はじめに

 今回は、心理カウンセラーの立場で「五月病」について考えます。疑問や不安を感じる際、その原因が分かると、安心を得ることができます。今回の記事の目的は、あくまでも安心を得ることが目的です。そのため、細かく述べるところもありますが、それは不安を煽ることではなく、あくまでも分かるため、とご理解ください。 記事の最後には「五月病」シンプル対策についてお伝えします。どうぞ、最後までお読みください。

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五月病とは?

 「五月病」という言葉を、皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。実は、正式には病名ではありません。あくまでも俗称です。日本予防医学協会では「医学的な病名ではなく、5月の連休後に憂鬱(ゆううつ)になる/なんとなく体調が悪い/会社に行きたくないなどの軽いうつ的な気分に見舞われる症状のこと」と定義しています。
(参考:環境の変化が引き起こす『五月病』とは? | 健康づくりかわら版 )

図1/筆者作成

 図1をご覧ください。私は個人的にAとBの両方の捉え方ができると考えています。

 Aは「病気の手前の状態」を表しています。病気ではなく、その一つ前の心身の不調な状態(未病)です。 例えば、「今日はだるいな、会社に行きたくないな」という状態と、「何日も欠勤が続く状態」この違いです。ただし、この未病を放置してしまうと悪化して何かしらのメンタルの病として発症します。

 Bは、「既に病気を発症している状態」を表しています。本人は気づいてはいないが、既に何かしらのメンタルの病を発症している場合です。例えば「今日はだるいな、会社に行きたくない」状態で出勤。それでもだるいので、会社の産業医に見てもらったところ、病名が診断されるケースです。

 読者のみなさんが会社員であると想定します。例えば、あなたは自分の状態をBの赤丸の状態と思っていたとしても、上司はAの青丸と捉えていたとします。これでは、お互いに誤解が生じてしまうことでしょう。五月病に関して、あなたが職場や学校で、「会話がかみあっていない」「変に誤解されている」と感じるときは、相手がAかBの、どちらで捉えているのか、お互いの誤解を回避するためにも確認をした方が良さそうです。

 五月病を厳密に考えるのならば、Aの青丸とBの青丸の2つの状態に分けることができるでしょう。ただ、メンタルの状態は目に見えるものではありません。また、病気は「早期発見・早期治療が大事」といわれます。あくまでも病名の診断は医師の範疇です。調子が悪いなという場合は、抱え込まずに専門機関に相談することをお勧めいたします。

五月病のイメージ

五月病の4つの要因

(1)環境の変化

 環境の変化とは、新たな人間関係を築くことや、既に構築されている人間関係の中に後から入るなど、さまざまな場面が想定できます。また、広い意味で捉えるのならば、季節の変わり目など自然の変化なども含めることもできるでしょう。このような変化に対して、うまく順応・適応することができない状態です。

(2)期待とのギャップ

新しい環境に進む際、何かしらの期待も伴うことが多いのではないでしょうか? 図2をご覧ください。

図2/筆者作成

 現在の自分と期待と間にはギャップが生じます。このギャップを埋めようして、なかなかうまく埋められない場合、期待は焦燥感や失望感へと変わっていきます。

(3)バーンアウト(燃え尽き症候群)

「バーンアウト(燃え尽き症候群)」とは、心身の過度な疲労により、それまで勉強や仕事などに打ち込んでいた人が燃え尽きたように意欲を失い、社会生活に適応できなくなる状態をいいます。五月病で捉えるのならば、受験や就職など、大きな目標を達成したことにより生じるバーンアウトです。前項(2)では期待とのギャップを挙げました。この逆の「やりたいことを見いだせない」状態です。目標の達成により燃え尽きてしまい、「授業に行きたくない」「やる気が出ない」という状態です。

(4)自律神経の不調

 五月病とは別に、四月病と呼ばれる症状もあります(五月病と同じで正式な病名ではありません)。この四月病は、春先の季節の変わり目による自律神経の乱れが主な要因といわれます。ただ、4月までは四月病、5月からは五月病と明確に区別できるものではありません。自律神経の不調が5月に入り、悪化したと十分に考えられます。

五月病のイメージ

五月病のセルフチェック

 この4つの要因以外にもさまざまな要因を挙げることができます。また、それらが相互に関与し合うこともあるでしょう。ストレスフルな現代社会においては、誰が五月病になってもおかしくはありません。前出の日本予防医学協会では変化の具体的な例と、それに伴う症状として、次の例を挙げています。

(1)変化の具体的な例

・この春に就職・異動・転勤・転職した
・職場の雰囲気や人間関係などが変わった
・新たな責任やプロジェクトを任された
・生活リズムが乱れていた
・冬から春にかけて繁忙期で長時間残業を行っていた

