東京・吉祥寺を拠点に活動をするバンド・グソクムズが4月3日、1stフルアルバム『ハロー!グッドモーニング!』でメジャーデビューを果たした。たなかえいぞを(Vo&Gt)、加藤祐樹(Gt)、堀部祐介(Ba)、中島雄士(Dr)からなる4人組で、はっぴいえんどやシュガーベイブなどのニューミュージックを今の時代に感じさせてくれる。

2021年のアルバム『グソクムズ』で『第14回CDショップ大賞』を受賞した実力派でありながら、20th CenturyやKaede(Negicco)に楽曲提供するなど、バンドとしてだけでなくコンポーザーとしても活動している彼ら。今や存在感が年々増してきているこのタイミングでグソクムズが描いたのは、今まで以上に幅広い音楽性と、心のよりどころがない若者たちへ希望を与える歌であった。

今回は来阪したボーカルのたなかえいぞをに、バンドをスタートさせた経緯や新しいアルバムの話、そして自分たちが目指す音楽の形など話を伺った。

取材・文/マーガレット安井

■「ニューミュージックが耳に合ったから今のグソクムズがある」

──グソクムズの魅力は60〜70年代のニューミュージックが持っていた、グッドミュージックな精神が体現されているところだと思っていて。そもそもたなかさんはどのような音楽が好きだったのか気になります。

僕のお話をすると、母と父が60〜70年代ごろの音楽をリアルタイムに聴いていた世代で。小さいころから家のなかでカーペンターズやモンキーズ、サイモン&ガーファンクルなどの音楽が流れている環境で育ったんです。

その後、流行りの音楽も聴きましたが自分の耳にはあまり合わなかった。でも高校のころにビートルズのベストアルバムを買ってみて「あっ、こっちのほうが耳に合うし、新しいな」と思ったんです。

──新しい?

はい。知っている音だし、シンプルだけど密度の高い音楽をやっていることが驚きでした。そこから60〜70年代の音楽を聴き始めました。その後、友だちにはっぴいえんどを教えてもらって。その友だちは今、作家として活動している大田ステファニー歓人(注1)なんですけど。彼と同級生とでバンドをやっていて、そこから音楽を学びましたね。

(注釈1)大田ステファニー歓人・・・1995年東京都生まれ。2023年に『みどりいせき』で第47回すばる文学賞受賞。

──その後、たなかさんは加藤さんとユニットを結成。堀部さん、中島さんが加入され、今のグソクムズになりますが、そのころからニューミュージック的なサウンドをやろうと考えていましたか?

フォークユニットのときはアコースティックギター2本で始めたっていうのもあって、ベースやドラムを入れてバンドでやるとなったとき、もっともお手本になりやすかったのがはっぴいえんどだったんです。僕らの音楽ははっぴいえんどやシュガーベイブに例えられますが、でも加藤はシュガーベイブの曲を聴いてはいなかった。

──過去のインタビューなどで、フォークユニットのころは真島昌利の『夏のぬけがら』のようなサウンドをやっていたと語っていましたよね。あの作品には今のグソクムズとつながるアコースティックな面もありますが、パンク的な部分もあって。そこを目指そうとは思わなかったのですか?

もちろんパンクは好きですし、ロック、ロックンロールも好きです。でもいろいろな人に広がらなかったら、やっている意味を感じられないと思う。どうせ聴いてもらうなら、さまざまな人に聴いてもらいたいというのはグソクムズのなかにはある。

それに僕にはパンク精神はあるかもしれないけど、一目でわかるようなパンク・パフォーマンスをすることは僕にはできない。だから今やっているジャンルが、僕たちの良さを100%出しきっているのかなと思います。

■ 前作の反省からできた『ハロー!グッドモーニング!』

──先ほどグソクムズの魅力は「ニューミュージックが持っていたグッドミュージックな精神」だと話しました。でも今回のニューアルバムではより、バンドの音楽性の幅を広げたという印象で。たとえば1曲目の『シグナル』を聞くと「これほどオルタナティブなロック・サウンドもできるのか」と驚いてしまって。

意識していた部分もあると思います。そもそも今回のアルバムは、前回のアルバムの反省を活かしてできた作品で。

──2022年の2ndアルバム『陽気な休日』はメンバーが楽曲を持ち込んで、主導権を握りながら制作をおこなうという作品でしたね。

はい。しかし単純にアレンジを煮詰める時間がなかったこともあって、いい曲の寄せ集めになってしまったという感じで。だから今回の作品は「アルバムとして、ひとつの作品をつくる」ことを意識しました。結果、4人それぞれ自分の楽曲の幅を広げながらも、1枚のアルバムっていう作品には落とし込めたのかなとは思っています。

