ウェブトゥーンと呼ばれる縦スクロール漫画をご存知でしょうか。これは、縦長の画像をスクロールしながら読む形式の漫画で、スマホで読みやすいと近年注目を集めています。

この形式の漫画には異世界ファンタジーやサスペンスなどの作品が多く、こういった作品がランキングの上位をほとんど占めているのですが、その中で異色ともいえる「日常モノ」の作品が注目を集めています。

『ハルとゲン〜70歳、はじめての子育て〜』は、大島由果さんのデビュー作。70歳の祖父と3歳の孫娘のほっこりする日常を描いた作品です。WEBの短期集中連載では1,600万PVを超える大きな反響を呼び、紙書籍の発売が決定するなど注目を集めています。この作品のあらすじをご紹介しましょう。

『ハルとゲン〜70歳、はじめての子育て〜』あらすじ




妻と離婚し長い間一人暮らしをしていた70歳のゲン。その娘・サクラは30歳にして病気で亡くなりました。サクラの3歳になる娘・ハルの育児を託されたゲンは、ハルを引き取って育て始めます。
しかし思っていた以上に育児は大変で、ゲンは妻に家庭を任せきりで顧みなかった若い頃を思い出して苦い気持ちになることも……。

70歳にして初めて挑む子育ては大変ではありますが、ハルの育児を通して、ゲンの世界や周囲の人々との関わりも広がっていきます。



亡くなった娘との切ないエピソードを交えながらも、元気いっぱいのハルに振り回される微笑ましいエピソードにほっこりするこの作品。著者の大島由果さんに、縦スクロール漫画についてお話を伺いました。


著者・大島由果さんインタビュー


──『ハルとゲン』はウェブトゥーン、いわゆる縦スクロール漫画です。この形式の漫画は近年注目を集めているスタイルですが、いつからこの形式で漫画を描いていらっしゃるのでしょうか? 

大島由果さん:縦スクロール漫画を描いたのは、2021年の第1回縦スクロールマンガ大賞に応募した作品『孫のマコ』が初めてでした。

──従来の紙書籍向けの漫画ではなく、スマホ向けの縦スクロール漫画を選んだきっかけや理由を教えてください。

大島由果さん:コロナ禍で外に出る事が少なくなり、本屋に行く事が減ってスマホで漫画を読む事が多くなった時、従来のスタイルの漫画では文字が読みづらく、縦スクロール漫画を読む事が増えました。
縦スクロール漫画は文字が見やすいのもあるのですが、枠線やページに左右されない表現もまた面白くて自分でも描いてみたいと思ったのがきっかけです。




──縦スクロール漫画のジャンルではプロットやネーム、作画や着色などを分業で描かれている作品も多いと聞いていますが、『ハルとゲン』は大島さんがすべておひとりで描かれているのでしょうか?

大島由果さん:最初は全部1人でやっていました。ですが、とても大変だったのでキャラクターの着色を友人に手伝ってもらっています。漫画の作業は孤独になりがちなのですが、その友人のおかげで時間的にもメンタル的にも共に助かっています。

──縦スクロール漫画を描く時にどんなことを心がけていますか? 従来のスタイルの漫画との違いで意識することや工夫していること、あるいは苦労する点、メリットやデメリットなどあれば教えてください。

大島由果さん:漫画としての表現を守りながらもスクロールする事でキャラが動いて見えるようにコマ割りでアニメーションの表現を入れたりもしてます。重要な場面は1画面で見せるようにして「見せ場」を作ってます。

画面が上から下に流れるので、吹き出しや効果音の位置に苦労してたりします。デメリットについては、私の漫画では描く事はないかもしれませんが、派手なアクションがある場合見開きで派手に見せる事ができないので苦労するのではないかなと思っています。




──縦スクロールの電子書籍が大きな反響を呼び、紙書籍の単行本になることが決まりました。どんな心境でし たか?

大島由果さん:とても嬉しかったです 。そして、ありがたいなぁというが溢れてきました。 書籍にして頂けたのも、読んでくださった方々、編集部の方々、「ハルとゲン」が描け るきっかけになった今まで出会ってきた方々のおかげなので。 とても感謝の気持ちでいっぱいです。

──書籍を実際に手にとってみていかがでしたか? 紙面でご自身の作品を見た時の印象 をおしえてください。

大島由果さん:「すごい!本になってるー」と感激しつつも もしかして夢ではないのかしらと、ふわふわした気持ちになりつつ、やっぱり現実なんだなぁと感激しておりました。

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単行本用にコマ割りを再編集して発売された紙書籍は、ストーリーはそのままですが縦スクロール版とはまた違った味わいの作品になっています。赤ちゃん時代のハルとサクラの4コマエピソードやイラストなどの描き下ろしページも追加されるなど、作品ファンには嬉しい内容に。WEB連載や電子書籍ですでに作品に触れている方も、縦スクロールとコマ割りの手触りの違いに注目してみてください。

取材・文=レタスユキ