらには広告や宣伝業務等が行えるようになりました。また、政府が掲げる「貯蓄から投資へ」という動きの中で、新NISAの提供を開始するなど、新サービスを推進させるような攻めに転じる動きが加速。金融機関におけるビジネスの自由度の向上や政府の投資促進などにともない、新規事業やIT等に精通する専門人材を他業種から採用するために、転職時の提示年収を引き上げる企業が増えています。
2つ目は、採用ターゲット層の拡大です。これまで金融業界は他の多くの業種と同様に、即戦力でもあり、より長くはたらくことが見越せる30代の採用に重きを置いてきました。しかし、労働力人口が減少の一途をたどる中で人材争奪戦がますます激化し、ターゲット層を40代にまで広げています。
3つ目は、人事制度の改定です。ニーズが高い層の人材を獲得するために、DXやIT、事業企画など一部の職種に限りエキスパートコースを設け、高い年収提示をする企業も一部で見受けられます。

このように、年収帯が相対的に高い傾向にある専門人材、40代の採用ニーズの高まりが、金融業界の決定年収の増加につながっていると考えます。

決定年収が「増加した人」は58.5%。1年で最も上昇した業種は「外食」「エネルギー」「運輸・物流」

2023年度に「doda」経由で転職した個人において、決定年収が「増加した人」は58.5%となり、「減少した人」は40.4%、「変わらなかった人」は1.1%であった。

画像:パーソルキャリア株式会社 2024年4月24日 プレスリリースより引用

この2023年度と、2022年度の転職成功者のデータをもとに、15の業種別に平均決定年収額を算出し、上昇幅をランキング化した。
1位「外食」(2023年度は424万円、2022年度は395万円の29万円アップ)、2位「エネルギー」(2023年度は514万円、2022年度は497万円の17万円アップ)、3位「運輸・物流」(2023年度は455万円、2022年度は443万円の12万円アップ)と続いた。唯一減少したのは15位の「旅行・宿泊・レジャー」(2023年度は406万円、2022年度は412万円の6万円ダウン)となった。

画像:パーソルキャリア株式会社 2024年4月24日 プレスリリースより引用

doda編集長 桜井 貴史氏による解説

上位3位の「外食」、「エネルギー」、「運輸・物流」と、唯一減少した15位の「旅行・宿泊・レジャー」についての解説。

1位外食
2022年頃から景気が回復基調となり、また行動制限の緩和によるインバウンド需要の回復を見据え、外食系企業では新規出店や、デリバリー専門店といった新業態での出店を再開させる動きが加速しました。世界的な和食ブームという後押しもあり、人口が減少傾向にある国内ではなく国外に新たな活路を求め、海外事業の拡大を目指す動きも見られました。

それにともない「店長」、そして経験が求められる「海外店舗開発」や「調達企画・バイヤー」といった人材のニーズが急増。しかし外食業界は、以前より労働力不足が深刻を極めている状況の中、コロナ禍で転職者の9割以上※が異業種に転職してしまいました。人材確保に向け、給与水準の引き上げを中心に、はたらく環境を整える企業の動きが顕著に。また、2023年春闘では、大手外食チェーンが軒並み賃上げに踏み切りました。これらの要因が、外食業界の決定年収の大幅増加に寄与したと考えます。

※:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000364.000016455.html

2位「エネルギー」
昨今、再生可能エネルギー、特に太陽光発電の増加や、LED照明の普及による省エネ化等により、電力消費量は減少傾向にあります。これは電力販売量の減少を意味し、加えて電力の小売が全面的に自由化されたエネルギー業界では、相次ぐ新電力の参入もあり、顧客争奪戦がますます激化しています。熾烈な競争に勝ち抜くためにエネルギー系企業は、社員のモチベーション向上や、営業力強化に向けた新たな人材の獲得などを目的に、積極的に賃上げを実施しています。さらに、年収帯の高い通信系等の異業種が新電力として業界に参入していることも、決定年収を押し上げている1つの要因であると考えます。

また、再生可能エネルギーの普及を促進するために政府は、エネルギー業界の賃上げを支持しており、さまざまな補助金を地方公共団体等に交付しています。これによりエネルギー系企業への発注が増え、売り上げが伸び、最終的に業界内ではたらく人々に還元されるといった流れも、決定年収の引き上げに影響している可能性があると言えます。

3位「運輸・物流」
2024年問題を抱える運輸・物流業界では、2024年4月からの時間外労働の規制を前に、残業代の大幅減少を懸念するドライバーの離職防止が急務となっていました。そこで各社、燃料価格上昇への対応に加え、ドライバーの待遇改善のために、配送料の値上げに踏み切っています。

また、業務改善のために、荷役を効率化させるために使う機械(マテリアルハンドリング)の設計や、配達向けドローン開発などを担う技術系人材の獲得にも各社力を入れています。ドライバーのベースアップや、専門性の高い技術系人材の採用ニーズの高まりが、決定年収にもプラスに作用したと考えます。

15位「旅行・宿泊・レジャー」
唯一、決定年収がマイナスに転じた旅行・宿泊・レジャー業界は、コロナ禍では事業変革のためにDXを担う人材や、オンライン、VRツアーといった新たな旅の形を実現する「企画」や「販売促進」といった専門性が高く、かつ即戦力となる人材を採用する傾向にありました。

一方で、2023年5月に新型コロナが5類へ移行したことで、国内・海外問わず旅行需要が急増しました。また、歴史的円安が追い風となり、訪日外国人客も急速に回復しました。それにともない、旅行代理店の店頭で旅行プランの提案や予約対応を行う「店頭営業」、ホテルや旅館等で宿泊管理・問い合わせ対応などを行う「フロントスタッフ」等の人材獲得が急務に。コロナ禍でニーズが高かったポジションよりもフロント職の急激な需要回復に対応するべく、未経験採用をさらに拡大させた結果、決定年収が下がったと推測します。

調査概要

■対象者:2019年4月-2024年3月の期間に「doda」のエージェントサービスを利用して転職した個人
■雇用形態:正社員

ニュース情報元:パーソルキャリア株式会社