あと今回はアレンジをおこなううえで、十分な時間を確保できた。今まではレコーディング期間が5日間しかなかったんですが、今回は2週間くらいあったんで。

──各々の個性を出しながらも、作品としての統一性も確保ができた。グソクムズはメンバー全員が作詞・作曲をできるバンドですが、『陽気な休日』での反省はこのバンドならではのことなのかなとも感じます。

そうですね。でもメリットもあって。メンバー各々が楽曲をつくることは、自分自身にとって本当に刺激になります。こんなコード進行を使うのかとか、こんな歌詞を書いてくるんだとか。だからメンバーが書いてくる楽曲が毎回楽しみだし、誰よりも制作者のファンだと思っている。あとはメンバーと話し合いながら、それをどう形にしていくかという作業も楽しいです。

反面、メンバー全員への落とし込みをするのは大変。たとえば加藤はギターアレンジを決めたり、僕は歌い回しなどを作曲者と合わせたりするのですが、それには時間がかかる。あと自分が書いた曲ではないので、すごい難しいコード進行を無理やりライブまでに叩き込むのが大変で。だから曲ができるスピード感は早いとは思いますが、結局ほかのバンドと同じくらい時間をかけて制作していると思います。

──今回のアルバムではギターを弾いていないのですか?

そうです。自分は歌に集中したかったので、バッキングは半分ぐらい堀部が弾きました。

■「すべての世代にふわっとつまみあげられる存在になれたら」

──『グソクムズ』(2021年)のインタビューで、たなかさんは「負けもせず勝ちもせずもやもやしている若者の違和感を歌いたい」と語っていました。でも今回アルバムでたなかさんが書かれた『ユメのはじまり。』『グッドモーニング』を聴くと、すごく前向きな曲だなと思いました。何か心境の変化みたいなものがありましたか?

ありました。自分の意識が内側に向いていたこともあって、前までは違和感を持つ若者のひとりとして表現していました。でもいろいろなところでライブをして、ファンと交流するようになって、僕がいつまでも若者の違和感を歌う側でいいのかなと感じてしまって。だからどうせ表現者ならば、違和感のある人たちを前向きにする人間になりたいと今は思っています。

──なるほど。今の話を聞くと、歌詞の変化もそうですが、ライブに対してのモチベーションも変化していると感じました。過去のインタビューを読んでいますと、ライブがあまり好きではなかったと話されていましたよね。

そうです。アマチュア時代はブッキングライブなどに出る機会が多かったのですが、そもそもノルマを払うのが嫌だったし、そのために友だちをかき集めてライブをすることに対して「意味があるのかな?」と思っていました。

ならばきちんとレコーディングをして音源を作成し、YouTubeに上げてみんなに見てもらう。そのほうがお金の使い方として有益だなって思い、ライブから離れて音源制作に重点を置きました。でもそのせいで凝った楽曲を制作するようになり、ライブで再現するのが難しくなって。結果、「ライブ苦手だわ」となってしまって・・・。

──ハハハ(笑)。ただ今はライブを普通にやっていますよね。5月には東阪でのワンマンライブも控えている。ライブをやろうと思えたきっかけって、何だったんですか?

テンション感はあると思います。僕たちがちゃんとライブをするようになったのがコロナ期間っていうのもあるのかもしれないけど、ライブを観てくれたお客さんは基本的に静かで動かない。「墓の前でライブをやっているのか」と思ったこともありましたよ(笑)。だからお客さんがグソクムズのライブを楽しんでもらえているかな、という不安もありました。

でも今は音源とかを聴いてファンになってくれた人も以前より増えたこともあり、いろんな人がライブハウスに来てくれている実感がありますね。すごくノリノリで歓声を上げてくれているお客さんもいる。だから今はライブが好きです。

──僕も何度かライブを拝見いたしましたが、ライブを観ているお客さんはみんな笑顔になっていると思います。グソクムズの音楽って、はっぴいえんどのようなルーツの音楽が好きな人も、まったく知らない人でも楽しめる。それに60〜70年代の音楽になじみのある世代から、今の若者も楽しめる。いわば全方位的に親しみやすいポップスなのではないかと感じます。

この間、両親と一緒に紅白を見ていて。もう70代なのですが、「最近の歌はよくわからない」といっていたんです。だからそういう年齢を重ねた人でも、若者でも。男の人でも、女の人でも。音楽好きでも、音楽好きじゃなくても。日本人でも、海外でも。すべての方々にふわっとつまみあげられるようなバンドであれたらいいなと思いますね。

メジャー1stフルアルバム『ハロー!グッドモーニング!』をひっさげたレコ発ワンマンライブ『グソクムズ ワンマンライブ「ハロー!グッドモーニング!」 』が東京と大阪で開催。5月10日に「梅田シャングリラ」(大阪市北区)で、5月24日に「渋谷クラブクアトロ」(東京都渋谷区)でおこなわれる。料金は4700円(ドリンク代別途要)。