身の回りのあらゆるものの物価が上がり続ける時代にあっては、消費者が「買う」ことをためらってしまうのは当然の流れ。とはいえ売り手側は、決して値上げしたくて値上げしているわけではないはず。原材料・人件費・物流費などが高騰しているため値上げせざるを得ない状況であるわけです。

仕方がなく値上げをしたら売れなくなってしまうのですから、絵に描いたような悪循環。しかし『高くてもバカ売れ! なんで? インフレ時代でも売れる7の鉄則』(川上徹也 著、SB新書)の著者によれば、そんななか、たとえ高価格でもバカ売れするものがあるのだとか。

そこで本書では、コロナが流行した20年春以降から、本格的なアフターコロナが始まった23年秋までに「値段が高くてもヒットした商品」に絞って分析し、その秘密を解き明かしているのです。

興味深いのは、コスパで考えると「どうかな」と思うのに、なぜか財布の紐がゆるんでしまう商品には共通点があるという著者の指摘です。

感情が動く。

気分がアガる。

テンションが高くなる。

極力シンプルに表現すると、新時代のヒット商品の共通点はここにあります。

人は自分の気持ちを高揚させるものに対しては、お金を出してしまう。だから高くても売れるのです。(「はじめに」より)

ちなみにインフレ時代でも「高くても売れる」キーワードは、①アガる、②プレゼント、③自分メンテナンス、④プチ贅沢ご褒美、⑤応援消費、⑥レトロエモい、⑦ガチニッチ、の7つだそう。本書ではこれらを軸にさまざまな事例紹介しつつ、消費者の感情を動かすポイントを分析しているわけです。

そちらはじっくり確認していただくとして、ここではそれらに続く第8章「今すぐ価格の壁を打ち破るための7原則」に焦点を当てみたいと思います。

1:想定価格を上げる

ブームを巻き起こした高級かき氷や高級パフェがそうであるように、従来の価値観を超える高価格と、それに見合った質(おいしさや贅沢感、エンタメ感)を提供することは重要。自分が携わる商品についても、「徹底的に質を上げ、高価格の高級路線で売り出すことはできないか」と考えてみるべきだと著者はいいます。

その際に重要なのは、運ばれてきたり開けたりする瞬間に「気分がアガる」かどうかです。かき氷もパフェもフォトジェニックに進化したことで、SNSにアップしたくなる商品になったことがヒットに繋がっています。(224ページより)

商品がヒットすれば、その価格がいつしか「適正価格」として認識され、業界全体に活況をもたらすかもしれないということです。(220ページより)

2:付加価値をつける

1991年9月末の台風19号によって、収穫期目前だった津軽地方のりんごが壊滅状態になったことがありました。そんななか、まさかの大成功となったのが「落ちないりんご」。

ほとんどのりんごは落ちてしまったのですが、強風に耐え、枝から落ちなかったリンゴが僅かながらあったことに注目して、これらを「落ちないりんご」と名付けて、受験生の合格祈願の縁起物として売り出すことにしたのです。

翌年に全国の神社で販売したところ、2個で3200円という高価格ながら瞬く間に完売しました。(225ページより)

このように、一見ほかの商品と変わりなく思えるものでも、効果的な文脈や物語を背景に付与すれば、一気に魅力的になることがあるのです。(224ページより)

3:名前を変える

商品名を変えることで第一印象が変わり、商品の売りポイントが消費者に伝わりやすくなって、大ヒットにつながるケースがあります。(227ページより)

王子ネピアのボックスティッシュ「鼻セレブ」もそのひとつ。「ネピア モイスチャーティシュ」という名で売り出すも売上が伸びなかったため、中身を変えずにパッケージとネーミングをリニューアルした結果、爆発的にヒットしたのでした(227ページより)

4:見た目を変える

2023年には、「10円パン」という巨大な10円硬貨のようなパンがZ世代を中心に大ヒット。「TikTok2023年上半期トレンド大賞」グルメ部門にノミネートされ、渋谷や大阪・道頓堀の店舗に行列ができるという現象もありました。(231ページより)

人は新しさを感じさせるものに興味を抱きやすいので、おなじみの商品でもデザインやサイズを変えることで大ヒットにつながるケースもあるということ。それに併せて価格帯を変えることもできます。(230ページより)

5:売る時間・場所を変える

営業時間・提供する時間・販売期間・タイミング・季節などを変えるということ。当たり前だと思っている時間軸を変えただけで、商品が売れ始めることがあるわけです。

時間や場所を変えることによってニーズが変われば、価格も変えることができるかもしれません。

リアル店舗で売れなかったものがECに切り替えたら売れた。逆にECでは売れなかったものがリアル店舗を出したら売れたという事例もよくあります。ある場所では値段がつかないものが、他の場所で売ったら高価で売れるということもあるのです。(234〜235ページより)

また、時間や場所を変えることでニーズが変われば、価格も変えることができる可能性が出てくるでしょう。(233ページより)

6:売る相手を変える

いままで売れなかったものも、売る相手を変えることで急に売れ出すことがあります。いい例が、作業服専門店だった「ワークマン」の躍進ぶり。

2018年に1号店が「ららぽーと立川立飛」にできた「ワークマンプラス」は、一般ユーザー向けにアウトドア・スポーツ系の高機能ウェアやレインウェアを販売し、いまや543店舗を展開しています。「ワークマンプラス」に2年遅れてスタートした「#ワークマン女子」は、レディース用品やユニセックスデザインの高機能ウェアを充実させ、全国に44店舗を構えるまでに急成長しました(2023年11月時点)。(236〜237ページより)

ターゲットを変えることでイメージが変わると、価格も変えられる可能性が出てきます。(235ページより)

7:定義を変える

売上や顧客獲得が停滞しているとき、その商品の「定義」を変えることでブレイクスルーが起こる場合も。

老舗和菓子屋・新正堂の名物「切腹最中」(忠臣蔵の浅野内匠頭が切腹した屋敷跡に店があることからつけられた名称)が、「謝罪用の手土産」として大ヒットしたことなどがその代表例。このように商品の定義を変えることでイメージが変わると、価格も変えることができそうです。(237ページより)


さまざまな事例が紹介されているため、自社の商品やサービスを「高売れ」させるアイデアがきっと見つかるはず。「売れない」という壁に悩まされている方は、手にとってみてはいかがでしょうか?

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Source: SB新書