65歳になると、65歳未満の生計維持している配偶者がいる場合、老齢厚生年金に配偶者加給年金が加算されます。今回の人気メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、配偶者加給年金を付ける理由について事例を用いて解説しています。

年金受給者の人には特に関心が高い配偶者加給年金を付ける理由と典型事例 1.65歳になった時に65歳未満の配偶者がいれば誰でも約40万の加算が付くのか。

(以下は夫に加給年金が付く流れで書いていますが、夫を妻に書き換えて考えても構いません)

65歳になると国民年金から老齢基礎年金、厚生年金や共済からは老齢厚生年金が支給されるようになるのが基本となりますが、この時点で65歳未満の生計維持している配偶者がいると老齢厚生年金に配偶者加給年金(令和6年度は408,100円)が加算される場合があります。

年金を貰うという際にはこの加給年金の事がよく話題になります。

なお、加給年金は65歳未満の配偶者がいれば誰にでも加算されるわけではなく、一定の条件があります。

簡単に言うと、

ア.自分の厚年期間(共済期間合わせてもいい)が20年以上ある事。

イ.65歳時点で生計維持している65歳未満の配偶者がいる事。

ウ.65歳未満の配偶者が20年以上の厚年期間(共済合わせて)のある厚生年金を受給していない、もしくは障害年金を受給していない事。

などの条件があります。

よって、配偶者加給年金を受給したいのであればせめて年下の配偶者がいて、自分の厚年期間を20年以上にする必要があります。

厚年期間が20年以上ないのであれば原則としては加給年金は付きません。また国民年金だけの事が多い自営業者の人などには、国年のみの期間が20年以上あってもそのような加算は存在しません。

しかしながらどうして厚生年金は20年以上の期間があると配偶者加給年金という家族手当のようなものが加算されるのでしょうか。

これは昭和61年3月31日までの旧年金時代まで遡る必要があるのですが、旧年金時代の厚生年金の考え方は夫が外で働いて厚生年金保険料を払い、妻は家事をやるという家族の役割分担が色濃い時代でした。

当時のサラリーマンや公務員の夫の専業主婦は国民年金には加入する必要がなく、本来は強制加入なのですが強制加入にはしていませんでした(自分の意思で任意に加入する事はできた)。つまり専業主婦は将来は無年金で構わないという考えでした。

なぜかというと夫が厚生年金を受給するようになれば、その厚生年金で妻の生活費も賄うというものだったからです。

厚生年金は昭和29年改正時に世帯をひっくるめた年金であるという制度になったので、夫が厚生年金を受給するようになった時に妻がいたらその妻の生活費分として加給年金を付けますねという事になりました。

夫婦の老後は夫に支給される厚生年金+加給年金で過ごしてくださいと。

旧年金時代は妻が存在する限り、ずーっと加給年金が付くというものでした。現在は妻が65歳になると加給年金は消滅しますけどね。

ちなみに旧年金時代の厚生年金というのは最低でも20年以上加入しないと貰えないというものだったので(他の年金制度の期間と合わせて25年あれば加入した厚年期間分は貰えたりもできましたが)、その条件が昭和61年4月1日以降の新年金制度になった以降も引き継がれています。

20年以上厚年期間があれば加給年金を付けた厚生年金を支給するというやり方が引き継がれています。

余談ですが、妻が無年金の状態で夫が亡くなったら妻の生活はどうなんの!?と思われますが、そこは遺族年金が支払われるので妻の残りの人生は遺族年金で生活してくださいという流れになっていました。

遺族年金は老後保障の性質も強いので、65歳以降の年金の受給の仕方では老齢の年金と遺族厚生年金の両方を受給するという方法が例外として認められているわけです。


話を戻しますが、昭和61年4月1日からの新年金制度に移行した時に変わった事がありました。

それは妻の年齢が65歳になったら夫の厚生年金に付けた加給年金を消滅させるというものでした。

どうして妻が65歳になったら夫の加給年金(令和6年度は年額408,100円)を消滅させるのでしょうか。

新年金制度はどんな人であれ20歳から60歳までは国民年金の被保険者として、65歳になったら国民年金から個人名義の老齢基礎年金(20歳から60歳までの40年完璧に保険料納めた人の令和6年度満額は816,000円。令和5年度に68歳以上だった人は813,700円)が受給できるようになりました。

昭和61年3月31日までの旧年金時代はサラリーマンや公務員の専業主婦等は国民年金に強制加入させていなかったのですが、そのような人も将来は65歳になったら自分の年金を貰うために昭和61年4月1日からは強制加入としたのです。

もうね、65歳になったら自分の年金として老齢基礎年金を貰いましょうねという事ですね。

旧時代は夫が年金の全てを握っていたので、そうすると妻はお金を自由に使えない危険もありますよね。特に離婚したら妻は何も年金貰えません。

そういう危険性を防ぐ意味でも、昭和61年4月1日以降は国民年金に強制加入にしたわけです。

そうすると妻は65歳になると自分名義で少なくとも老齢基礎年金は受給できるようになるわけです。

であれば妻の生活費分としての加給年金を夫に支払い続ける必要はないですよね。

妻は老齢基礎年金が受給できるようになるし。

そのような理由で妻が65歳になると夫に付いていた配偶者加給年金が消滅するわけです。

配偶者加給年金は年額40万円ほどの大きな額なので、急に無くなるとビックリして「何事か!!」とお怒りになるケースもあります。

まあでもこのような仕組みであり、約40万円も消えてしまうのは痛いですが、同時に妻自身が年金を貰うので世帯収入で見ると増加してるケースが多いです。

老齢基礎年金は満額であれば約80万円で、加給年金は約40万円だからですね。

しかし、過去にあまり年金保険料を支払って来なかったという人は老齢基礎年金が低くなって、加給年金よりも少ない場合もあります。そうすると加給年金貰ってた頃の方が世帯収入が多かったりですね。