(2)具体的な症状

●身体面

・疲れやすい
・頭痛がする
・眠れない
・仕事や家事、勉強が以前のようにテキパキこなせない

●精神面
・やる気が起きない
・気分が落ち込む
・何も興味がわかない
・不安や焦りがひどい

ここに挙げたもののうち、いくつ当てはまるから該当するというよりも、たとえ一つでも当てはまる場合、何かしらのケアが必要とお考えください。この他、普段はできていることが億劫になった場合は、不調のサインかもしれません。例えば、

・着替え等の出勤の準備
・帰宅後の入浴や掃除等

など、いつもならなんとも思わない動作に苦痛を感じませんか?このセルフチェックは、決して不安を煽ることが目的ではありません。冒頭でもお伝えしたように、知ることが不安を軽減し、安心感を増やします。まず、五月病の正体を知ること、このようにご理解ください。

どのようなタイプがなりやすい?

 五月病というと、以前は新入生や新入社員に多いと考えられていました。ただ、メンタルの不調は誰にでも起こり得ます。五月病になりやすいタイプとして、4つ挙げてみました。

・几帳面で真面目
・完璧主義
・一人で抱え込む
・変化に馴染めない

 ここに挙げたもののうち、例えば、「几帳面で真面目なこと」は、ダメと否定されることでしょうか? もし、ダメと捉えてしまうと、ますますダメダメになってしまいそうです。この性格で、うまくいく場面もあるはずです。次のように捉えてみてはいかがでしょう。

「うまくいくときもある、しかし、うまくいかないときもある」

 従って、ケースバイケースで使い分けることが肝要です。性格を変えると捉えてしまうと、ハードルは高くなります。あくまでも使い方次第なんですね。

適応障害とうつ病との違い

 五月病は「適応障害」と診断されることが多く、次が「うつ病」です。それぞれの状態を挙げてみました(この他、パーソナリティ障害・発達障害・パニック障害・不眠症などの場合もあります) 。

・適応障害:日常生活の中で、何らかのストレスが原因で心身のバランスが崩れ、社会生活にも支障が生じたもの。原因が明確でそれに対して過剰な反応が起きた状態。(参照:厚労省「e-ヘルスネット」)

・うつ病:精神活動が低下し、抑うつ気分、興味や関心の欠如、不安、焦燥、精神運動の静止あるいは激減、食欲低下、不眠などが生じ、生活上の著しい苦痛や機能障害を引き起こす精神疾患のこと (参照:厚労省「こころの耳」)

 適応障害とうつ病は、どちらも心身の不調を抱え、生活に支障が生じる点は同じです。違いは大きくわけて二つです。

 一つ目は、「不調の原因が明確かどうか」です。ライフイベント(進学・就職・結婚などの人生におけるさまざまな出来事)がきっかけになったなど、原因が明確に特定できる場合、適応障害。一方、漠然とストレスを抱えている場合は、うつ病とされます。

 そのため、適応障害の場合、そのイベントから離れることにより改善が見られます(例外もあります)。しかし、うつ病の場合は思い当たる原因から離れたとしても、なかなか改善には至りません。

 二つ目は「機能障害の有無」です。うつ病は「脳の機能障害」が起きている状態です。脳がしっかりと働いていないために、物事の捉え方が否定的になってしまうなど、考え方に支障(思考のクセ)が生じます。環境を変えたとしても、思考のクセを見直さないと、新しい環境においても似たストレスを抱えてしまう恐れがあります。
 もちろん、明確に区別や線引きできないケースもあります。ただ、五月病は環境の変化が大きな要因であることを考えるのならば、適応障害と診断されるケースが多いことも頷けるのではないでしょうか。

心のイメージ

心が軽くなる「シンプルセルフケア」

 このワークは五月病に効果のあるものです。ただ、効果には個人差があります。予めお含みおきください

(1)目の前のことだけに集中すること

 例えば、日曜日の夜になると「サザエさん症候群」を引き起こす人がいます。この人の場合、頭の中では「(サザエさんは日曜夕方に放送されるから)明日は月曜日だ。会社行きたくない」と“明日のこと”を考えてしまっています。大切なことは、明日のことではなく目の前のこと、つまりサザエさんを集中して観ることが大切になります。

(2)遠くの景色や星を見つめること

「明日の朝、行きたくない」と思うとき、昼は部屋から、外の遠くの景色を眺めてください。夜は、月や星々でOKです。見つけた景色や月・星に向かって、「いま、あなたが抱えていることや、不安に感じることなど」を伝えてください。

過去や未来に意識を向けないこと、これが(1)のワークの目的です。自分の内面に意識を向けないこと、これが(2)のワークの目的です。

(1)と(2)を交互に取り組むのもOKです。お試しください。

さいごに

 GWも終わり、日常生活が戻ってきました。健康第一で過ごしたいですよね。

(佐藤城人(さとう・しろと))