娘を守るために殺人を犯したサラリーマン・哲雄が、ミステリーオタクの知識をフルに活かして、半グレ組織の追求から逃げ切るドラマ『マイホームヒーロー』(MBS)。次々とどんでん返しが起こる予測不可能な展開と、地上波ドラマ離れしたハードな描写の多さで絶大な支持を得た物語の続きが、『映画 マイホームヒーロー』として現在公開中だ。

主人公・鳥栖哲雄の多面性を見事に表現した佐々木蔵之介に、ドラマと映画で変化したことや、さまざまな解釈が分かれたラストなどについて、きっちりネタバレNGで話を訊いた。

取材・文/吉永美和子

■「思った以上に家族愛の映画に」

──ドラマ版の最終回は、哲雄が埋めた死体が土砂崩れで発見されたというニュースで終わっていましたが、映画はまさにそこがスタート地点になっていました。

ドラマが始まる前から、映画を作ることは決まっていました。だからドラマ撮影の後半ぐらいからは、映画の台本作業が始まっていて、僕も打ち合わせに参加して「ここはこうしませんか?」とご提案しました。

──映画はPG12のレイティングが付くほど、さらに攻めた内容になりましたね。

そもそも原作の漫画を読んだときに「これ、映像化不可能やろ?」って。配信ならまだアレやけど、地上波となると・・・でもMBSさんが「うちの深夜は、一番攻められる媒体です」とおっしゃって、実際に内容も血の量も、本当に攻めた作品になりました。

映画はそこからさらに広げられたから、それでPG12になったんでしょうね。特に殺し屋・窪(音尾琢真)の「ありがとう、人を殺すのは楽しいな」ってセリフ、原作を読んだ時点で「なんやこいつ?」って思いましたよ(笑)。

──絶対話が通じる人じゃないですよね。ドラマ版はドキドキハラハラのサスペンス要素が強かったんですが、映画を観終わったときは「ああ、これは家族の物語だったんだな」と感じました。

本当にそう思います。ドラマ版はクライムサスペンスにして、映画はファミリーをテーマにしたいと制作陣も事前に言っていましたし。僕も完成したものを観たときは、思った以上に家族愛の映画になったなと思いました。

──映画では、娘の零花(齋藤飛鳥)が刑事となっただけでなく、弟まで生まれています。この家族関係の大きな変化によって、哲雄の演技にも変化はありましたか?

「罪を犯してしまった自分が新たな命を授かって、さらに守るものが増えた」というのはドラマからの7年で大きな変化ではあります。妻・歌仙役の木村多江さんが「守らなきゃいけないものが増えたことで、哲雄さんはもっと危うくなった」っておっしゃっていて。

だから、「この人を守らなければ」と、ドラマのときよりも考えていたそうです。それを聞いて「ああ、そんな風に感じてくれてたのか」と思いました。守るべきものが増えたことで、前よりも過敏になっていたのかもしれないですね、自分がね。

■「血糊がないと物足りなく・・・」

──そう言われると、罪を背負った7年間の重さも、危うさに拍車をかけていたのかもしれません。

哲雄はいつもドラマのなかで「これで終わりだ」「これで終わらせよう」「やっと終わった」って言うけど、一切終わってなかったんです。一度一線を越えてしまったら、ずーっと終わらない。この7年間、彼はときには笑ったりしていたと思うけど、やっぱり毎日罪悪感や後悔を感じていたはず。

家族のためにやったことが、決して家族のためになっていなかったと。映画は、哲雄がそこから卒業というか・・・。終わらせることはできないけど、彼なりの結論を出すということだったと思います。

──ドラマでも、哲雄に絡んでくるのはクセの強い人が多かったですけど、今回登場した哲雄を追い詰めるクセ強のラスボス・志野(津田健次郎)と、哲雄の秘密を知る謎の青年・大沢(宮世琉弥)も、負けないほど強烈なキャラクターでしたね。

津田さんは衣装合わせのとき、青山貴洋監督と「ちょっとクセを強くしたい」っていうやり取りがあったらしくて。そこからクランクインするまでに30日ぐらいあって、かなり発酵していました(笑)。