あくまで年金は過去の年金保険料支払い期間や額で人それぞれですので…

というわけで、最後に典型的な加給年金受給についての事例を見てみましょう。

2.典型的な加給年金の受給の流れ。

◯昭和34年3月7日生まれのA子さん(令和6年は65歳になる人)

・1度マスターしてしまうと便利!(令和6年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法。

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20歳になる昭和54年3月から国民年金に強制加入となり保険料を毎月納めるようになりました。昭和57年6月までの40ヶ月は納付済み。

昭和57年7月にサラリーマンの男性(昭和35年12月4日生まれ)と婚姻し、A子さんは国民年金に強制加入ではなくなり、保険料を強制的に納める必要はなくなりました。

昭和61年3月までの45ヶ月間は国民年金保険料を納めず(カラ期間にはなる)。

昭和61年4月からはサラリーマンの専業主婦も国民年金の強制加入となり、国民年金第3号被保険者となる(収入要件などあり。令和現在は年収130万円未満。60歳以上又は障害等級3級以上の人は180万円未満である事)。国民年金第3号被保険者は個別に保険料を納める必要はありません。

平成10年12月までの153ヶ月間は3号被保険者とします。

平成11年1月から60歳前月の平成31年2月までの242ヶ月間は厚生年金に加入したとします。

なお、平成11年1月から平成15年3月までの51ヶ月の平均標準報酬月額は25万円とし、平成15年4月から平成31年2月までの179ヶ月間の平均標準報酬額(賞与含む)は37万円とします。

さて、A子さんの年金額をこれで計算してみます。


まず年金記録をまとめます。

・国民年金第1号被保険者として国年納付→40ヶ月

・国民年金第3号被保険者→153ヶ月

・国民年金第2号被保険者として厚生年金保険料を納める→242ヶ月

・サラリーマンの専業主婦だった期間(カラ期間)→45ヶ月

老齢の年金を貰うためには、年金受給資格期間が10年以上ある必要があるのですが、上記の期間を数えると480ヶ月あるので十分に満たしています。

また、厚年期間が1年以上あるのでA子さんの生年月日によると61歳(令和2年3月)の翌月分から老齢厚生年金が受給できます。

・61歳からの老齢厚生年金(報酬比例部分)→25万円×7.125÷1000×51ヶ月+37万円×5.481÷1000×179ヶ月=90,844円+363,007円=453,851円(月額37,820円)

この年金額を偶数月の15日に前2ヶ月分ずつ65歳まで受給していきます。

・65歳(令和6年3月)になると国民年金から老齢基礎年金→令和6年度満額816,000円(令和5年度に67歳までの人)÷480ヶ月(上限)×(40ヶ月+153ヶ月+242ヶ月)=739,500円

老齢基礎年金は20歳から60歳までの被保険者期間で計算し、カラ期間は受給資格期間のみに反映して年金額には反映しません。

なお、60歳から65歳までに任意加入した場合はそれも老齢基礎年金に含めます(最大480ヶ月になるまで)。

老齢厚生年金(報酬比例部分)はそのまま65歳以降も同じ年金を受給します。(他に差額加算というのがありますが微額のため計算を割愛します)

よって、年金総額は老齢基礎年金739500円+老齢厚生年金453,851円=1,193,351円となります。

ところで65歳になった日である令和6年3月6日時点で65歳未満の夫(昭和35年12月4日生まれ)がいましたよね。

この夫は厚年期間が20年以上あり、年収は600万円だったとします。夫自身は64歳になる令和6年12月3日の翌月分から夫自身の老齢厚生年金が受給できます。

A子さんが65歳になった時に夫がいる事による配偶者加給年金は加算されるのでしょうか。

まず夫はA子さんとは住民票が同じとし、年収も850万円未満なので生計維持関係がありとします。A子さんが65歳時点で夫は65歳未満なので配偶者加給年金408,100円(令和6年度価額)が加算されます。月額は34,008円ですね。

そうするとA子さんが65歳になる令和6年3月の翌月分から年金総額は1,193,351円+加給年金408,100円=1,601,451円(月額133,454円)となります。

加給年金は配偶者(夫)が65歳になるまでだから、夫が65歳になる令和7年12月分まで付くのでしょうか。

この場合は夫自身が64歳(令和6年12月)に20年以上の厚年期間がある老齢厚生年金の受給権が発生するので、令和7年1月分以降はA子さんには加給年金が支払われなくなります。

よって、A子さんへの加給年金の支払い期間は令和6年4月分から令和6年12月分までの9ヶ月分である34,008円×9ヶ月=306,072円分は受給できる事になります。

このように配偶者が20年以上の厚年期間(共済期間含む)がある年金を受給できる場合は、必ずしも配偶者が65歳になるまで受給できるわけではないので注意が必要です。

※追記

なぜ配偶者が20年以上の期間のある厚年を受給できると自分の加給年金が貰えなくなるのでしょうか。

これは旧年金時代は厚年期間が20年以上ある事で一人前の厚生年金を貰えたので、配偶者がその一人前の年金が貰えるなら加給年金を停止しますという事に昭和55年改正で決まりました。

昭和55年改正前に年金貰えた人は夫婦揃って加給年金受給という人もいたものです^^

それではこの辺で!

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