志野は怖くて不気味なだけじゃなくて、クネクネしていてちょっと笑えるのが良かったですね。「気味が悪いけどなんかオモロイなあ、この人」というのが、エンタテインメントとしてやっぱりよかったと思います。

──大沢も登場シーンは「こいつナメとんか」って、インパクト絶大でしたね。

明るく溌剌と登場するけど、オタクなのか? サイコなのか? というのが、どうにも読めない感じもあって。この2人が本当にクセ強で役を作ってきたので、逆に僕はリアクションは楽でした。「なんやこいつ? 気持ち悪っ!」「いや、こいつ信用できるんか?」って、そのまんまの反応でしたから(笑)。

──あの反応は素だったんですね。しかし大沢の正体って、普通のドラマならもっと早く匂わせたと思うんですけど、ギリギリまで引っ張ったおかげで、興奮度が増しました。

そのバランスって難しいんですけど、お客さんの目を惹きつけつづける力が、宮世くんにあったのが大きかったんです。その力がなかったら、早めに(正体を)匂わせることで惹きつけておく方がいいけど、彼はちゃんとそれができてましたからね。今回のキャラクターで、実は一番強いのは大沢ですよ(笑)。

──確かに! そして血糊の量も、まさに大出血サービスでしたね。

ホント、大増量です。ドラマでは血糊に苦労したんですが、もう慣れちゃって。血糊がないと物足りなく感じました。「今日はいらんのかい?」って(笑)。

■「ここまでオモロイ役にはめぐり会えない」

──以前佐々木さんに取材したときに、今も演劇を続けている理由を「しんどいけど、やらなあかんと思うから」と言われたのが衝撃だったんですが、今回もすごくボッコボコにされていて、もしかして追い詰められるのが好きなんだろうか? と思ったんですが。

いやいや、好きやないです(笑)。できたら逃げて通りたいですよ。でもお客さんは、追い詰められて、そこからどう行くのか? というのを見たいんでしょうね。追い詰められた末に、勝つのか負けるのか・・・勝つことの方が少ないんですけど、どういう負け方をするのかっていうのが大事なんやろうなあと思います。

──元半グレ組織メンバーや警察官になった娘からも追い詰められたその先に、ラストで見せたあの表情は、ちょっと言葉にできないほど複雑な思いがしました。

映画を観てくれた方からも、いろいろ言われましたね。「正当防衛だったのに・・・」という知り合いもいました(笑)。監督から「なんらかの希望、未来みたいなものを表現したい」と言われて、それをどう見せたらいいのかは難しかったですけど。

──あれはハッピーなのかバッドなのか、観た人と語り合いたくなりました。佐々木さんにとって哲雄の役は、自分のキャリアのなかでどういう位置づけになりましたか?

オモロイ役やったなあ、と。お客さんはギャップみたいなところにグッと入ると思うんです。彼はヒーローでありながら殺人犯で、普通のサラリーマンと言いながらも明らかにスーパーマンで、ボコボコにされながらも一歩も二歩も先を見ている。

そして正気の沙汰じゃないようなこともするけど、その底には計り知れない、ブレない家族への愛も感じられるんです。そういうギャップのある役を、コメディも入れながら演じられる・・・しかも(物語の)真んなかで、通してできるのは面白かったですね。なかなかここまでオモロイ役には、めぐり会えないと思います。

──最後に、佐々木さんはお酒好きでも知られていますが、この映画をお酒に例えたら、なんだと思いますか?

難しいこと聞きますねえ(苦笑)。なんやろう? 昨日ね、実家(佐々木酒造)で搾りたてのお酒と、品評会に出す酒を飲み比べたんです。搾りたては荒ばしりというか、なにか激しい感じの味がして、品評会に出す方はもっといろんな味わいというか、複雑なものがいっぱい折り重なっていたんですけど。

──その「荒い搾りたての酒」はちょっと近い気がしましたね。飲んだ人のなかで、荒さが熟成されていくようなイメージが浮かびました。

あー、なるほど。若干発泡していて、刺激があるんだけど、味わっていくといろんな感情が見つけ出されていくというね。そうですね、そういう感じにしましょう(笑)。